「学校でいちばん授業が下手な先生」の授業は、どんな授業?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑮】

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全国「授業実践レポート」 取材こぼれ話
「学校でいちばん授業が下手な先生」の授業は、どんな授業?【全国小学校授業実践レポート 取材こぼれ話⑮】

仕事柄、見てみたくなる良くない授業

私の仕事は、基本的に良い授業や良い学校の実践を取材しに行き、紹介することです。そのため、期待を裏切られる授業を見ることがないわけではありませんが、見せていただく授業の多くは良い授業です。期待を裏切られるとは言っても、こちらの期待が大きすぎるという部分もありますし、「これは…」と言葉に詰まるような、ひどい授業を見ることはありません。そのため、時々、「良くない授業を見たいなぁ」という気持ちが生まれたりします。

ただ、それは取材の趣旨とは異なりますから、簡単にできることではありません。そこで、取材の過程での打ち解け具合だとか、取材対象の校長先生の言動を通して、「ああ、この校長先生は、度量のある方だな」「お願いできるかな」と感じた上で、さらに時間的余裕があるときに、こんなお願いをします。

「この学校でいちばん授業が下手な先生の授業を見せていただけませんか?」

ここで言う、「授業が下手」というのは、若い先生の経験不足からくるような、まだまだ伸びる余地のある未熟な授業という意味ではありません。どこかで成長を諦めてしまった、ほとんど成長をしてこなかった先生の授業といった意味のことです。

教育記者歴25年ほどの間で、わずか数回だけしかお願いをしたことがないのですが、何とか人を見誤ったことはなく、その際には必ず、校長先生がその学校で一番授業が下手だと判断されている先生の授業を見せて戴きました。

一方的に進めるチョーク&トークの授業

そこで見た授業のひとつが、2年生の担任の先生の算数の授業でした。

まだ小さな子供たちを前に、その中年の先生は、黒板を背にしてモゴモゴとひとりで話しています。しばらく見ていましたが、低学年の子供の授業なのに、ブロックやおはじきといった具体物は何も使わず、延々、チョーク&トークで一方的に授業を進めていくのです。その教室は、シーンと静まっているのですが、それは子供たちが真剣に聞いているからではありません。すべての子どもたちが机にへばり付いて寝ているような様子でした。

本来なら、元気が有り余る年代で、ああではないか、いやこうだろうと友達と対話したり、黒板に貼り付けられたブロックやおはじきを動かして説明をしたりしたいところでしょう。しかし、先生に厳しく怒られたりするのでしょうか…。誰ひとり立ち上がったり、雑談したりすることもなく、机に倒れこむようにして静かに寝て時を過ごしているという状態です。本当に、全員の頭を撫でて、「君たち偉いな」と言ってあげたい気持ちがこみ上げてきました。

その授業を見た後、校長室に戻って、「まるで成績の上がらないセールスマンの話を聞いているようでした」と切ない気持ちで言ったところ、「実は前職はそのような人らしい」と校長先生は話しておられました。20年前後前職で働いた後、リストラか倒産かは知りませんが、退職後に教員採用試験を受けて先生になられた方のようなのですが、それにしても何年かの間、誰も授業の仕方を教えてあげなかったのだろうかと、悲しい気持ちになりました。

ちなみに、その校長先生の名誉のために言えば、それは年度の始め頃で、その先生は異動してきたばかり。ちょうど、これから指導をしようとしているところだと話しておられました。

概念形成には学びに向かう気持ちが重要

さて、話を戻しますが、他にも私が拝見した「良くない授業」というのは、すべてチョーク&トークの授業でした。

もちろん、チョーク&トークでも、資質・能力を育むことができないわけではありません。実際に、学習指導要領が告示された時にも、多くの関係者が、「教えることがいけないわけではない」と説明しておられました。ただし、見落としてはいけないのは、子供の気持ちが、そのトークに向かっているかどうかです。

今回の学習指導要領では、概念形成を大事にしていますが、概念というのは、「これはこういうものだよ」と誰かに伝えられても形成されるものではありません。「概念は教えられない」という言葉があるように、学ぶ子供自身が、具体物を動かしたり、他者と話をしたり、頭の中でイメージしたりしながら形成していくものです。ですから、子供の気持ちが学びに向いていない状態で、一方的に先生が話をしたり、教えたりしたところで、決して概念形成はできないわけです(特に抽象的思考の難しい学齢の子供たちでは、具体物や対話の比重が重くなるべきなのは言うまでもないこと)。

下手な授業の対極にある授業名人の授業。子供たちが具体物を操作しながら思考を働かせている。
良くない授業の対極にある授業名人の授業。子供たちが具体物を操作しながら思考を働かせている。

そのような、子供自身の状態を抜きにして、チョーク&トークで進める授業。それが私の見せていただいた、「良くない授業」の正体なのでした。

さて、この話を読んでくださった先生は、こんなひどい授業をされることはないでしょう。しかし、子供の学ぶ気持ちを抜きにして授業をしてしまったことはないでしょうか?

【全国「授業実践レポート」取材こぼれ話】次回は、7月29日公開予定です。

執筆/矢ノ浦勝之

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