子供たちを仲良くさせるチームづくり〜ヒロックの学級づくり①【あたらしい学校を創造する #39】

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あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。

今回は、4月開校後の学校生活の様子についてのお話です。

連載【あたらしい学校を創造する ~元公立小学校教員の挑戦~】
蓑手章吾(HILLOCK諸島部スクールディレクター)

4月の授業の目的

ヒロックにとってこの4月は、開校と同時に学級づくりという大事な場面をダブルで迎えることになりました。学級づくりの様子は教師のみなさんにとっても関心が高いと思います。前回お話しした入学イベントに続き、今回は、4月開校後の学校生活の様子について話します。

どんな4月にするか。4月の授業の目的として、

  • 子供たちが仲良くなる(チーム・ビルディング)
  • 学び場や仲間の文化をつくる

という二つを設定しました。

一応、4月の時間割を組んではみたものの、その通りにキッチリと行うつもりはありませんでした。時間を切り上げたり、時間を延長したりするなど柔軟に対応するつもりで臨みました。それというのも、子供の反応、子供の集中力、時間の使い方などを実際に見てみないと最適解はわからないと思ったからです。

朝から順に話をしていきましょう。まずは朝一番で行う「サークルタイムと瞑想」です。

朝一番の対話と瞑想で自然なリフレクションの機会をとる

「サークルタイム」は学校における朝の時間や帰りの時間にあたるものです。シェルパ(ヒマラヤ登山のガイドを意味する言葉からとった、ヒロックでの教師の呼び名)と子供たちが車座になって軽く話をしてから、1分30秒の瞑想を行います。短い時間ではありますが、子供たちにとっては長く感じる時間です。この非日常の静かな世界の体験が、子供たちに多くの気づきを与えてくれます。それはたとえば「みんなしゃべらないと目を開けたくなってしまう」「目を閉じると怖い」「つい笑ってしまう」などの自分の体の反応についての気づきであったり、直前に聞いた話についての考察であったり、その子によってさまざまです。

瞑想の前にサークルタイムを行うのは、子供たちに自然なリフレクション(振り返り)の機会をもってもらうためです。僕らは学びの中でリフレクションを大事にしています。リフレクションでは教師から「何かを振り返りなさい」と促すよりも、子供たちの側で自然に振り返りを起こさせるのが一番です。サークルタイムに前日の様子や今日の予定を話した上で瞑想することで、自然と自分自身と対話したくなります。かつて公立校にいたときも「瞑想」の時間を持つことを考えたことがありましたが、当時はそんな時間的余裕がなく、導入することはできませんでした。ヒロックで「瞑想」の時間を取り入れられてよかったと感じています。

また、自由進度学習としても、瞑想は有効に感じています。たとえば前の日の瞑想の時間に笑ってしまったとすれば、次は笑わないようにしようとするし、昨日より上手になった友達の成長に気づける。毎日やることだからこそ、自分を含めたそれぞれの成長を感じ取れる時間にもなりました。

「好きなもの紹介」でポジティブなチームづくりにつなぐ

二つめは、火曜と水曜の10時から行っていた「今日の万博紹介」です。これは、子供がひとりずつ、自分の好きなものを発表する時間です。発表者の子が先生役になって、他の子に「なぜそれが好きか」を語るのです。ポケモンカードもあったし、マインクラフトもあったし、人形もあったし、「カタン」などのボードゲームもありました。

シェルパとしての僕の役割は「それはどんなものなのかな。動画とかあるかな。インターネットで調べてみよう」などと、話を膨らませたりインタビューしたりする進行役です。この活動は柔軟に、その子にとってちょうどいい時間になるよう余裕をもって調整しました。

この時間のねらいは、その子の好きなものを通して、その子のことを知ってもらうということです。ヒロックでは、1年生から3年生までの子供たちで異年齢クラスが構成されています。年齢差は3学年ありますが、入学前から顔合わせをしてきたことで、この異年齢集団がフラットな感じになっているんです。互いに何年生かという意識も、上下関係の意識もない。これは僕らのねらい通りなので、いい感触でスタートを切ったと感じています。

自分の好きなものを紹介する「今日の万博紹介」の時間は、そのようなフラットな集団内で自分が他人よりも熟知していることを教えるだけですから、そこに優劣や善悪はないし、ましてや年齢も上下も関係ない。子供たちをかきまぜるという点で、ものすごく効果的だったと思います。好きなものに関する知識や想いだったら誰にも負けないし、それを友達に教えることで、結果全員をハッピーにさせることができると感じてくれたら、自己肯定感も育めます。友達側としても、スゴイと思えればその子へのリスペクトに繋がります。

チーム・ビルディングのための活動として、さっそく良い手応えを感じています。

〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校したオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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