導入の発問づくり~「ごんぎつね」を例に~【主体的な学びを生み出す 国語科「発問の極意」#1】

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子どもの主体が立ち上がる 国語科 単元別 発問の極意
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子どもたちが自ら学び考える授業をつくるために、教師はどのような発問をしたらよいのでしょうか? 国語指導の達人、筑波大学附属小学校の白坂洋一先生が、発問づくりの極意を全3回の連載で紹介します。第1回目は、4年生の単元「ごんぎつね」を例に挙げて、授業の単元導入における発問について解説します。

執筆/筑波大学附属小学校教諭・白坂洋一

しらさかよういち 鹿児島県出身。鹿児島県公立小学校教諭を経て、現職。学校図書国語教科書編集委員。『例解学習漢字辞典[第九版]』(小学館)編集委員。著書に『子どもを読書好きにするために親ができること』(小学館)『子どもの思考が動き出す 国語授業4つの発問 』(東洋館出版社)など多数。

授業で何を問うか

私たち教師は、授業を構成する際、子どもたちが分かるように、できるようにと願い、発問を考えています。しかし、時にその思いが強くなるがゆえに、教師の側で狭いレールを敷いてしまい、その狭いレールから子どもたちが外れてしまわないように、外れてしまわないようにと授業を進めてしまうことがあります。

そのことが授業の中で顕著にあらわれるのが、

発問の数の多さ

です。発問が多くなれば、多くなるだけ、1問1答形式に陥り、子どもたちはますます受動的になってしまいます。

教師の「教える」を中心にした授業づくりから、子どもの「学ぶ」を中心にした授業づくりへとシフトチェンジする。一言でいうと、教師の教えたいことを子どもたちから「引き出す」という発想で授業を創るということです。そのためにも、教師が「子どもたちは今、どんな状態にあるのか」「まだ見えていない視点は何か」など、子どもの姿をとらえながら、子どもたち自らが解を見出していくことができるように、教師が学びを支えるところに、「学び」の価値はあると考えます。

子どもの主体が立ち上がる発問構成へ

日々、授業実践する中で、私が強くする思いは、

授業で「子どもの主体が立ち上がる」瞬間を創る

ということです。その一つの切り口が発問です。このことを忘れると、授業は子どものもとを離れ、教師だけのものとなってしまいます。

では、どう具体化していけばよいのでしょうか。私は国語科における発問構成を次の4つで考えています。

【導入】  
①学びを生み出す「きっかけ発問」
【展開】  
②問いを引き出す「誘発発問」 
③教科の本質をとらえる「焦点化発問」
【終末】  
④学びを定着する「再構成(再考性)発問」

ここでは単元における発問構成について、全3回で紹介します。

まず、①きっかけ発問は、必要な内容や情報を確認したり、取り出したりすることを意図した発問です。また課題として投げかけることで、単元の学習の方向性を示す発問でもあります。

次に、②誘発発問は、子どもたちの見方や考え方のずれから問いを引き出す発問です。ことばの関係性について、子どもたちの見方や考え方がずれたとき、問題化されます。そのことによって、言葉に対する多面的な見方・考え方が引き出されるようにすることをねらっています。

何がどう問題だったのかが見えてきたところでの発問が③焦点化発問です。

論理構成に着目したり、新たな視点を取り入れたりすることで学びがより一層深くなることを意図した発問です。教師の発問がきっかけとなって、学びが促進することをねらっています。

④再構成発問は、最後に何が言えるのか、次に生かしたい学びは何かなど、学びの過程をふり返ることで、自覚化し、定着することをねらった発問です。

では、今回は具体的に①きっかけ発問を取り上げてみます。

その中で、あらゆる物語教材で使うことができる発問を1つ取り上げます。

「きっかけ発問」で学習を方向づける

物語学習での単元導入時に、初発の感想を書く活動をすることは多いと思います。その目的は何でしょう。一人の読み手として、子どもたちが物語をどう読んだかを教師がとらえるためということもあるでしょう。また、感想に見られる子どもたちの素朴な疑問を出発点として、単元計画を立てるためということもあるでしょう。

しかし、私はこのような初発の感想のあり方について、次のような疑問を抱いています。

・子どもたちの初発の感想は、その後の単元において、生かされているのだろうか。
・初発の感想に見られる子どもたちの素朴な疑問は、本単元における教師のねらいと一致するのであろうか。

私は、子どもたちの自由な初発の感想はその後の単元において多くは生かされず、教師のねらいとは必ずしも一致していないのではないかと考えています。初発の感想を単元導入時で取り入れ、その後の単元に生かそうとする試みには賛同しますが、初発の感想のあり方に関しては、あらためて再考する必要があるのではないでしょうか。

単元導入時における初発の感想は、その後の学習の方向づけを行う役割があると私は考えています。数時間かけて1つの物語を読んでいくのですから、初発の感想を書くことによって、どの場面、どの言葉に着目して読んでいくのか、学びの方向性が指し示される必要があります。だから、「何でもいいから思ったことを自由に書きなさい」という指示で書かれた初発の感想は、その後の単元に多くは生かすことができないだろうし、書く側の子どもたちにとってみても、着目する観点がないなかでは苦痛でしかありません。

そこで、物語における初発の感想のあり方を1つの発問から考え、その可能性を探っていきます。その発問とは、

「この物語で、たった1文だけ残すとしたら?」

です。

単元導入時にこの発問を取り入れた授業実践を紹介します。この発問によって子どもたちが取り出した箇所を紹介し、教材分析の観点から、取り出した箇所が教師のねらいと一致しているのかを検証していきます。

授業実践では、「ごんぎつね」(4年:教科書全社)を取り上げます。

物語から1文を取り出す

本教材「ごんぎつね」は、ひとりぼっちの小ぎつねであるごんが、うなぎのいたずらのつぐないを重ね、最後の場面で、ごんが兵十に撃たれたときに、兵十につぐないをしていたのが誰かを分かってもらえる話です。

子どもたちがそれぞれ選んで取り出した1文は、以下の6つでした。

ア:「兵十のおっかあは、とこについていて、うなぎが食べたいと言ったにちがいない。(略)ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった。」
イ:「おれと同じ、ひとりぼっちの兵十か。」
ウ:「ごん、お前だったのか、いつもくりをくれたのは。」
エ:ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。
オ:兵十は、火なわじゅうを、ばたりと取り落としました。
カ:青いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。

選んだ1文の意見が特に集中したのがウとエでした。それぞれを学級の3分の1ずつの子どもが選んでいました。以下に理由を紹介します。

【ウを選んだ理由】

・会話文の中で一番最後に出てきて、いつもくれていた相手がそうぞうもしていなかったごんだったということを兵十が分かった文だから。
・兵十が真実を知り、ごんに対する気持ちが変わって、感動したから。
・ごんをうってしまったことを悔やんでいる兵十の気持ちが一番出ている文だから。

【エを選んだ理由】

・ごんは兵十にどうしても分かってほしくて、うたれてでも目をつぶったままがんばってうなずいたところに感動したから。
・いたずらのつぐないにくりや松たけをもっていったのは、ごんだったということを兵十に知らせることができたところだから。

ウは「兵十の心情の変化」に、エは「ごんの思いが伝わった」ことに着目して理由を挙げていることが分かります。

では、この問いによって取り出された1文は、教師のねらいと重なりがあるのか、教材分析の観点から詳しく見ていきましょう。

教師のねらいと合っているか

まず、ア~カを場面で分類します。アは2場面、イは3場面、ウ~カは6場面です。

2場面のごんの穴の中での言葉(会話文)は、ごんの兵十への一方的な思い(思い込み)が強くなる箇所といえます。ごんの言葉は6場面の伏線となっていて、事実とごんの想像に分類することで、一方的な思いが強くなることをつかむことができます。

3場面の赤い井戸の箇所は、まさしくイの言葉にごんの兵十に対する思いが集約されています。語り手を観点に、ごんの行きかけた方向を考えることを通して、兵十への強い思いが行動にあらわれていることをとらえることができます。

6場面は、視点の転換があることで、ごんを撃った兵十の内面的な悔恨の大きさが伝わってきます。特に、物語の最後の4文には、ごんと兵十の二重の悲劇性が見出せます。ウ~オは兵十に対してごんの思いが伝わる3文であり、まるで画面が切り替わるように、ごんと兵十の様子が丁寧に描写されています。カは情景描写として、二人の思いが描かれている1文です。

この1つの発問によって、6場面ある長文の中から、教師が授業で教えたい叙述や描写に自然と子どもたちが初読の段階で目を向けたことが分かります。

本実践では、選んだ1文を場面ごとに分類し、どうしてその1文を選んだのか、理由を交流しました。交流する中で挙げられたのが、最後の場面で、ごんの気持ちは伝わったのにどうしてうたれなければならなかったのかという点でした。1つの発問をきっかけとして、課題が明確化、焦点化されたことで、子どもたちには読む目的と学習の方向性が示されたと言えます。(第2回に続く)

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