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若手教員を育成できる学校組織のあり方とは

2019/7/6

新学習指導要領の全面実施を控えて教員の資質能力向上が急務とされています。一方で、ベテラン教員の大量退職と若手教員の急増によって学校の教育力の低下が危惧されており、社会や教育の形の変化に応じた若手教員育成のあり方が、改めて問われています。教師教育の現状と課題を踏まえ、これからの時代に求められる若手育成の考え方について、岩瀬直樹氏に伺いました。

ベテラン先生と若手2人の図

教師の力量向上に必要な2つの視点

教員が専門性を高めていくうえで必要なことは2つあります。

ひとつは技術的な熟達です。教育技術や教育方法を数多く身につけることがスキルアップにつながります。ただ、学校の環境や子どもの実態は千差万別ですから、すべての場面において適用できる方法というものはありません。そのため、方法を身につけていくだけでは行き詰まりが生じます。

学校の共通目的(ビジョン)

学校の共通目的(ビジョン)図

教員は学級や子どもの実態に応じて実践を工夫して力量を高めることが求められ、そのときに必要となるのがリフレクション(振り返り)。これが2つ目です。

事実をもとに実践を振り返り、本当にこれでよかったのかと前提を問い直し、次はどうしようかと考えて実践する「省察的実践」が重要になります。振り返りをしながら実践を重ねていくことで日常的に新しい選択肢を増やしていく必要があるのです。方法の引き出しの数を増やすことは大事ですが、いかにその実践を振り返って自身の力量向上につなげていけるかが、より重要だといえます。

この2点を踏まえると、若手育成において先輩教員が果たすべき役割のひとつは、技術の伝承。もうひとつは、若手が振り返りと実践のサイクルを日常的に行えるように支援することです。

ベテランは若手の授業を見て、どうしても指導をしたくなるものです。ただ、経験を伝えるというのは難しく、指導したことがそのまま力量となるわけではありません。ですから、授業を振り返って「ここをこうしたほうがよかった」という指導の仕方ではなく、「この場面で何を考えていたのか」と問いかけ、本人が気づきを得るための質問を重ねていくことが肝要です。振り返りのための伴走とでも言いましょうか。これを一日に20分でも実践するだけで効果はあるでしょう。短くても適切な時間をとって、そうした場面を少しでも多くつくっていくことが必要です。

職員室を居心地よく気楽に話せる空間に

教員育成の前提として、教職員間のコミュニケーションを豊かにすることも重要です。経営学者バーナードは組織の3要素として以下の3点を挙げており、これを学校組織に当てはめると次のようになります。

・共通目的(ゴールやビジョン)…学校教育目標、校内研究の目的。
・貢献意欲…具体的な行動を通して貢献しようとするモチベーションをもっていること。
・コミュニケーション…メンバーが対話を重ね、学び合い、支え合う関係性がある。

貢献意欲がわくようにするためにも、コミュニケーションを豊かにして、職員室を居心地がよく気楽に話せる空間にすることは不可欠だと思います。これが実現できると、教職員間に学び合い、支え合う関係性が生まれ、若手が先輩に相談しやすい環境が形成されます。

教員の力量を高めるためのアプローチの中で、私が一番の課題だと感じていることは、研究授業のアプローチです。研究授業後の協議会において、授業者に対して方法を指導したり、欠点を指摘したりといったやり方だと、若手は萎縮するだけで、誰も研究授業をやりたがらなくなります。そんな状況で力量が形成されるはずはありませんから、違った形でのアプローチが求められます。

コミュニケーションが豊かになり、教員間で日常的に授業実践の話をする関係性がつくられている状態になって、初めて研究授業もうまく機能します。先輩教員が、若手の「振り返りの伴走」をするようなコミュニケーションのとり方ができるとよいでしょう。そうしたコミュニケーションの文化を職場に生むことが重要です。

コミュニケーション量を増やしたり、対話の文化をつくったりといったことは、遠回りの方法だと感じるかもしれません。どうしても、授業方法を指導したり、勉強会を開いたりといったことを優先したくなるかと思いますが、先を見据えてまずはコミュニケーションを豊かにすることで、1年後の加速度が確実に変わるはずです。

重要なのは、即効性にこだわらず、未来に投資する方向に考え方をシフトすること。いかにコミュニケーションを重視した組織をつくれるかが、これからの時代における若手育成を進めるための鍵になると思います。

先輩教員と若手でともにチャレンジすることが成果につながる

若手育成で成果を上げている実例としては、ベテランも若手も、ともに新しい試みをするように取り組んでいる学校があります。ベテランが若手にどう教えるか考えるのではなく、ベテランも経験したことがない取り組みに、若手と同じ目線でチャレンジしてみるのです。そうすると、先輩・後輩でありながら、「教える」「教えられる」の関係性ではなく、ともに学んで成長していく存在となります。実際に、そのような学校はうまく機能していると感じます。

このように「教える」「教えられる」の関係性をあえて崩すことによって、若手が活性化し、学び続ける先輩教員があこがれのモデルとなり、先輩の姿を見て自ら成長しようという文化が生まれます。若手を育成する立場にある先輩自身がよい学び手であり、自身の姿勢で示すというのは、若手育成の本来あるべき姿です。

今後、教師に求められることそのものが、子どもに教えるための技術を磨くことから、ファシリテーターとして子どもの学びを支援する役割にシフトしていくはずです。そうなると、従来のやり方では新しい学校の形は見えてきません。若手だけでなく、ベテランも新しい教育に向けてシフトしていく必要があるのです。これからの時代に求められるファシリテーター型の教師に変わっていくことを、まずはベテランが実践し、その姿を若手に示すというところから、学校改革が始まるのかもしれません。

管理職・中堅はファシリテーター型リーダーになる

公立学校の校長は、人的資本を整えることは難しいので、関係資本を整えることが特に重要な役割だといえます。繰り返しになりますが、校内のコミュニケーションを豊かにし、教職員同士が学び合う関係性をつくることが大事です。関係資本が豊かになると、意思決定の質が上がります。

そして校長は、若手からベテランまですべての教員にとって、学びのモデルです。校長自身がどう学んでいるか、教員とどう関わっているか、その行動自体がモデルとなります。よく「あり方とやり方」といわれますが、やり方を指導するだけでは人は育ちません。指導する人がどうあるかというのは、常に問われることです。

また、管理職は、直接的に若手を育成するよりも、ミドルを育成することのほうが大きな役割だといえます。そしてミドルに求められるのは、ファシリテーション能力です。若手に対してどんな支援ができるか、どのようなリソースを提供したらよいか、どのような振り返りの伴走をしたらよいかと、若手を育てるためのファシリテーターになるという意識をもち、教授型のリーダーからファシリテーター型のリーダーに変わることが求められます。

他人のやり方をインストールすることはできません。若手が教員としての力量を向上させるためには、自ら学んで実践し、振り返ることで自分のものにすることが必要であり、ベテランやミドルにはそれをいかに支援できるかが問われます。

同様に、教員のモデルであるべき管理職も、支援型のリーダーであるべきだと思います。言うは易しで難しいことではありますが、うまく機能している学校の校長はそれができているという印象です。

岩瀬直樹
一般財団法人軽井沢風越学園設立準備財団副理事長・岩瀬直樹

岩瀬直樹(いわせ・なおき) 東京学芸大学大学院教育学研究科修了。埼玉県の公立小学校教諭として、4校で22年間勤め、学習者中心の授業・学級・学校づくりに取り組む。2008年度埼玉県優秀教員表彰。2015年に退職後、東京学芸大学大学院教育学研究科教育実践創成講座准教授に就任。2018年4月より一般財団法人軽井沢風越学園設立準備財団副理事長。

 取材・文/藤沢三毅(カラビナ)

『総合教育技術』2019年7月号より

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