横田 愛幼児教育企画官⑴|幼児教育は、遊びや生活で発達を促す “環境を通して行う教育” が基本 【教育キーパーソンにインタビュー! 令和の教育課程「その課題と未来」#11】
今秋、今後の日本の教育を考える上で重要な示唆を与える2つの有識者会議が、まとめとなる報告書を出しました。一つは、今後の幼児教育の教育課程、指導、評価等の在り方に関する有識者検討会の最終報告(10月11日)であり、もう一つは今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会の論点整理(9月18日)です。そこで、この連載では、今回からこの2つの議論の進行調整や整理に携わった、文部科学省の担当者にお話を聞いていくことにします。
まずは、幼児教育と小学校教育との接続などについても議論がなされた、今後の幼児教育の教育課程、指導、評価等の在り方に関する有識者検討会の最終報告について、文科省初等中等教育局幼児教育課・横田愛幼児教育企画官にお話を聞きます。
目次
有識者会議における議論の意図や特徴について
横田幼児教育企画官は、まずこの有識者会議における議論の意図や特徴について、次のように説明します。
「小学校就学前の子供が通う主な施設としては、幼稚園、保育所、認定こども園があります。それぞれ学校、児童福祉施設、両方の性格を有するものなど、法的根拠や法的性格は異なりますが、どの施設も幼児教育を行う施設として子供たちに小学校以降の生活や学習の基盤となる資質・能力を育んでいます。
幼稚園、保育所、認定こども園にも小・中・高等学校の学習指導要領と同様に幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領(以下、「3要領・指針」という)があり、全ての子供に質の高い幼児教育を保障する観点から、3要領・指針において教育内容の整合性が確保されています。文科省では、このことも踏まえ、幼児教育センターの設置、幼児教育アドバイザーの育成・派遣、幼保小の架け橋プログラムなど、施設類型を超えて一体的に幼児教育の質向上を図る取組を進めてきました。
今年は、3要領・指針が2018年4月に施行されてから7年目に当たりますが、こうした取組の成果が見られる一方、課題も見られます。そこで、有識者検討会を立ち上げ、幼児教育・小学校教育の専門家や実務家に参画いただき、幼稚園、保育所、認定こども園(以下、「幼児教育施設」という)における3要領・指針に基づく教育活動の実施状況などを把握するとともに、幼児教育の更なる充実に向けて、今後の幼児教育の教育課程などの在り方について議論を行っていただきました。」
その上で、最終報告の第1章について次のように説明します。
「最終報告は、大きく3つの章で構成されていますが、まず第1章では、社会と共有したい幼児教育の基本的な考え方をまとめています。ここで示されている内容はとても重要であり、これまでも3要領・指針等で示されてきているため、幼児教育関係者とは共有されているのですが、保護者、地域、小学校の先生方、ひいては国民の皆様とはいまだに十分に共有できていないのではないかと考えられます。そのため、有識者検討会においては、幼児教育の基本的な考え方について改めて確認するとともに、最終報告の内容としても盛り込まれました。
1.幼児教育の重要性では、『乳幼児の頃からの質の高い教育が…その後の人生において長期にわたって学業達成や職業生活、家庭生活など多面的に良い効果をもたらすこと、特に恵まれない境遇にある子供においてその傾向が顕著であること』が、近年の発達心理学、教育心理学、脳科学、教育経済学など様々な研究成果において明らかにされてきていること、OECD諸国においても様々な幼児教育の改革が行われているところであることなどが書かれています。教育は幼児期からスタートしています。幼児教育が人生の長期にわたって及ぼす影響の重要性に鑑みれば、全ての子供に格差なく質の高い幼児教育を保障することが必要なのです」
幼児が工夫し、気付きを生み出しやすいように意図的・計画的に環境を構成
※幼児教育において、「環境」とは主体としての幼児を取り巻く全ての環境(物的環境、人的環境、広く時間・空間などを含む)のことを指しています。
「2.幼児期の発達の特性では、『幼児期は、幼児自身が自発的・能動的に環境と関わりながら、生活の中で状況と関連付けて生活に必要な能力や態度などを身に付けていく時期である』としています。また、『幼児期の学びは身体の諸感覚を通して対象に関わること』を通して、相互作用の中で成り立つものですから、『この時期に、豊かで多様な体験を十分に行うことができるようにすること』が必要です。これについては、『かつては…大人に教えられた通りに幼児が覚えていくという側面が強調されることもあったが』と指摘されていますが、そうではなく、子供自身が自発的に環境と関わり、生活と関連付けながら身に付けていくことが重要です。幼児期は『自らいろいろなことをやってみようとする活動意欲が高まる時期』でもあり、この時期の子供の意欲や好奇心、探究心などを大切にして育ててもらいたいです。幼児に教育を行うに当たっては、このような幼児期の発達の特性を踏まえて行うことが重要です。
3.幼児教育の基本では、幼児期の発達の特性を踏まえ、幼児教育は『幼児が思わず関わりたくなるような魅力的な環境を意図的・計画的に構成し、幼児が主体性を十分に発揮しながらその環境に関わる遊びや生活を展開することにより幼児の発達を促すという“環境を通して行う教育”を基本』とすることを説明しています。
幼児の遊びには幼児の成長や発達にとって重要な体験が多く含まれており、幼児教育施設の先生は、意図的・計画的に『幼児一人一人の発達を促すためにはどのような体験が必要か』を考えて環境を構成しています。そして、そのような環境の中で幼児は遊ぶことにより資質・能力が育まれていきます。また、「環境を通して行う教育」を行うためには、幼児教育施設の先生が幼児の興味・関心や一人一人の特性、発達などを理解していることが必要になります。
このような幼児教育の特性や先生が有する専門性について、小学校の先生方をはじめ、保護者や地域の方など、より多くの国民の皆様に知っていただきたいと思います。
文科省では、幼児教育の特性などについて普及・啓発を図るための動画を作成しています。文科省主催の各種会議はもちろんのこと、地方自治体主催の研修や幼児教育施設における研修や保護者会などにおいても活用していただいている動画です(資料参照)。
幼児教育を理解していただくための一助となること間違いありません。ぜひ一度ご覧ください」
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今回は、今後の幼児教育の教育課程、指導、評価等の在り方に関する有識者検討会の最終報告の第1章について、文科省の担当者である横田幼児教育企画官に概説をしていただきました。次回は最終報告書、第2章の前半を中心に概説していただきます。
【資料1】 遊びは学び 学びは遊び “やってみたいが学びの芽”(文科省作成YouTube動画)
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之