若手教師よ、研究授業で戦うな

校内研究は、勉強熱心な若手教師ほど苦しいかもしれないと、鈴木夏來先生は言います。「教育書を読んだり、サークルで勉強していると、自校の現状に不満が出ます。自分が学んだことのほうが子どものためになると信じ、自校の校内研究のテーマと真っ向からぶつかってしまうのです」でも、その結果は…? ぜひこのアドバイスをお読みください。
執筆/神奈川県教育委員会 神奈川県立総合教育センター 主幹兼指導主事・鈴木夏來

目次
「戦わない」が校内研究の原則
若手教師の場合は、どれだけ勉強していても、思いや主義主張があっても、戦う場にするべきではないというのが私の考えです。
大前提として、研究授業は、個人研究を披露する場ではありません。研究授業は主として、学校の教育目標を具現化するために、校内研究のテーマに沿って行われる授業だからです。
もちろん、個人で研究してきたテーマを研究授業として校内で披露することもありますが、それは主に中堅教師からベテラン教師の研究テーマでしょう。
若手教師が校内研究のテーマとぶつかれば、研究チームの教員からは当然、反発も起きます。管理職から注意を受けるかもしれません。ストレスもたまりますし、とても疲れます。教師の心身の不健康は、クラスの子どもたちにも確実に影響が出てしまいます。
ここは潔く、学校の方針に従うのがよいと私は思います。浮いた時間で、自分の大好きな教材研究や教材準備等に没頭したほうが得策というものです。それが真に子どもたちのためでしょう。
では、具体的にどのように考えれば良いか、私のアイデアをご紹介します。もし、今悩んでいる先生がいたら、ぜひ参考にしてみてください。
研究授業は上のアドバイス通りにやってみる
授業がうまくいかないのは「やり方の問題ではない」ことがほとんど
自分が良いと思っている授業と、他人が良いと思う授業は、そもそも違います。そこに気づくのも勉強です。
言われた通りにやったら失敗すると思う場合もあるかもしれません。しかし、実際にやって、思った通りになったとしたら、「うまくいかない」ということが校内で共有化されます。それが校内研究の意義です。無駄ではありません。
少なくとも、研究テーマに即してやったことなので、それで授業者の評価が下がることはありません。
そもそも、学級経営や授業が上手な先生は、A案でもB案でもうまくいくケースがほとんどです。C案でやってうまくいかなければ、それはやり方がまずいのだとすぐに分かります。
一方、指導力が不足している先生は、どの案でもうまく行きません。やり方の問題ではないのです。
研究というのは、普遍性を追求するということです。
愛情たっぷりの手作り弁当には敵わないかもしれないけれども、「そこそこうまい」コンビニ弁当を追求することで全体としての利益を生み出しているのだ、と考えてみませんか。
制約があるからこそ成長できる
しかし、たとえば、支援や配慮を要する子がクラスにいて、その子らによって授業の進行が変わることが予想される場合。こうした状況について誰よりも知っているのは授業者本人です。
その子たちへの手立てを考え、個別対応にあたるなどする必要はあります。その旨を指導案の展開例に書くなどして対応しましょう。
配慮が必要な子は、変化を嫌います。ハレの日の研究授業だからといって、いつもと違うことをやったりすると、荒れることがあるのは当然です。
例えば、「子ども主体の授業」が研究テーマだとして、子どもの主体性を育むために、担任が子どもの視界から消えるようにすることが大切だとします。
しかし、ある子、仮にX君として、彼にとっては、いつもの先生がいつもの視界に入っていないことは、不安で不安で仕方がないことでしょう。
X君の視界から消えてしまったら、パニックになることは先生は分かっている。でも、視界に入っていたら、研究にならない。
さあ、どうしますか?
先生は考えるでしょう。
【 A案 】
X君が荒れたら、全体の利益を損なう。だから研究テーマは無視して、いつものように子どもの視界に入って授業をする。結果、X君は荒れないで済む。だから全体の利益になる。
【 B案 】
X君が荒れたら、全体の利益を損なう。しかし、研究テーマは学校全体で決めたこと。自分のクラスにとって、リスクが高く、たいへん不本意である。しかし、学校全体で決めたことだから、それを尊重する。自分が視界に入らなくても、ひょっとすると、X君が荒れない方法があるかもしれない。それを探してみる。
いかがでしょうか?
経験則から、A案を採用することは、簡単です。B案のほうが明らかに難しい。リスクが高い。
でも、B案でやって、万が一うまくいったら、全体の利益になるし、X君の利益にも繋がる。担任の先生の力量がますます上がる。
このように考えてほしいのです。
研究テーマは、制約といいますか、共通のハードルのようなものです。一見、面倒なようにしか見えないけれども、ハードルがあるからこそ、教師も子どもも成長するのです。
指導者の中で最も影響力の大きな人を見極める
ところで、「上」って誰でしょう?
学年の先輩、研究主任、教頭・副校長、校長、区市町村の指導主事、県の指導主事、学校教育課長、教育長、区市町村長……。
若手教師にアドバイスをする人は、たくさんいます。そして、それぞれ言うことがバラバラ、ということも「あるある」ですよね。
自分にアドバイスをする立場にいる人たちの中で、一体誰が主導権を握るのか、それは場所やタイミングで異なります。その都度、指導案の主発問や本時展開は変わることがあります。大人の事情というものです。
そこに反発する必要もありませんが、真面目に付き合う必要もありません。そのうち意向が決まりますから、決まったところで、それに従えばよいと考えておけばよいのです。