自分の考えを書くのが苦手な子への指導法|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」

連載
沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」

国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

沼田晶弘

独自の学級経営&教科指導で子供たちのやる気を引き出す「ぬまっち」こと、沼田晶弘先生 。今回は、感想やふり返りを書かせるとき、毎回同じようなことを書いてしまったり、書きたいことが全く思い浮かばないなど、自分の考えを書くことが苦手な子への指導アイディアを紹介していただきました。

撮影/下重修

すぐには子供の語彙力は伸ばせない。習慣にすることが大切

「感想」や「ふり返り」など、自分の考えを書くのが苦手な子は、そもそも語彙が少なくて、「自分の言葉」で考えたり、より適切な言葉を使って表現する習慣がないんだよね。

ではどうやって子供たちの語彙を増やせばよいのか。

いろいろなやり方があるけれど、一つ伝えたいのは「どんな方法を取り入れても、すぐに子供の語彙は増えないし、自分の言葉で文章を書けるようになるためには時間がかかる」ということ。

とくに言葉や生活習慣は、一発で改善させる方法なんてない。それこそ毎日日頃から繰り返し指導し、少しずつ「できる」という経験を積み重ねなければ、身につかないものだ。

「習慣」という言葉を辞書で調べてみると、「長い間繰り返し行ううちに、そうするのがきまりのようになったこと」(『大辞泉』小学館)と書いている。

つまり、「長い期間をかけて、ちょっとずつ繰り返し行わせる」ということが一番大事なんだよね。

知らない言葉辞書で調べて貯金する「ワードバンク」

語彙が少ない子には、ちょっとずつその子の中に新しい言葉を入れていくしかない。

いろんな方法があるけれど、ボクが取り入れているのは「ワードバンク」。要するに「言葉の貯金箱」

ボクは国語以外の授業でも「辞書」を使って、わからない言葉があったらその場で子供に辞書を引いて意味調べをさせて、わかった言葉を記録させている。

例えば理科の授業でも、「『観察』って言葉がたくさん出てくるけれど、本当にみんなは『観察』って言葉の意味を知ってる?」と聞いて、すぐにその場で調べさせる。

そして、「知っていると思っていた言葉も調べてみると、実はよく知らなかったことにも気づくよね。だからこれからはどんどん言葉を調べ、意味がわかった言葉を書いて記録して、貯金していこう。貯金が増えれば君たちの言葉がもっと豊かになるよ」と伝えている。

子供たちは専用ノートに自分で調べた言葉がどんどん増えていくのが楽しくて、遊び感覚で辞書を引くようになる。そうやって使える言葉を貯めていく。

さらに、ボクは子供たちに毎日日記を書かせている。つまりインプットとアウトプットを毎日繰り返すことで、知らない言葉を調べて、自分で考えながら使ってみるということを「習慣化」させているんだ。

人気ソングを聞かせて書き起こしさせてみる

辞書を使った「意味調べ」はハードルが高いというクラスの場合は、先生が選んだ曲を聞かせて、その歌詞を書き起こしさせるという取り組みもおすすめだ。

 例えば、人気アニメの主題歌を歌うYOASOBIやEveといったアーティストの書く歌詞は、実は相当難易度の高い言葉がいくつも盛り込まれている。

それでも子供たちは意味もわからず、歌っているよね(笑)。

だから、例えばまず、歌詞を見せずに子供たちに曲を聞かせて、その歌詞を文字に起こして歌詞カードを作らせてみる。すると、わからない言葉はなんとなく気になるから「先生これってどういう意味?」と聞いてくる子が出てくるだろう。そこで意味を教えてあげてもいいし、辞書があれば調べさせてもよいだろう。

そうやって楽しく覚えた言葉を、もし感想やふり返りを書くときに使っていたら、すかさずほめて、価値づけしてあげよう

友達が書いた文章を読み、真似ながら言葉を蓄積させる

「誰かの書いた文章を読む」ということも大事だ。

ボクが作文指導でよく取り入れている、「NGワード」と「ルパンタイム」を設定するのもよいかもしれない。

「うれしかった」「楽しかった」「がんばる」など、ふり返りや感想に子供たちが最も書きたがる言葉を「NGワード」として設定して封じることで、そのほかの表現を考えさせる。

そして、「NGワード」を除いた文章を書かせたら、友達の書いた文章を読み合い、自分の文章に使えそうな表現を盗む(真似をする)時間=「ルパンタイム」を設けてあげる。

友達の文章を読み合いながら、新しい表現を真似ることで、自分の中に新しい言葉を蓄積させることができ、少しずつ表現力も上達していくだろう

「言葉を使いたくなる状況」を設定し、新しい言葉を足してあげる

突然だけど、ボクは学生時代、英語が嫌いだった。思えばなぜあんなに英語の勉強ってつらかったんだろうと考えてみると、いつ使うのかもわからない単語をひたすら覚えなくてはいけないからなんだよね。

でも、実際に海外に留学したときには、必要に駆られて、自分に必要な言葉から一つ一つ調べたり、誰かの真似をしながら覚えようとした。そして気が付くといろんな言葉を上手に使えるようになっていた。

そういうこと考えると、やはり語彙を増やすためには、「言葉を使いたくなる状況」を設定して、一つ一つ新しい言葉を足してあげていくということが重要なんだよね。

少々大変だけれど、辞書をあまり引きたがらないとか、読書が苦手な子も多いので、そういう工夫も取り入れながら、豊かな表現力を身につけさせてあげる必要があると思っている。

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沼田晶弘先生
沼田晶弘先生

沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『板書で分かる世界一のクラスの作り方 ぬまっちの1年生奮闘記 』(中央公論新社)他。 沼田先生のオンラインサロンはこちら>> https://lounge.dmm.com/detail/2955/

取材・構成・文/出浦文絵

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