人事異動に負けない学校づくりをしていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #53】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第53回は、<人事異動に負けない学校づくりをしていますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

成果をあげていた学校がしぼむ理由

3月は人事異動の季節です。校長先生方にとって、ご自身の異動も気になるところでしょうが、職員の異動によって勤務校が受ける影響も無関心ではいられないことでしょう。何度も異動を経験なさってきた管理職の皆さんなら、異動によって教育活動が活性化したり、逆に、それまで調子よく回ってきたことがぎくしゃくしてしまったりする場面を幾度となくご覧になってきたと思われます。

多くの自治体や学校の教育改善に関わってきた河村・粕谷(2010)は、次のように言います。「よい成果があがったと謳われている研究でも、研究指定校でなくなった現在も実践を継続しているという学校は意外と少数でした。理由は、管理職が代わった、中心になって取り組んでいた教師たちが勤務校を異動した、などで自然とトーンダウンしていったようでした。」これは指定を受けた研究校に起こりがちな断片を表現しています。それまで問題が多く指摘された学校が、力のある職員の赴任によって子どもや地域の信頼を獲得して一目置かれる学校になった例を聞くことがあります。逆に、職員の入れ替わりによって評判のよかった学校が一気にしぼんでしまった例も耳にします。学校が安定的に信頼を獲得し続ける為には、人事異動に負けず、それを活性化のチャンスとする学校経営が求められます。私の周辺には人事異動をものともせず、研究を継続し、成果をあげ続けている学校があります。成果の捉え方は様々あるでしょうが、本稿では研究を継続発展させているという意味としてご理解いただきたいと思います。

そうした学校の一つを仮にA小学校とします。A小学校にはこれまで5年ほど関わらせていただきました。ご依頼が来たときは、クラスの荒れや生徒指導上の問題が多々発生し、教育活動に支障を来しているとのことでした。しかし、研究が進むにつれ、みるみるクラスの荒れや生徒指導上の問題が収まっていったと言います。一日5件くらいあった児童の教室からの飛び出しが、年間5件以下になったと担当は語ります(3年目)。5年間のうち最初の3年間は、年に2回訪問させていただきました。しかし、ここ2年間は新型コロナウィルス感染拡大の影響で、リモートにして年2回の研修を実施してきました。先日そのA小学校で、研究会が実施されました。リモートで授業が中継されるという形でした。そこで見た子どもたちの姿に驚きました。実際に訪問していた頃よりもさらに実践は洗練され、子どもたちが意欲的に学んでいました。担当の先生にあちこちカメラの画角を変えてもらいましたが、映し出されるどの子も積極的に学習に関与していました。

前任の研究主任は語る

研究の成果は子どもの姿だけでなく、各種調査からもうかがえました。学力の状況が改善されているのは勿論、自己に対する肯定的感情(自己肯定感)や学校を楽しいと感じている子どもたちの割合が高いのが顕著でした。研究会を前にして研究主任は異動となりました。しかし、研究はしっかりと引き継がれ結果につながっていました。そこで、以前の研究主任に、継続のために何をしたのか、お聞きしました。お話を元に私なりにまとめてみました。

A小学校は講師活用がとても戦略的でした。私を含め数人の講師を定期的に招聘していました。この5年間に3人校長が代わっていますが、歴代校長たちは「学んだことを日々使わなかったら意味がない、使わないなら講師は呼ばない」と日々先生方を鼓舞したそうです。特に1人目の校長は「校内研修の日常化」を合い言葉にし、毎日のように全学級を巡回し、先生方に指導したり温かな声かけをしたりしていたと言います。退職の置き土産に、招聘した講師の著書を購入し、全職員に配りました。職員はその書籍を元に春休み中に「理論研修」をし、それに基づく模擬授業を体験しました。このような年度初めの取り組みはシステムになり、新任職員に対する知識と技術の共有の機会として定着しました。

また、システムと言えば、1年目は校内研修担当を中心に研究を進める形でしたが、2年目からは先生方の意見を取り入れ、職員を研究の柱に沿って三つのチーム(授業班、学級経営班、インクルーシブ教育班)に編成して分担しました。それぞれのチームのリーダー、副リーダーを中心に実践をまとめ、長期休業時に実践の成果を発表し合って共有化を進めました。このことにより、主体的に研究に関わる職員が一気に増えたとのことです。さらにこの学校には互見授業という習慣のようなものがあり、気軽に他のクラスの授業を見たり、質問したりできる雰囲気がありました。研究を通した共通の取り組みは、先生方の「共通語」となり、コミュニケーションが活発になりました。これが先生方にとっては安心感になり、より研究に積極的になれた要因となりました。最後に、研究主任は「どこの学校でもやっているとは思いますが」と前置きした上で、「2月に成果と課題を確認し、対応策を考え、3月に新年度の計画の共有をしました」と話を締めくくりました。

戦略が戦略として機能するためには、評価と改善が不可欠と言われますが、一般の学校はそこが最も苦手なのではないでしょうか。しかし、A小学校は、そこをキッチリやり次年度に備え、そして新任職員を巻きこんでうねりを創っていくことがシステム化されているところが学校づくりとして秀逸です。研究会後、この学校がどうなっていくのかさらに注目したいところです。現研究主任は言います。「まだ、登山を始めたばかり。」実に頼もしいです。

※ 河村茂雄・粕谷貴志著『公立学校の挑戦 小学校 人間関係づくりで学力向上を実現する』(2010年、図書文化社)

『総合教育技術』2022年2/3月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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