つらいことは身近な人へSOS! ~自分でできるプチ「働き方改革」~

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マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
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夏休みあけの学級経営リスタート特集
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小学校教員の「学校における働き方改革」特集!
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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

夏休みが終わり、いよいよ長丁場の2学期の幕開けです。若手教員は、仕事を覚えるのに必死で長い時間をかけてやっているのに、なかなか努力が報われない…と感じたり、長時間働いてもうまく仕事が進められない…と悩んだり、保護者さんからの要望も多いし…と疲れがたまってきます。わたしも若い頃は、ストレスで胃腸を壊し、長い間さまざまな薬を服用していました。そして、どうにか持ちこたえてきた経験があります。だいぶ図太くなってきたことも持ちこたえた要因かもしれないです。ところが、最近は、疲れの質も変わってきています。社会の課題が学校にストレートに入ってきています。そして、保護者の意識や児童の姿がどんどん変わってきています。今までのノウハウではうまくいかないことが増えてきています。なかなかつらいことが多いです。では、どうやっていけばいいのでしょうか。

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

白い丸いテーブルを囲んで情報交換

1 「働き方改革」が進んではいるものの…

民間企業、官公署での長時間労働の末、精神的に追いやられ自死してしまう方も出てきました。深刻な問題です。裁判での管理者の責任問題、賠償の問題も大きな課題になり、政府としてはさまざまな「働き方改革」関連法案を整備し解決を図ろうとしてきました。「さまざまな働き方がある」というメインのコンセプトのもとに、働く人を守っていこうというものです。

教員の世界ではどうでしょうか。OECD(経済協力開発機構)のTALIS(国際教員指導環境調査)の調査でも日本の教員は世界一長時間労働をしている結果が出ています。立派(不本意)な金メダルです。この長時間労働を改善すべく、超過勤務をなくすという大きな目標のもと、さまざまな改善がなされています。精神疾患で休職に追い込まれてしまう教員も多い昨今、深刻な問題としてとらえなければならないです。改善を急がなければならないことはいうまでもありません。改善の大きな視点としては、勤務時間内に仕事を終了させ、ワークライフバランスを保つということに主眼がおかれています。

でも、わたしたち教員は、毎日の教職生活において降りかかってくる難問を日々解決していかなければならないわけです。時間をきっちり、効率よくというだけではおさまらないのです。ここで大切なのは「心の持ち方」です。心を痛め心が病んでしまうと、長時間の勤務以上につらい日々が続いてしまいます。

2 初任者・若手教員に降りかかる難題

ここ十年ほど、初任者や若手教員と向き合って、悩みなどを聞いてきました。いろいろな悩みがありました。実感としては次のようなランキングです。

★第一位 保護者対応がむずかしい
★第二位 学級が落ち着かない(児童のトラブル、課題のある児童への対応)
★第三位 授業がうまくいかない

断トツなのが、保護者対応についてです。わたしが接してきた初任者・若手教員にこんな事例がありました。

学校評価で、「初任の先生が担任だと心もとない。担任を変えてほしい」と書かれた。
連絡表の評価で、「理科が悪いのは先生の教え方が悪いからだ」と強い抗議を受けた。
家庭訪問で、担任する子の姉の担任は客間に通されたのに、自分は玄関に座布団を敷いての対応だった。若い教員は一人前でないからということらしい。相談相手にならないとか…。
電話で、「先生は結婚もしていないし、子どももいないし、子どもの扱い方がわからないのでしょう。なかなかケンカのトラブルを解決できないですね」と言われた。
面と向かって、「先生がんばっているので応援したいんだけど、○○くんがうちの子にしていることでの指導がなされていないのではないですか」と叱られた。
面談で、頻繁な離席や衝動性のことを話したら、「これはうちの子の個性です。先生の指導の問題ではないですか」と反論されて話が行き詰まった。 

以前は、保護者さんから未熟ながらも一生懸命やっているところを認めていただいていました。これから立派になっていくだろうと大きな視点で若い教員を受け入れていただき、共通認識で児童を指導することができることが多かったです。でも、今はもうストレートにご指摘を受けることが多いのです。電話で1時間近くもお叱りを受けることもあります。これでは参ってしまいます。働く時間の削減がなされてきても、気の休まる時間がなければ元も子もありません。

3 SOSを発すること

先に示した保護者さんからのご指摘に関して、だいぶ落ち込んでしまっていた初任者・若手教員に、わたしはこんなことをアドバイスしました。

言われたこと、体験したことを全部まわりの同僚や上司に話すこと
「わたしは結婚もしていないし、子育てもしていないです。ぜひ、保護者の方のお話をお伺いしたいです。参考にさせてください」と話すこと
「力不足で申し訳ございません。全力であたりたいと思いますので、もう少々お時間をいただきたいです」と話すこと

これで、けっこう乗り越えてくれました。落ち込んでいたのに、どんどん笑顔が増えていきました。こうして吹っ切れていく人は、何かあったら職員室で堂々とため息をつき、大声で、「うわあどうしよう。○○○って言われた。もうダメだ」とどんどんSOSを出していく人です。まわりが「どうしたの?」と聞いてくれます。数年を経て、彼は今ではいきいきと教職生活を続けています。
逆に、自分ひとりで悩んでしまい内にこもってしまう人は、なかなか改善に向かいません。ストレスもどんどんたまっていきます。

この事例からわかるように、まず「自分がやらねば誰がやる!」「がんばればどうにかできる!」「わたしはやれる人だ!」という気負いやプライドを捨てることです。そして、まわりにSOSを発すること、まわりの人にどんどん話すことです。これでどうにかなります!

4 いいことも悪いこともまわりに伝えること

働き方改革を進めるにあたり、わたしたち教員ができる最大の要素、それは心の持ち方を考えることです。

こういうことをやっています
こんなふうに児童が変わりました

まず、実践してみる。そして、その実践を音声や文字(学級通信等)でまわりの人々に伝えていくことが大切です。そうするとまわりは評価をしてくれます。励ましてくれたり、認めてくれたりします。アドバイスももらえます。また逆に、

こんな失敗をしてしまった
なかなか児童の指導がうまくいかない

こういったこともまわりに伝えます。マイナス面も隠さないようにします。そうすると、叱咤激励してもらえます。共感もしてもらえるでしょう。なにより吐き出すことで楽になります。やんちゃ坊主たちの指導がうまくいかなかったら、

「わたしは指導力がないですが全力でやっています。勉強もしていますがうまくやれません。助けてほしいです」

とメッセージを発していきます。話していくうちに、なぜか自分で解決の方法がみえてきたり、まわりからいろいろなアドバイスを受けたりすることがあります。

そして、
「ほかの先生や次の担任の先生ならわたしよりうまくやってくれる。わたしはここまでしかできない。ごめんなさい」
と開き直ることも大切です。

つまり、自分だけでなくチームで悩みの解決に取り組むようになると、一人ではないと勇気づけられ、どんどん課題解決に向かえば達成感も出てきます。とにかく、つらいことがあったら、まわりに伝えることです。そこから始めるべきです。

「一人前になる」ということは、自律的に何でもできるということではありません。個人での振り返りを基盤に隣の席の同僚、学年担任団、学校組織全体の助け合いが必要で、そういったことを上手に利用すること、依存先を増やすことが「一人前になる」ということの近道です。

5 「白い丸いテーブル」論

時事通信社の『内外教育』誌で、長期連載をされている小野田正利大阪大学名誉教授は、わが国の保護者対応に関することの第一人者です。学校教育に関わる行政職、管理職、そしてこの課題に興味のある教員はこの連載をかなり読んでいます。小野田氏は多くの著書を出されていて、それぞれの書籍がかなり参考になります。その中の『それでも親はモンスターじゃない!』(学事出版・2015)には、第5章「先生方、がんばらないでください!」というテーマで、「白い丸いテーブル」論(p163)が展開されています。事例としてあげられているのが、十数年前、自死しなくてはならなくなるまで追い詰められた若い教員がいました。彼女が赴任する前には、この「白い丸いテーブル」があり、そこでお菓子をつまみながら、情報交換やいろいろな話をしていたということです。こういった「白い丸いテーブル」を囲む学校、つまり「ギリギリの共同性」をどこの学校でも持つべきであるという提案です。効率性を求め、この「白い丸いテーブル」を廃棄したことは問題があったということです。

数年前に、このことを含めた学校の課題が指摘された冊子が学校に配布されました。啓発を受けた学校も多かったと思います。経験上、児童や教職員が安定した学校には、必ずほぼこういったテーブルがあります。丸くはなく四角が多いですが…。そのテーブルにはベテラン教員が、自分でつくってみたという漬物やジャム、焼いたクッキーやパンなどを置いていってくれます。どこかに行って買ってきたお土産のお菓子なども置いてあると話が弾みます。中間休みや放課後にこんな学校と関係ない話をしていいのかなと思える話題(趣味や町ネタ、家族の話など)で盛り上がり、「ところで最近元気ないけどどうなの?」と悩みがありそうな教員に向けて話していくと、いろいろなことが出てきます。わたしは、この「白い丸いテーブル」があると、特にSOSを発信しやすいと思っています。とにかく効率性、生産性を追い求めるだけではほんとうの「働き方改革」にはなりません。

コロナ禍でなかなか話す環境設定が難しいです。でも、どうにか工夫して無駄な時間を共有し、冗談や軽口をたたき笑い合える職員室風土づくりをしていくべきです。

最近、遠慮がちに「今、話していいでしょうか?」と聞く人が多いです。脇目もふらずに、パソコンに集中して仕事をして時間内に仕事を終了しようという雰囲気が醸し出されているからだと思います。

いいから、いいから! どんどん先輩、同僚、そして上司に話しかけてください!!

助けてもらう、甘える、依存する、たくさんの人とつながる。これが、自分でできるプチ「働き方改革」です。2学期はそこからスタートしましょう!

産休、育休、病気休などでの教員不足の状況が深刻になってきています。業務量が増え、なかなか「働き方改革」が進まないです。でも、あまりに殺伐としては学校が参ってしまいます。極端に言えば、脳天気、鈍感力、きついことを笑いに変える能力などが現代の教員には絶対必要です。前回連載記事で、「変わった趣味、おもしろい趣味」を紹介しました。これもワークライフバランスを考えた「働き方改革」の一つです。今後続編も紹介しますので、ご期待いただければ幸いです。

参考図書:小野田正利『それでも親はモンスターじゃない』 (学事出版・2015)

イラスト/したらみ


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山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、さまざまな分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、さまざまな資格にも挑戦しているところです。

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