尊敬し合う同僚関係を育てていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #33】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第33回は、<尊敬し合う同僚関係を育てていますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

ミドルリーダーの関心

先日、ある自治体のミドルリーダー養成講座を担当しました。各地域から選抜された将来の管理職候補の皆さんが集まっておられました。グループワークで、現在の課題意識を集約し、それを分類したものに対して、その場で講師が答えます。参加者だけでなく、指導主事の皆さんもとても楽しみにしていて、担当外の方も大勢集まる独特の講座です。2人の講師が掛け合いで答えます。事前打ち合わせ、予定調和一切無しのライブ感に満ちた時間です。3年目になりますが、今回出された課題は、次のものでした。

働き方改革、多忙化について
児童生徒に関わること、学習意欲について
職員室の人間関係、職員室づくり、情報共有について
保護者の対応について
特色ある学校づくりについて
特別支援学校の校内、学外連携について

どれも、切実な問題でした。結局のところ、ミドルリーダーたちができることを考えると、ほとんどの課題が、職員室づくりと関わる話になっていきました。正に、「チーム学校」の問題だったわけです。「チーム学校」は、管理職の皆さんにとって重要な課題であることは当然ですが、ミドルリーダーたちにとっても、関心の高い課題であることは間違いないようです。

最近(2019年)は、神戸で起こったとんでもない出来事(職員同士のいじめ事件)が報道されました。以前から、やんちゃな職員はいたことでしょう。しかし、今回の件は、いたずらやおふざけの範囲を遥かに超えていました。「いじめを見逃した」、「体罰をした」、などもあってはならないことですが、それらとはまた異なった不気味さを纏った事例でした。

大抵こういう話が出ると、「うちの職員室は幸いにして」「うちの職員室では、あり得ない」などと、「自慢めいた」話がSNS上でつぶやかれます。今回もそうした発言をSNSで見かけました。「幸いにして」という言葉から感じられるのは、その偶発性です。職員室の良好な関係性は、偶然の産物なのでしょうか。この件は、最早、職員の熱意や人柄に依存して学校経営が成り立つ時代ではないことを教育界内外に知らしめたのではないでしょうか。組織は、特に職員の人間関係は、意図的につくっていかねばならないのです。しかし、ただ仲がよければいいわけではないでしょう。管理職は、どのように職員の関係性を育成していけばいいのでしょうか。

教師を育てるのは普通の先輩、同僚

ハリー・ウォンとローズマリー・ウォンが著した「世界最高の学級経営 the FIRST DAYS OF SCHOOL -How to be an effective teacher 成果を上げる教師になるために」(稲垣みどり訳、東洋館出版社、2017)をご存知でしょうか。世界で400万部を売り上げたと言われます。これは、邦題には「学級経営」とありますが、いわゆる学級づくりの本ではありません。原題を見ればわかるように、成果を上げる教師(effective teacher)になるため、つまり、教師として成功するために必要なことをまとめたものです。その中に、成果を上げる教師の学び方が書かれています。

1 同僚と協力し合い、学ぶ
2 お手本となるような同僚を探す
3 成長のために研究会に参加する
4 優れた教師となる目標を持っている

これを見ると、教師として成功するためには、やはり、その教師が置かれている環境が大事だということが、世界共通であることがわかります。

職員の人間関係をつくるといっても、管理職が、職員の手と手を取って「さあ、みんな仲良くやりなさい」などとやることは非現実的ですし、それが管理職の仕事とは思えません。管理職がするべきことは、職員を学び合う集団に育てること、そして、そのための環境整備だろうと思います。職員を学び合う集団にするには、校内研修が最も効果的ではないでしょうか。

本誌でも連載をしている(当時)新保元康氏は、学校改善の鍵として次の3つを挙げています※1

1 学校を変える主役は教職員という意識
2 ICTと+アルファのアイディア
3 日常を変える

「日常が変わる」ことが、最もパワフルな改善だと私も思います。日常が変わることが、教職員の意識を変え、そこからICTの活用も含めて様々なアイディアが創出されることでしょう。

教職員の学び合い組織をつくるには、校内研修は、最も日常的で現実的です。今の職員室は、みんな忙しくて互いに何をやっているかよくわかっていません。そんな状況では、お手本となるような同僚が見つかる可能性は低くなることでしょう。

職員室に希望を見いだせない若手は、外の研修会に出てカリスマの話を聞いて、非現実的な妄想のような思いだけをもって、教室に帰ってきます。すると、理想と現実のギャップをより強く感じて意欲を失いがちです。たまに刺激を求めて外に学びに行くのはいいことですが、教師を育てるのは、外で派手な実践をしているように見えるカリスマではありません。隣にいる地味に見えて堅実に子どもたちを育てている先輩であり、同僚なのではないでしょうか。「どんな先生にも、そこに凄い教師が隠れている」そんなことに気付くことができる校内研修システムをつくり、そんな同僚関係を育てることが、最も効果的な職員室づくりではないでしょうか。

※1 新保元康『学校現場で今すぐできる「働き方改革」目からウロコのICT活用術』明治図書、2019

『総合教育技術』2019年12月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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