不登校を生まない初期対応【現場教師を悩ますもの】
「教師を支える会」を主宰する“現場教師の作戦参謀”こと諸富祥彦先生による人気連載です。教育現場の実状を説くとともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。
今回も、実際に当コーナーに寄せられた現役教師の声に諸富先生が回答します。
目次
【今回の悩み】不登校傾向の子供がクラスにいます
前の学校で不登校傾向だった子供がクラスにいます。その子がいつ不登校になるか心配です。コロナ禍で家庭訪問などができない昨今、電話対応だけなので大丈夫でしょうか。不登校を生まない学校づくりはどうすればいいのでしょうか。
(公立小学校教諭・40代、教職年数:20年)
新学期や連休明けには関係づくりのエクササイズを
ズバリ言いますと、不登校傾向のある子どもにとって一年で一番危ないのは5月20日前後です。まず、前の学年で不登校があった子は、新学年でも不登校リスクは高まります。でも4月に入ったら、「よし、仕切り直そう」と頑張る子が多いです。頑張ってみて、だいぶ疲れてきて、でもなんとかやっているところで、悪いことにゴールデンウィークの大型連休に入ります。
連休中に不登校だった時と同じような生活を強いられます。そうすると記憶がよみがえってきて、やる気が奪われ、リズムが狂ってきます。長く続いた不登校の生活をもう1回体験させられるわけです。それで気持ちが揺らいで、連休明けは頑張るけれど、だんだん頑張れなくなってエネルギーが切れてきます。また、この時期は体育祭などの大きな行事もあります。心が折れやすくなるのがちょうど5月20日前後なのです。
そこで、この時期に備えてほしいのが、入学式や始業式の直後のエンカウンターです。クラス替えで、知っている子が少ない状態を解消していくために、「質問じゃんけん」をしましょう。好きな食べ物、好きな遊び、好きな色、好きなテレビ、4つのうち一つを選んで、じゃんけんをして勝った人が負けた人に質問していきます。
先生もみんなの前で1人の子と二人組になって「質問じゃんけん」をします。それで盛り上がったあとに、二人一組になって、じゃんけんで勝ったほうが負けたほうに質問をしていく。小学校3年生くらいなら一つのペアは30秒で進めていけるはずです。どんどん質問していって、時間切れの合図でチャリンという音を鳴らしたら、手拍子しながら歩いて次のペアになって、また30~50秒かけて質問じゃんけんをします。
こういったエクササイズには、似たようなものもたくさんあります。たとえばフルーツバスケット系の「なんでもバスケット」。こういうのを新学年になったらすぐにやることです。始業式その日からでもいい。3日くらい連続でやってもいいです。ゴールデンウィーク明けや、5月20日前後にやるのも、不登校の予防になります。
朝起きるのがつらい子供の気持ちをアップさせるには
それでも不登校になりやすい子はいます。先日もある高校生にカウンセリングしたら、やっぱりこの時期、「朝起きたら気怠い感じが戻ってきた」と言うのです。そんな時には、すぐ保護者と連携してほしいです。一番身近で対応できるのは保護者ですから。
まず朝起きるのがつらくなってきます。5月、6月頃になると、朝、起こしてあげても、「体がだるいよ」と言い出します。そういう時、お母さんは「起きなさい、あなたが学校へ行くって言ったんじゃない」と責めるものです。でも、責められると人間はエネルギーを奪われます。こんな時、お母さんは責めるかわりに、「行ける、行ける、行けるよ」とおどけてみせたり、お子さんの好きな音楽を流したり、お子さんの気持ちがアップするようなことをしてあげるといいのです。
マッサージもいいです。甘いお菓子を食べさせてあげるのもよい。糖分は脳の血流をよくします。脳の血流が悪いから起きるのもつらいのです。梅肉エキスも刺激があって脳内血流を良くするのでいいです。こういうことをしてあげればいいのに、多くのお母さんは逆に責めてしまう。怒鳴って責めるとエネルギーを奪います。ここは子どもの気持ちになって、ちょっと元気が出るようなことをしてあげましょう。
お菓子と梅肉エキスと音楽がお勧めです。好きな音楽を流して、お菓子を口に入れてあげて、だめだったら梅肉エキスを口に入れる。すっぱい刺激で目を覚ます。「やめてよー」なんて会話にもなります。子どもも内心わかっていますし、学校に行きたい。だから親は援軍になるのです。責めてもだめ、茶化してもだめです。不登校の子供は毎朝自分と戦っています。その上お母さんとまで戦わせてはだめです。
担任、スクールカウンセラー、保護者の作戦会議が重要
一番大切なのは、担任、スクールカウンセラー、保護者、3人による作戦会議です。まず、以前不登校だった子がいたら、最低でも2週間に1度は作戦会議を行います。1学期の間くらいは続けるのがいいと思います。これは「チーム支援」というのですが、保護者もチームに入れて教師とスクールカウンセラーだけでやらない。親も重要なチームの一員、これがとても大事です。
学校へ行けなくならないようにするためには、欠席は3日までにすることが大切です。4日以上休んで前後に祝日などが入ると9日以上の長い連休になってしまいます。その期間ずっとごろごろしていたら、普通の大人でもだるくなってきます。4日連続欠席は防ぎたいところです。
欠席3日目には家庭訪問をするのが本当はいいのですが、このコロナ禍です。担任にこだわらず、その子と仲の良い人が連絡を取ることがポイントです。スクールソーシャルワーカーでもいいし、相談担当や養護教員、かつて仲の良かった先生でもいいです。その子が一番元気の出そうなスタッフが連絡を取ることです。Zoomで面接もいいです。家にいるのなら十分です。とにかく連続欠席3日目には必ず連絡を取る。これが不登校予防の初期対応の何よりのポイントです。
諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』『教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。
諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/
取材・文/長尾康子