善悪を子供に教えるには〈後編〉【伸びる教師 伸びない教師 第25回】
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今回は、「善悪を子供に教えるには」の後編です。悪い行為と分かっていてもそれを行ってしまうのは、言葉で分かっているだけ。もっと心に響く工夫をしようという話です。豊富な経験で培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載です。
※本記事は、第25回の後編です。
目次
子供の心に響く工夫をしよう
悪い行いについては、「いじめをする」「人や物を傷つける」「人の嫌がることをする」「物を盗む」「きまりを守らない」など、道徳科の授業や教師の話を通して、人としてやってはいけないという意識を学級全体に広げます。
しかし、小学校低学年でもこれらの行為はいけないことだと、学校で教わる前から知っていることが多くあります。それでもやってしまう原因のひとつとして、例えば「いじめは悪いこと」と言葉だけで理解していることが挙げられます。
そこで、言葉だけでなく子供の心に響かせる工夫が必要となってきます。
時には、担任の教師が自分の経験をもとに子供たちへ真剣に訴えかけたり、時には、道徳科でノンフィクションの教材を使って現実味をもたせたりするなど、多くの教師が子供の心に響かせようと様々な工夫をしています。

なぜ悪い行いなのかを心から説得した出来事
「なぜその行いが悪いのか、教師の思いを伝える」ことも子供の心に響かせるひとつの方法です。
20年以上前、私が6年生を担任していた時のことです。
ある女の子が、突然茶髪で登校してきました。茶色と言うより黄色に近かったと記憶しています。A子は、家庭が不安定で何かと問題のある行動をとっていました。当時は今に比べ大人にも茶髪が浸透していたわけではなく、ましてや小学生の茶髪など許される風潮ではありませんでした。
私が髪を黒く染め直すよう伝えると、A子は私をギッとにらみつけ、
「どうして小学生が茶髪じゃいけないんだよ。先生だって染めているやついるだろ」
と、険しい顔で私に食ってかかってきました。
「校則で決まっているからだめなことはだめ」
そう答えることは簡単でした。しかし、今その答えをA子にぶつけても、この子の心には響かないと感じ、もう一度自分自身に問うてみました。
「私はどうしてこの子の茶髪をやめさせようとしているのか」
そして、出た答えをA子にぶつけました。
「先生は、茶髪が悪いと言っているのではない。これから先、小学生の茶髪が当たり前の時代が来るかもしれない。けれども、今は小学生が茶髪にしていると世間の人から『この子は普通の子と違う』と見られてしまう。それが原因で事件に巻き込まれることもある。A子を世間の人からそんな目で見てもらいたくないんだ。先生が知っているA子はそんな子じゃない。今することは茶髪にすることじゃなく、本当のA子をみんなに知ってもらうことじゃないか」
何とか説得しようと必死でした。
次の日、A子は髪を黒く染め、いつも通り登校してきました。
A子がなぜ髪を黒く染めてきたかは分からないままです。
ただ、「校則だから」と答えたとしたらA子を説得できなかったと思います。
「校則を違反したあなたが悪い」と本人を否定しているだけだからです。
今回の場合、茶髪にしているA子のことを心配だと伝えたことが、髪を黒く染めてきた理由なのではないかと、今になって思います。
その子のことを大切に思う教師の気持ちを伝えることが、子供の心に一番響くのかもしれません。
構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ
※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。
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