「遠隔教育」とは? 【知っておきたい教育用語】

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備えあれば憂いなし!オンライン授業・ICT活用術

先生が児童生徒と直接対面して指導する「対面授業」だけの時代は終わりつつあります。新型コロナ感染症の拡大でオンライン授業が注目されるようになりましたが、ICTを活用して行う「遠隔教育」には多くの可能性があります。

執筆/大東文化大学非常勤講師・森村繁晴

みんなの教育用語

遠隔教育とはなにか

広い意味での「遠隔教育」には、テレビやラジオ、郵便などを利用した通信教育が含まれています。それに対し、とくに近年は狭い意味での「遠隔教育」がICT利用による「オンライン教育」と同じ意味で使われるケースが増えています。

「遠隔教育」や「オンライン教育」、あるいはこの両者を組み合わせた「遠隔・オンライン教育」には、いろいろなケースがあります。

ICTを利用した遠隔教育は、大きく2つの方法に分けられます。教師と児童生徒が同時参加するのが「同時双方向型」、教師があらかじめ作成した授業動画などを児童生徒が自分の好きなタイミングで視聴するのが「オンデマンド型」です。

文部科学省が2018年9月に発表した「遠隔教育の推進に向けた施策方針」では、「遠隔教育」とは「同時双方向型」を指すものとされています。一方、文部科学省が2021年2月に出した「感染症や災害等の非常時にやむを得ず学校に登校できない児童生徒に対する学習指導について(通知)」では、対面指導が不要な「オンラインを活用した特例の授業」として、「同時双方向型」と「オンデマンド動画」の併用が認められています。

遠隔教育はなぜ必要か

遠隔教育は対面指導が困難な状況でやむを得ずに実施する状況だけでなく、ICTの活用などにより通常の対面指導よりも質の高い教育を目指す目的でも必要とされています。

前者には過疎地・離島の子どもたちや不登校児・病気療養児などへの対応のほか、感染症流行時や災害などの非常時に教育の機会均等を確保するための取り組みが含まれます。後者の例としては、教師が対面指導と遠隔指導を併用する「ハイブリッド化」により、家庭や地域社会と連携した個別最適な学びや協働的な学びを目指す場合などが挙げられます。

現在の状況と主要課題

2020年春のコロナウイルス感染症流行に伴う一斉臨時休業中、同時双方向型のオンライン指導を実施した公立小学校はわずか8%、公立中学校も10%に過ぎませんでした。

そのような状況を受け、児童生徒への「1人1台端末」と学校における「高速大容量の通信ネットワーク」の整備を目指すGIGAスクール構想が、当初予定よりも前倒しで実施されました。しかし、2021年5月18日の文部科学省発表では、全国の64自治体(3.5%)において2020年度内の1人1台端末の納品が完了しない見込みであったことが明らかにされています。

ただし、ICT環境が整っていない家庭があっても積極的にICTを活用した遠隔教育を実施すべきことが、2021年1月の中教審答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」において提言されています。

同答申では、新型コロナウイルス感染症による一斉休業中に一部の学校で「全ての家庭にICT環境が整っていない」ことを理由にICTが活用されない事例があったことに対し、「ICT環境が整っている家庭を対象にまず実施し、そうでない家庭をどう支援するか考える」べきであるとしています。

このようなことから、遠隔教育の充実に向けては、ICT環境の整備に加えて教育現場での意識改革や、教師および児童生徒のICTスキル向上も喫緊の課題といえるでしょう。同時に、遠隔教育における学習評価をどのように行うかも重要な課題です。新型コロナウイルスに関連して遠隔教育を実施する際の指導要録・学習評価等の扱いについては、文部科学省のウェブサイトに最新情報が掲載されています。

「ポストコロナ」時代に向けた取り組み

2020年6月の中教審初等中等教育分科会「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」では、今後のオンライン教育に関する基本的な方針について、感染症収束前の「WITHコロナ」段階と収束後の「ポストコロナ」段階の2段階に分けて示しています。

このうち、ポストコロナ段階の基本方針では「全ての児童生徒」と障害のある児童生徒や不登校の児童生徒など「多様な児童生徒」への取り組み事項を分けて記述し、前者の例として「学習履歴(スタディ・ログ)を活用した個別最適化された学び」の実施、後者の例として「学校で学びたくても学べない児童生徒への遠隔・オンライン教育の活用」の実施などが示されました。

ただし、対面指導における個別最適化された学びと遠隔・オンライン教育における個別最適化された学びは、それぞれの役割を踏まえて議論すべきとの指摘もあります。この点についても今後、実証的な知見にもとづく検討が望まれるところです。

▼参考文献
教育新聞「対面指導とオンラインのハイブリッド化 文科省が提示」(2020年6月)
文部科学省「遠隔教育システム活用ガイドブック 第2版」(2020年3月)
文部科学省「GIGAスクール構想による1人1台端末環境の実現等について」(2020年5月)
文部科学省「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた公立学校における学習指導等に関する状況について」(2020年6月23日時点)
文部科学省「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」(2021年1月)

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