小6 国語科「聞いて、考えを深めよう」板書例&全時間の授業アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小6国語科「聞いて、考えを深めよう 」(光村図書)の板書例、ワークシート例、発問、想定される児童の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/山梨大学大学院教授・茅野政徳
執筆/福岡教育大学附属福岡小学校・大村拓也
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、「どちらがよいか」といった話題で意見を出し合う際に「相手から聞いたことで自分の考えを整理し、まとめる」という、聞くことに関する資質・能力を育成することを目的とします。
具体的には、聞き手として異なる意見を比較して共通点や相違点を整理したり、似ている考えの中から共感した内容や納得した事例を取り上げたりして、自分の考えをつくりだす力です。
また、二者択一型の話題という教材の特性を生かし、「自分の考え」と「予想される反対の意見」を図化したり、そこから広がる考えの理由や事例を線でつなぎながら自分の考えをまとめたりすることで、図などによる語句と語句との関係の表し方を理解して使うことができるようにしていきます。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
教科書では、賛成・反対の立場から意見を出し合う言語活動を設定していますが、本実践では、「学習では、シャープペンシルを使った方がよいか、鉛筆を使った方がよいか」など二者択一型の話題について意見や提案などの自分の考えを話したり、それらを聞いたりする言語活動を設定します。
自分の考えを提案するためには、自分の考えと異なる考えを比較して検討し、具体的な理由や事例をつくりだす必要があります。このことは、複数の情報を図化などして関係付けながら聞き、自分の考えをまとめる際に有効な手段となるでしょう。
その他の言語活動として、「外国の映画は、字幕がよいか吹き替えがよいか」や「スポーツ観戦はテレビがよいか、競技場で観戦がよいか」などの趣味嗜好を見いだすことができる話題で行う自己紹介に生かす活動や、「学級文庫にまんがを置いてもよいか」などの実際に学級のルールなどの変更につながる話題を生かした話合いの活動なども考えられます。
学級の実態や指導時期などに応じて学級活動などとの関連を図ることも視野に入れ、どのような言語活動を設定するのがふさわしいかを判断してください。どの言語活動でも互いの考えやそれを支える理由や事例を聞く必然性があるため、自分の考えを広げたり深めたりできるはずです。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉 考えの変化を自覚する
主体的な学びを生み出す上で大切なのは、学ぶ見通しをもつことと粘り強く追究をすることです。そのために自分や学級の考えの変化を自覚する場を設定することが必要であると考えました。
本単元では、端末のアンケートフォームを活用します( 5(1)に詳述 )。そうすることで「自分と同じ考えや異なる考えの友達がそれぞれ何%なのか」「一人一人はどのような意見をもっているのか」を可視化することができます。
本単元で取り扱う「学習では、シャープペンシルを使った方がよいか、鉛筆を使った方がよいか」の話題について自分の考えを提案したり聞いたりする言語活動においては、相手の考えや行動の変容に働きかけるために、理由や事例を使って説得する必要があります。このとき、自分や学級の友達の考えの変化を子供たちと共有する場面を単元の中で複数回位置付けることが有効です。
教師が「誰からどのような情報を聞いて、自分の考えをつくっていきますか」などと問いかけることで、子供たちは見通しをもって聞く力を発揮していこうとするでしょう。
さらに、「自分と異なる考えの友達から聞き出した情報を基に、どのような理由や事例で説得していけばよいだろうか」などといった子供たちから出た問いを大切にすることで、繰り返し友達に聞いて理解した情報を基に、粘り強く自分の考えとしてまとめる力を発揮することができると考えます。
〈対話的な学び〉 話し合う相手を選ぶ
高学年「話すこと・聞くこと」において対話的な学びが有効に機能するのは、「予想される反論」や「自分と異なる考え」を想定した意見や提案、質問などが行われている場面だと考えます。そのために、自分と似た考えの友達と集まって考えの説得力を高めたり、異なる考えの友達に提案をしたりなどといった、「話し合う相手を選びながら進める」学習を重視します。
単元の3・4時間目で「学習では、シャープペンシルを使った方がよいか、鉛筆を使った方がよいか」について自分の考えをつくる場面では、お互いの考えを聞き合う活動と提案をする活動を交互に設定しました。この活動の中で、端末の一覧機能を活用してグループや学級全体で共有(5(1)で詳述)します。すると、「誰と聞き合えば自分の考えの理由や事例が深まるか」など話し合う相手を選んで交流していくきっかけをつくることができます。
学習プリントには、自分と似た考えや異なる考えを矢印などで対比的に表現したり、そこから見いだした新たな自分の考えや理由を囲みで強調したりするなど図化することによって、自分の考えをつくりだすことができると考えます。このような自分の考えの変化を記録して蓄積することが大切です。
〈深い学び〉 話し言葉を可視化(文字化)して話合い自体を振り返る
話すこと・聞くことにおいて深い学びに向かうためには、話したり聞いたりした内容が自分の目的や意図の達成につながっていたのかについて、情報を精査し、考えの形成につなげられるようにする必要があります。
そのためには、話し言葉を可視化して、聞きたいことを焦点化したり、自分が話した内容を省察したりする手立てを講じることが重要です。
例えば、5・6時間目では、話した内容を文字化し、聞き手はさらなる質問を、話し手は提案内容を改善していく活動を計画しています。話合いの最中に、端末の音声入力機能を活用し(5(2)で詳述)、話し言葉を文字化させます。この文字化された言葉を基に、「提案内容の何に説得力を感じたのか」や「どのような質問が自分に必要な情報だったのか」など、話合い自体を振り返るとよいでしょう。そうすることで、話し手と聞き手双方の情報を関係付けて、自らの考えを問い直そうとする、深い学びに向かうことができると考えます。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
(1)アンケートフォームと一覧機能を活用して互いの考えを可視化
2・4時間目に行う、実際に自分の考えを提案したり聞き合ったりする活動では、アンケートフォームを活用します。そして、その結果を一覧にして端末画面上(もしくはプリントアウトして板書)に提示します。そうすることで、一人一人の意見の内容や、使っている理由や事例など、互いの考えの共通点や相違点を見いだすことができるでしょう。
また、アンケートフォームによって「学級全体の考えの傾向」を取り、グラフ化して提示すれば、例えば、「はじめは、シャープペンシルを使う立場だったけれど、友達の提案を受けて鉛筆のよさが見えてきた。結果考えが鉛筆を使う立場に変わった。」といった子供たちの考えの変容を可視化することにも有効に働きます。異なる考えの友達に提案する場面でアンケートフォームを使うとよいでしょう。
4・5時間目には、「実際に話合いを繰り返しながら、提案をしたり聞いたりしたことについて振り返る活動」を設定しました。提案者が話し始めるときに音声入力キーを押し、提案終了後にもう一度音声入力キーを押します。すると、話し言葉が文字化されて記録されています。この文字化資料を基に、話し手と聞き手でよく吟味します。
吟味する内容としては、例えば「反対の意見も踏まえた提案になっているから説得力が高かったよ。」といった提案内容のよさ、また「もっと実際の体験談を事例として入れるとよいと思うよ。」といった助言、さらに「このようなことを聞きたくて質問したのですよ。」といった聞き手の意図などがあるでしょう。
このように話し言葉の文字化は、互いの考えを表現・共有し、自分の考えを問い直しながら深めていくことに有効に働く手立てとなります。
(3)動画撮影機能を活用し、自分の考えを蓄積
単元のまとめとなる6時間目には、「自分の考えを動画で記録し、友達の考えと比較し、自分の考えをまとめる活動」を設定しました。
話すこと・聞くことの学習において、端末に話している自分の様子を動画として保存することは、自分がどのような話し方や聞き方を身に付けたのかを客観的に自覚する上で有効だと考えます。その際、動画としてどのような姿を保存していくのかを見極めることが大切です。
本単元においては、「考えを比べながら聞き、自分の考えをまとめる」ことがねらいですので、最終的な自分の考えを撮影する際に、「だれの」「どのような考え」に影響されたのかなど、それまでに使用してきた図を端末画面に示しながら撮影することで、考えが形成されていくプロセスをまるごと記録することができるでしょう。
このように記録した動画を蓄積していくことで、次の単元のスタート時に再度自分の話し方や聞き方を振り返ることができますし、自分の成長の自覚を促すことにつなげることができるでしょう。
本単元では、教師にとっては、子供が発揮した聞くことの資質・能力を総括的に評価するためとして、また子供にとっては、自分の聞くことの力を自覚するための評価資料としてこの動画撮影を位置付けます。
他の位置付け方として例えば、単元の第1時間目と第6時間目に動画撮影を行い、自分の聞くことの資質・能力の変容に気付けるようにするために活用する方法もあるかと考えます。
6. 単元の展開(6時間扱い)
単元名:聞いて、考えを深めよう~学習には鉛筆がよいか、シャープペンシルがよいか~
【主な学習活動】
・第一次(1時、2時 )
① 話題「学習では、シャープペンシルを使った方がよいか、鉛筆を使った方がよいか」に出合い、これまでの自分の経験を基に「試しの話合い」を行う。
② 図を使って、自分の考えとその理由、自分の経験に基づく事例などをつなぎ、話題「学習では、シャープペンシルを使った方がよいか、鉛筆を使った方がよいか」に対する自分の考えを書きまとめる。〈 端末活用(1)〉
・第二次(3時、4時、5時)
③ 同じ立場のグループで、自分の立場の根拠(物の特徴や経験など)を話し合い、自分の考えを書きまとめた②の図に付加・修正する。
④ 話題「学習では、シャープペンシルを使った方がよいか、鉛筆を使った方がよいか」について、異なる立場の友達と話し合う。〈 端末活用(1)〉〈 端末活用(2)〉
⑤ 話合いを振り返り、話合いにおける「話し手の意図」や「聞き手が聞きたかったこと」について話し合う。〈 端末活用(2)〉
・第三次(6時)
⑥ 相手を変えながら話合いを繰り返し、自分と友達の考えを比較し、同じ立場の考えを根拠としてつないだり、異なる立場の考えを想定したりしながら、自分の考えを深め、最終的な自分の考えを話す様子を動画撮影する。〈 端末活用(3)〉
他に
・複数の話題から自分の話し合いたい話題を選び、同じ話題を選んだ友達同士で話し合う。
・お互いの考えの説得力を点数化し、だれのどの考えを聞いたとき、最も自分の考えに影響があったかの評価を話し合う。
などの言語活動も考えられる。
各時の端末活用例、ワークシート例と指導アイデア
イラスト/大橋明子、横井智美