自分の内面をくぐってこそ、自分の言葉になる【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #9】
教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第9回「コミュニケーション科」の授業は、<自分の内面をくぐってこそ、自分の言葉になる>です。
言葉への興味関心
目次
知識として得ただけでは、自分の言葉にならない
人類は、相手との意思疎通を図る手段として、言葉を生み出しました。自分の思いや意見を相手に伝え、相手の意見に耳を傾け、よりよい方策を見つけていく言葉は、人類の存続に不可欠でした。言葉の力は、生きる力そのものと言えるでしょう。
新しい言葉に出会うと、人は誰でも使いたくなります。言葉は表現してこそ身につきます。自分の思いや経験という内面をくぐって、初めてその言葉は自分の血となり肉となるのです。
ところが、言葉を自分のものにする経験が乏しい子どもが少なくありません。言葉を単に知識として知っているだけで、子どもたちの身についていないと感じます。何も言葉に限ったことではありません。算数なら公式、社会なら年号など、授業で習ったことが知識として頭に入っているだけで、活用することができないのです。
その大きな要因は、学級の希薄な人間関係にあります。一人ひとり違って当たり前であり、人と意見が異なってもお互いに認め合う。安心して意見を言い合える学級でない限り、言葉をくぐらせる経験はできません。そして、その視点こそが教師自身の授業観、子ども観なのです。正解ばかり求め、誤答をスルーしたりたしなめたりしてプラスにとらえることができない教師がつくる学級では、安心感がある教室は成立しません。
一人ひとりが豊かな言葉を獲得し、自分を表現する。友達との学び合いを通してさまざまな意見や考えを知り、相手を理解する。この繰り返しが、子どもたち自身に自信をもたらし、自分と同じように相手の存在も大切に思う信頼感を育み、温かい学級を生み出していきます。
ふり返りで、子どもたちの奥にある考えを引き出すことが大切
コミュニケーション科の1時間の授業は大まかに、①説明、②活動、③ふり返りの順で進めていきます。
①では、教師はインストラクターの役目を担います。活動を説明する際に、一人ひとり意見が違って当たり前だということや人と意見を区別すること、人の意見を聞いて自分の考えを変えてもいいことなど、根本となる大切な考え方も話し、学級全員で目指す方向性を共有します。
②は、子どもの活動が中心になりますが、全て任せるわけではありません。話し合いの場では「一人ひとり違っていい」「自分の思い・意見を自分の言葉で」が大切であることを、まず教師が話します。さらに、子どものつぶやきやキラッと光った発言を取り上げたり、発表者と周りの子をつなげたりしながら、みんなで練りあげていく道しるべを示すファシリテーターの役目を担います。
そして③では、教師がパフォーマーとして学級の集団関係をつくっていきます。ふり返りは通常、授業終了間際の5分間ほどを使って子どもたちに感想を書かせたり発表させたりする活動が中心となります。ふり返りは学びに向かう意欲や人間関係づくりを育むうえでとても重要です。その場の「楽しかった」経験だけで終えてはいけません。ふり返りこそが、今後の話し合い活動をより活発にし深められるか、教師の指導のあり方が大きく問われる岐路となるのです。
ふり返りを行う前に、周りの友達との関係性を意識させ、友達のよかったところや成長したところ、そういう友達を見て自分はどう思ったか、自分はどうしていきたいかなどについてふり返るようにさせましょう。
さらに、子どもたちの感想や意見が手元にとどいた後も、一通りチェックしておしまいにするのではなく、要所要所で深掘りしていくことが大切です。例えば発表後に、教師が、「Bさん、Aさんの発表をほめていたけれど、もう少し詳しく話してみて」「今、BさんがAさんについて、『話を聞くとき、うんうんってうなずいていた。とても優しい人だと思った』と発表してくれました。『うなずきは優しさだ』というのはすごくいい表現ですね。○組の新しい価値語にしたいと思うけれど、みんなはどうですか?」「Aさん以外にも、『うなずきは優しさだ』に当てはまっていた人はいますか?」などと活動をより掘り下げて質問し、ふり返らせていくのです。感想を書かせると、子どもたちは “友達と話して楽しかった” “またやりたい” という大まかな印象でまとめることが多いですが、さらに尋ねてみると、具体的な活動やその子ならではの表現が出てきます。
私たち大人が考えている以上に、子どもたちは本質をつかんでいることに驚かされるはずです。「何を話しても認めてもらえる」と安心感をもち、「友達はこんなことを考えているんだなあ」「Cさんの意見を聞いて、私もそう思ったから自分の意見を変えよう」と考えを深めていくようになります。慣れてきたら、何人かでふり返りの座談会を行ってもいいでしょう。
このように、教師が深掘り質問をしていくことで、子どもたちの発言は少しずつ鍛えられていきます。自分の思いを相手により伝えるためにどのような言葉を使えばいいか、一つひとつの言葉をより意識するようになる。頭で得た言葉が、自分の内面をくぐって発せられ、自分の言葉となります。このような話し合いを積み重ねることで、学び合う関係が育っていくのです。
実践! 「コミュニケーション科」の授業
令和の川柳づくりでクラスコンテストをしよう
言葉への興味関心
<愛媛県松山市立清水小学校6年1組>
社会情勢がにじみ出る、令和の川柳
菅義偉官房長官(当時)が行った新元号「令和」の発表会見の写真を見せながら、菊池先生が「昨年度から、令和にちなんだ川柳のコンテストが行われました。昨年度の優秀作品を紹介しますね」と1つの句を黒板に書いた。
平成と令和で「平和」の□□□□□
「□□□□□には何が入るか、当てずっぽうでいいから予想してみましょう。ヒントはカタカナ5文字で陸上競技に関係があります」
菊池先生の問いかけに、「『ハードル』かな」「それだと4文字だよ。『ランニング』は!?」「あ、それだ!」と隣同士で相談し合う子どもたち。正解は、バトンパス。「あー、なるほどー」と声が上がった。続けて菊池先生が、今年度の候補作品4つの句を黒板に書いた。
①よちよちと 幼き令和 ころぶなよ
②国勢調査 同居してます□□□□と
③風水害 令和列島 眠らせず
④□□は 部下か上司か 同僚か
②のヒントはカタカナ、④はアルファベット。再び子どもたちが考え、近くの席同士で意見交換。②→アメリカ/マスク/トモダチ/ウイルス、と時勢を反映した鋭い解答、④は少し難しかったようで、ABC/GOD/USAなど、知っている3文字のアルファベットを書く子が多かった。「PTA」と書いた子には、深読みした菊池先生から思わず笑いがこぼれた。正解は、②ロボット、④AI。
「川柳は、ユーモアが入った五七五で表す短詩のことです。みなさんは4つの句の中でどれが好きですか?」と菊池先生が尋ねると、一番多かったのが②、続いて④①③だった。
①を選んだ子
・まだ令和は幼くて、赤ちゃんを連想した
②を選んだ子
・機械が発達して、ロボットが身近にあることがよくわかる
③を選んだ子
・いつ起こるかわからないから、危機感を持つことが大切だと思った
④を選んだ子
・今の時代に合っているし、これからを予言している
意見が出たところで、菊池先生が黒板に〈清水小6年1組 令和記念川柳コンテスト〉と大きく書いた。「それでは、これからみんなで令和を表す川柳をつくりましょう」と声をかけると、子どもたちから「いえーい!」と元気いっぱいの声が上がった。
鋭い視点の川柳が次々と
さっそく4~5人のグループに分かれた。まずは各自で川柳を考え、グループで話し合って1句を決める。すらすら書き始める子、キーポイントになる単語を決めてから考える子、隣からヒントをもらう子、みんな楽しそうだ。
令和初 教師集合 人生一度
「何、これ?」
「だって、たくさんの先生たちが授業を見に来てるし」
子どもたちの会話を聞いていた菊池先生がクスッと笑った。
「どれにする?」
「迷うけど、やっぱりこの句かなあ。安心感っていうのがいいよね」
「そうだよね」
あちこちのグループからにぎやかな声が聞こえる。
1つに絞った句を黒板に書き、その意味を発表した。
●1グループ
安心感 いつでも会える リモート時代
(意味)コロナで直接会えないけれど、今はリモートが発達していつでも会える
●2グループ
令和の力 笑顔と努力で 100倍だ
(意味)笑顔で努力して、令和の力をもっと強くしたい
●3グループ
コロナウイルス マスクと手洗い 毎日一緒
(意味)コロナなので、毎日のマスクと手洗いが必要だと思った
●4グループ
おでかけに ハンカチティッシュと 布マスク
(意味)今、絶対に必要なセットだから
●5グループ
コロナさん 君が活動 自粛して
(意味)コロナが自粛してくれれば、私たちが自粛しなくてもいい
●6グループ
令和の子 考えることを やめない子
(意味)AIを作るのは私たち人間。考え続けることが大切
全グループの発表が終わると、菊池先生が「どれもいい作品ですね」とほめ、6つの中から1句選んだ。多くの子が4グループの句を選び、コンテストの優秀作品が決定した。
菊池先生が黒板に「ことばを大切にし合う学級」と書き、「これからも友達とたくましく頑張り合い、ぐんぐん成長していってください」と授業を締めくくった。
授業後、「いろいろな句が出てきて、自分との違いがおもしろかったし、みんなで話し合っていい句を選ぶのが楽しかった」「最初は少し緊張したけれど、みんなで話し合ううちに夢中になった。菊池先生から、このクラスをもっと成長させるアドバイスをもらえてうれしかった」と感想を話してくれた。
普段の授業で得た知識や、ネットやテレビ、新聞を通じて学んだ社会情勢などの情報をアウトプットすることで、初めて言葉を “自分のもの” にすることができます。子どもたちが作った川柳の一つひとつに、その子らしさがあふれていましたね。
『総合教育技術』2021年1月号より
構成/関原美和子
菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。