【木村泰子の「学びは楽しい」#6】特別支援教育の「目的」って何ですか?

連載
木村泰子の「学びは楽しい」【毎月22日更新】

大阪市立大空小学校初代校長

木村泰子

映画「みんなの学校」の舞台、大空小学校の初代校長の木村泰子先生が、全ての子どもが自分らしくいきいきと成長できる教育のあり方についてアドバイスする連載第6回目。今回は、沖縄の離島伊江島で見た子どもの姿と読者の方の声から、「特別支援教育」の意味を問い直します。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】

執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

イラスト/石川えりこ

リフレッシュできましたか?

この原稿が更新されるのは8月22日、夏休みが終わってしまう頃ですね。学校のことを忘れて存分に自分の時間を楽しめましたか?

2学期の始業式には笑顔で子どもたちを「おかえり!」って迎えてやってください。

伊江島での学び

私は、1学期の終わりに沖縄県の離島伊江島の小学校に2日間行きました。1日目は全学年の子どもたちとそれぞれに授業をさせていただきました。子どもたちは事前に「みんなの学校」の動画を観て、自分なりに感想をもっていました。その思いを授業で自分の言葉にして語り合ったのです。子どもたちはどの子も表情が豊かで、躊躇することなく自分の言葉で語っていました。友達の言葉を尊重しながらみんなが対等に学び合っていて、(普段からこんな授業をされているんだ)と驚きとともに感動しました。この日の子どもたちとの授業は「楽しかった!」の一言でした。

翌日はそれぞれの学年の授業を私が学ばせていただく計画でした。どの教室に行っても昨日一緒に授業をしているので、「ねえ、伊江島に100日泊っていって!」「大阪に私のバアバがいるよ」などと子どもたちが言ってきて、授業中ではありましたが、先生たちも笑顔で温かい雰囲気を感じました。

(いいなあ……。子どもたちがみんな自分を出せるってことは、それだけ安心できる環境がつくられているってことなんだ)、こう思いながら次に案内されたのは「通級」の教室で、そこでは3人の子どもが学習していました。

私が入るなり、この子たちの表情が曇りました。これまでの教室ではどの学年の子どもたちも笑顔でいきいきと言葉を交わしていたのに、まるで私に入ってきてほしくない表情に思えました。昨日の授業で何度も発言して授業を盛り上げていた子どもたちです。一人の子は、私と目を合わすこともなく、一言「オレ 頭悪いねん」とつぶやきました。算数のプリントをしていましたが、ほとんど赤ペンでペケがつけられていました。

昨日の子どもと目の前の子どもとの違いにどのように言葉をかけていいか戸惑ってしまいました。さすがに校長も私も言葉が見つかりませんでした。まさに子どもの事実を突きつけられた瞬間でした。大空小ではほぼ毎日これと同じ状況だったという記憶も蘇りました。

そこから校長や支援担当の先生たちと、今、自分たちが感じた子どもの事実について本音で対話しました。「通級」の目的は何かについて語り合ったのですが、算数の能力の低い子どもには別室で教えることが当たり前になっていて、そのことで子どもがどんな力を得て、どんな力を失っていくかなど、思いが及ばなかったのです。全国の学校現場が抱える大きな課題だと言えます。「昨日のオレと今日のオレは別人やから見ないでほしい。ほんとはオレ頭が悪いねん」と訴えているように私は受け止めました。

気づいたら問い直せばいいのです。そこからの校長の行動は見事でした。「手段」を目的化して、子どもの事実を見ようとしなくなってしまっていた。気づいた今からみんなで「やり直し」をしようと早速行動されていました。伊江島の支援担当の先生から届いた言葉です。

「教員の指導力が子ども同士をつなぐ力であるということを聞き、これまでの価値観が変わった。教師が積極的に支援するのでなく支援の仕方のお手本を示し、子ども同士が支え合う学級をつくれるように力を入れていきたい。」

子どもの事実に始まり、子どもの事実に返すことが教員の研修の目的です。貴重な伊江島での学びでした。

Webの読者の声から

たまたま読者の声を届けていただいたのですが、あまりにもグッドタイミングな内容なので、みなさんご一緒に問い直しませんか。あるセミナーで「みんなの学校」の映画を観られた先生方の対話です。

障害がある子とない子がともに学ぶことは理想だが、「特別支援教育」が必要な子どもには個別にきめ細やかな支援をする学習環境が必要ではないかとの声が多数を占めたそうです。そこで、声を届けていただいた先生が「特別支援が必要とされる子どもの、社会で生きる力って何ですか?」と問いかけ、「親以外とつながることを知らない子どもたちは、親が死んだらどうやって生きていくのか」と言葉を続けられたそうです。

みなさんは、この先生の問いにどんな言葉を返しますか。私は大空小での9年間、子どもたちに教えてもらったのは、この先生の問いに返す子どもの事実でした。計算や漢字を覚えることも大事かもしれません。でも、親と離れて社会で他者と適切に依存し合いながら生きていく力のほうが、比べ物にならないくらい必要です。

これが一人の子どもの学力の上位目標ではないでしょうか。

この先生は「障害」をもつ子どもの親で当事者です。「みんなの学校」の映画とともに全国でさまざまな方々と学ぶ機会をいただいていますが、今の学校現場は二分化されているように感じます。この先生のように「当事者意識」をもって「特別支援教育」を問い直しているか、「子どものため」という言葉で、一人ひとりの子どもの育ちに学ぶことなく制度に子どもをはめ込んでいくかの違いは歴然と子どもの事実に表れます。

日本の学校教育の最大の課題は「当事者意識の欠如」だと、言われるようになってきました。この子が自分の子どもだったら……。教員である前に一人の大人として子どもの事実に学ぶ「先生」になってくださることを願ってやみません。

子どもの学力の上位目標は、社会で他者と適切に依存し合いながら生きていく力を育むこと。大人一人ひとりが当事者意識をもって特別支援教育の意味を問い直そう。

 

※木村泰子先生へのメッセージを募集しております。 エッセイへのご感想、教職に関して感じている悩み、木村先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら、下記よりお寄せください(アンケートフォームに移ります)。

 

きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。

 

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