「いい教師」の条件とは?

「教師を支える会」を主宰する“現場教師の作戦参謀”こと諸富祥彦先生による連載です。多くの著書を通して ①多忙化・ブラック化、②学級経営、子供への対応の困難さ ③保護者対応の難しさ ④同僚や管理職との人間関係の難しさ、という「四重苦」が学校の先生を追いつめていると警鐘を鳴らしてきた諸富先生に、教育現場の現状やそれに対する危機感、そして現場教師へのアドバイスについて伺います。
目次
本当にいい教師とは何か
初めまして、諸富祥彦です。「教師の悩み相談」を専門とするカウンセラーとして長年活動してきました。前職の千葉大学教育学部に在職しているころから「この先生はできる」と私が思う先生方と知り合う一方で、教師の悩みを聞く「教師を支える会」を開いてきました。
それらの経験に基づいて、私なりに考える「教師に必要な資質」とは何かを示すために、数年前『教師の資質』(朝日新書)という本を書きました。幸い好評をいただき、そのバージョンアップした本を出してほしいという要望が寄せられました。そんなリクエストに応じて最近出版したのが、『いい教師の条件』(SB新書)という本です。
その本を執筆するうちに、「本当にいい教師とは何か」を考えさせられる事件が発生しました。みなさんご存知の、神戸教員間いじめ暴行事件です。
考えるきっかけとなった「いじめ暴行事件」
これは、社会的影響の大きな事件でした。2019年10月に神戸市の公立小学校で、新卒3年目の25歳(当時)の男性教員が同僚の教員4人から、いじめや暴行を受けていた事件です。
被害に遭った男性教員が、激辛カレーを無理やり食べさせられ、羽交い絞めにされ、カレーを目にこすりつけられる動画が繰り返しテレビで流されました。それは、衝撃的な出来事でした。
事件の発覚後、弁護士による外部の調査委員会が設置され、2020年2月には、加害教員4人による125項目にも及ぶハラスメント行為が列挙された報告書が公表されました。それによると、被害教員は4人いて、125項目のハラスメント行為というのは、加害教員4人が行い、被害教員4人が受けたものの総計です。
以下に、加害行為を報告書より引用してみると……。
- 車による送迎を求め、被害教員が遅れたときに「はよせいやハゲ、ボケ」と言ったり、車の部品を叩いたりした。
- 運動会の準備中に、金槌で釘を打っている時に、わざと被害教員の指を金槌で打った。
- 養生テープで拘束して放置した。
いずれも唖然とするほど悪質で、許しがたい行為です。 しかしこの事件には、「異常な教師が犯した異常な事例」で片づけてしまうことができない側面があると、私は考えています。
実はこの事件には、多くの学校の教員集団の中で生じやすい「歪み」が増幅された形で表れています。つまり、決して「特殊な事例」で片づけていいものではないのです。
私はこの事件を「教員集団の人間関係」でどんなことが生じやすいかを考える上で極めて重要な、「ある種の普遍性を持つ事件」であると考えます。重要なのは、この行為が「教員集団の人間関係の歪み」の中で生まれたことです。