語彙力ゲームで国語辞典フル活用! 学習の基盤となる国語力を伸ばす【筑波大学附属小学校 桂先生×白坂先生対談】第1回

新学習指導要領には、「どのように学ぶか―主体的・対話的で深い学び―」について明記され、小学校における教育のあり方が変わろうとしています。中でも、すべての教科のベースとなる「国語力」が重要視され、予測不可能なこれからの時代を生き抜く子供たちにとって、「自分の考えを論理的に伝える力」を身に付けることが不可欠になっています。

今回は、2022年度から全国の小学校でも本格導入が始まる「教科担任制」を、すでに全学年で行う筑波大学附属小学校の国語科教諭・桂聖先生と白坂洋一先生に、「国語力」の重要性と、辞書を使った語彙力ゲームによる学習についてお話を伺いました。『例解学習国語辞典[第十一版]』『例解学習漢字辞典[第九版]』(共に小学館)の編集委員も務めるお二人の対談、ぜひ参考にしてください。

桂聖先生・白坂洋一先生
右)桂聖先生
左)白坂洋一先生

桂聖(かつらさとし)筑波大学附属小学校国語科教諭。山口県出身。山口県公立小学校、山口大学教育学部附属山口小学校、広島大学附属小学校、東京学芸大学附属小金井小学校教諭を経て、現職。 光村図書国語教科書編集委員。『例解学習国語辞典[第十一版]』(小学館)編集委員。著書に、『教材に「しかけ」をつくる国語授業10の方法 文学アイデア50』(東洋館出版社)など多数。


白坂洋一(しらさかよういち)筑波大学附属小学校国語科教諭。鹿児島県出身。鹿児島県公立小学校教諭を経て、現職。学校図書国語教科書編集委員。『例解学習漢字辞典[第九版]』(小学館)編集委員。著書に『子どもを読書好きにするために親ができること』(小学館)『子どもの思考が動き出す 国語授業4つの発問 』(東洋館出版)など多数。

理由をうまく伝える力は、すべての教科に共通する

――筑波大学附属小学校では教科担任制を導入していますが、国語科教諭として、子供たちに重要な「国語力」とは何だとお考えですか?

桂先生 「伝える力」ではないでしょうか。学年を問わず、自分の考えをうまく伝えることができない子供たちが増えているように思います。例えば、好きなものについて、「どうして好きか」「なぜなら~だからです」という理由を、うまく伝えられないことが多いですね。理由を伝えることができるというのは、国語科だけではなく、すべての教科に共通する重要な力です。「主体的・対話的で深い学び」が重要視される今だからこそ、低学年から鍛える必要があるのではないでしょうか。

白坂先生 そうですね。伝える力は重要です。さらに、自分の考えを相手にうまく伝えるには、語彙が豊かでなければなりません。言葉をただ知っているだけではなくて、意味をしっかり理解した上で「使える 」 ということが大切ですね。3年生になると授業で国語辞典の引き方を学習しますが、大切なのは、語彙を豊かにする国語辞典の有用性に、早い時期から子供たちが気付くようにすることです。そのためには、辞書が身近に感じられる活動を低学年から始め、それを継続していくことが有効です。国語辞典ではすべての漢字にルビがふってありますから、ひらがなやカタカナを学習した1年生から活用することもできますね。

白坂洋一先生

ゲーム感覚で楽しみながら、伝える力や語彙力を鍛える

――今回、先生方が授業で実践されている言葉遊び「コトバト」では、子供たちが辞書をフル活用していますね。コトバトを仲間と楽しめば楽しむほど、辞書を身近に感じられるのではないでしょうか?

白坂先生 はい。私が担任している2年生では、辞書を使い始めています。初めて辞書に触れる子供たちも多かったのですが、みんなワクワクしながらコトバトを楽しんでいました。また、真剣に辞書から言葉を探す姿が見られました。

コトバト……辞書を使った語彙力バトルゲーム。桂先生と白坂先生がゲーム考案のアドバイザーを務めました。用意するものは、紙と鉛筆と国語辞典。4〜5人の班になって、「お題」にぴったりな言葉を、国語辞典から探し出します。

●コトバトの遊び方

  1. お題を選びます。例えば「かわいいものの言葉」など。
  2. 言葉を探す範囲を、以下の3つの中から決めます。①「『あ』など、頭文字を決めて言葉を探す」。②「『さ行』など、行を決めて言葉を探す」。③「辞書全部から言葉を探す」。
  3. 制限時間の3分以内に、言葉を探します。
  4. 選んだ言葉を、順番に発表していきます。辞書にある言葉の意味と、選んだ理由を発表します。
  5. 投票タイムです。自分以外の誰の言葉が、一番お題にあっているか、その理由もあわせて発表します。もっとも多く票を獲得した子が勝利となります。                  

『名探偵コナン』が楽しいムービーでルール紹介。「コトバト」の紹介ホームページはこちらです。

桂先生 私が受けもつ6年生では、「強いもの」というお題でコトバトを楽しんだ際、「な行」という範囲の中で、「納豆」を選んだ子供がいました。選んだ理由を聞くと、「大好きな納豆を食べたときに、手についたネバネバがなかなか取れなくて、粘りが強いなと思ったからです」と嬉しそうに発表してくれました。この理由を聞いて、「なるほど!」と思いました。実体験から導き出される理由は、いわばオンリーワンの解答です。つまり不正解はないわけで、体験した子供がそう思えば、それが正解です。私は「納豆を食べると、体が強くなる」から選んだのかと思っていたのですが……。そう、正解は一つではなく、発言者の数だけ無数にあるというのが、コトバトの素晴らしい部分ですね。

白坂先生 正解が一つではないことで、「間違っていたら恥ずかしいから発言したくない!」と思っている子供たちにとって、ハードルが低くなり、発言しやすくなりますね。

桂先生 人前で発言することが苦手な子供や、要点をうまくまとめられない子も、自分の体験に基づくものだと、臆することなく発言できるので、「伝える力」を磨くことができます。コトバトでは、他の人の理由付けを聞く場面もあり、「聞く力」をつけることが、さらに「伝える力」を深めてくれると思います。

オンラインでコトバトを楽しむ筑波大学附属小学校6年生と桂先生。「コロナ禍でも、オンランで楽しめるのもよいですね」(桂先生)
オンラインでコトバトを楽しむ筑波大学附属小学校6年生と桂先生。「コロナ禍でも、オンラインで楽しめるのもよいですね」(桂先生)……この動画は下記のリンク先で見られます。

コトバトのルールと実際に遊んでいる様子を動画で紹介! ⇒
「コトバト」やってみた! 桂先生×筑波大学附属小学校6年生編はこちら                                              「コトバト」やってみた! 白坂先生×筑波大学附属小学校3年生編はこちら

開いた瞬間に、興味を引くような仕掛けがある辞書を選ぶ

――先生方は、今回コトバトに使用した『例解学習国語辞典[第十一版]』『例解学習漢字辞典[第九版]』 の編集委員も務めていらっしゃいますが、語彙力を広げていくためには、どんな辞書を選んだらよいでしょうか?

白坂先生 基本語が多く収録されている辞書や、子供たちが思わず開きたくなるような、開いた瞬間に興味を引くような内容が掲載されている辞書がいいですね。私のクラスでコトバトを楽しんだ後に、子供たちは選んだ言葉の隣に、気になる言葉を見付けたり、「これ、おもしろい!」と言って、コラムや表、欄外の情報を熱心に読んだりするなど、自主的に辞書を楽しむ姿も見られました。

桂先生 今回使用した 『例解学習国語辞典[第十一版]』は、全ページオールカラー。写真やイラストも豊富に掲載されているので、絵本や図鑑のように楽しめます。開いた瞬間に視覚に飛び込んでくるので、写真につられて文字も読んでしまう子供たちも多いようです。見出し語が赤と黒の二色使いになっているのも、非常によいと思います。赤い色の見出し語は、小学生のうちに身に付けておきたい、とくに大切な言葉です。見出し語の右上に小さく書かれた数字は学習する学年を表しています。コトバトをする際、まずは、赤い色の見出し語だけを深く学ぶようにすると、効率よく語彙を増やすことができますね。6年生なら赤い色の見出し語すべての中から、1年生なら1と書かれた見出し語のみからというように、学年ごとに範囲を変えて学ぶこともできます。

オールカラーで、コラムや欄外の情報も充実の 『例解学習国語辞典[第十一版]』(小学館)。
オールカラーで、コラムや欄外の情報も充実の 『例解学習国語辞典[第十一版]』(小学館)。

辞書を身近に感じることで、その有用性に気付く

――コトバトで辞書を使いこなすうちに、子供たちの成長を感じる瞬間はありますか?

白坂先生 私のクラスでは、週に一回、子供たちが日記を提出していますが、コトバトを通して、語彙が豊かになってきたのが分かります。それまでは、「うれしい」「たのしい」など一般的で平易な言葉による表現が多かったのですが、例えば、「うれしい」という言葉ひとつとっても、胸が躍るとか、心が浮き立つとか、言葉を置き換えて表現する子供たちが増えてきました。辞書で新しく学んだ言葉を、子供たちは使ってみたくなるんですね。また、私のクラスでは、コトバトで辞書を引く習慣がついたことで、他の教科の場面でも、分からない言葉があると、すぐに辞書が置いてある後ろの棚に行って、調べる子供もいます。辞書の有用性に子供たち自らが気付いたのでしょう。

桂先生 高学年では、「伝える力」が一段階上がったように感じます。普段から、みんなが知らないような言葉を辞書から探して、面白く伝えたいと一工夫する子供たちも出てきました。コトバトを楽しむ中で、「より伝えやすくするには、どうしたらよいか」ということまで、考えるようになってきているのが嬉しいですね。自分の発言によって、相手をうならせたり、相手の反応を見て喜んだりしながら、コミュニケーション能力を高められるのもコトバトのよいところだと思います。

桂聖先生

【筑波大学附属小学校 学習の基盤となる国語力を伸ばす!】シリーズのほかの記事もチェック!
(第2回)言葉遊び、読書で語彙を豊かに
(第3回)「フリートーク」でコミュニケーション能力を磨く   

桂先生と白坂先生が編集委員を務める『例解学習国語辞典[第十一版]』『例解学習漢字辞典[第九版]』(共に小学館)

例解学習国語辞典

例解学習国語辞典[第十一版]オールカラー
金田一京助/偏
深谷圭助、飯田朝子、石黒圭、桂聖/編集委員

例解学習漢字辞典

例解学習漢字辞典〔第九版〕オールカラー
藤堂明保/偏                   深谷圭助、 白坂洋一、 山本真吾/編集委員

『例解学習国語辞典〔第十一版〕サッカー日本代表版』『例解学習漢字辞典〔第九版〕サッカー日本代表版』『例解学習国語辞典〔第十版〕ドラえもん版』も登場! 特設サイトはこちら

取材・文・構成/青木真理 撮影/藤岡雅樹 (小学館)
2021年3月取材

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