コロナ禍で疲弊する教員を救う「働き方改革」とは?

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コロナ禍により、学校がこれまでにない対応に追われている中で、教職員の負担軽減のために何ができるか。学校の「働き方改革」に積極的に取り組んできた、横浜市立日枝小学校の住田昌治校長に聞きました。

住田昌治先生

住田昌治(すみた・まさはる) 1980年より横浜市の公立小学校教員となり、2010年より小学校の校長となる。ESD(持続可能な開発のための教育)の推進、学校組織マネジメント、サーバントリーダーシップ、働き方の見直しなどを通じて、元気な学校づくりで注目される。近著に『管理しない校長が、すごい学校組織をつくる! 「任せる」マネジメント』(学陽書房、2020年)がある。

一斉休校で本当に遅れたものは

学校の管理職にとっては、今は日々、安全に過ごすことで精一杯であり、「働き方改革」どころではない、というのが本音でしょう。その気持ちは理解できますが、教員は日々、ストレスや疲労を溜め込んでいます。もしもその中の一人が倒れたらどうなるでしょうか。今は教員が不足していますから、代わりの人は来ないのです。当然、他の教員の負担がさらに増えるでしょう。そしてまた疲弊する教員が増えていく……。そんなことにならないようにするためにも、今こそ教員の働き方を見直す必要があります。

NPO法人「教育改革2020『共育の杜』」の教職員勤務実態調査によると、2020年7月の段階で教職員が負担を感じていた作業は、負担の大きい順に、①校内の消毒作業、②ソーシャルディスタンスの指導、③打ち合わせや会議、④子どもの不安に向き合う、⑤学習の遅れを取り戻す、でした。まずその中の「学習の遅れを取り戻す」について私の考えをご紹介します。

横浜市立日枝小学校では、学習の遅れを取り戻そうとは思っていないのです。100%の内容を、100%の時間で今年度中に終わらせようとして、7時間授業をしたり、土曜日に授業をしたりしている学校もあるようですが、「学習の遅れを取り戻す」ための授業は、やり方を間違えると「こなす」授業になってしまいます。そうなると、誰のための、何のための授業なのかわからなくなります。学習指導要領の改訂は何だったのでしょうか。完全に後戻りしています。

昨年度までと同じように、すべての教育課程を100%やろうとしても、それは無理です。教育課程を編成するのは学校ですから、編成し直せばいいのです。本校では7、8割程度の内容に減らしています(8割程度にするというのは、横浜市の方針でもあります)。ですから、本校の教員は全く焦っていません。

7時間授業はありませんし、土曜日に出勤していません。今年度から小学校の教科書が新しくなりましたが、ある程度経験を積んだ教員なら「こことここは関連させられる」「総合的な学習の時間で関連させられる」と判断できます。軽重をつけながら削っていけばいいのです。

管理職には、立ち止まって考えてみてほしいことがあります。それは、一斉休校になったことで、本当に遅れたものは何か、ということです。それは勉強ではありません。子どもたちの「関係づくり」です。今は子どもたちに、学校で友だちと遊んだり、学んだりすると楽しい、と感じさせてやることのほうが重要だと考えています。

他人事ではなく自分事にする

文部科学省が専門家を集めて会議を行い、アイディアを集めても、教職員の働き方が改善されなかったのは、教職員が自分事として考えてこなかったからだと思います。多くの教員は、文部科学省や教育委員会などが「何かしてくれる」と思っているので、いつまでたっても他人事で「やらされ感」を感じ続けています。働き方の見直しは、トップダウンで進めるべきではなく、「自分たちの働き方は、自分たちで考える」という発想の転換が求められます。

横浜市立日枝小学校ではプロジェクトチームをつくり、そのチームが中心になって、自分たちで楽しみながら、自分たちの職場づくりをしたり、働き方を考えたりしています。「働き方改革」をしようとするのではなく、要は、みんなが楽しく働けるような「働きやすい職場」にすればいいのであり、そのためにどうすればいいのかを、みんなで話し合って決めればいいのです。例えば、早く帰れるようにするにはどうしたらいいのかを、職場のみんなで話し合いながら決めていけばいいのではないでしょうか。

だからといって、画一的に「何時に帰りましょう」などと決めて、全員一斉に帰るわけではありません。何時に帰るのかは自分で決めることです。日によって、早く帰る人もいるし、少し遅くまで残る人もいます。働き方は多様でいいのです。

さらに、自分だけよければいいわけではありません。みんながよくならなければなりませんから、お互いにケアし合うことも必要です。だから、みんなで考えるのです。どんな学校にしたいのか、どんな子どもを育てたいのかを踏まえ、どうやったらみんなが働きやすくなるのか、自分はどんな働き方をしたいのかを考えていくのです。

横浜市立日枝小学校では、一人一人が朝、帰る時間を決めて、それを宣言するシールを貼る、という取り組みをしています。当然、帰る時間は人によって違いますが、その時間から逆算してその日やるべき作業を効率よくこなすことが重要なのです。そして、毎日、勤務時間が終わる時刻には、教員たちが選んだ曲が流れます。曲が流れたら気持ちよく帰るようにしようと、これもみんなで考えて行っていることです。

管理職がするべきことは?

疲弊する教職員を救うために、管理職が今、するべきことは3つあります。1つ目は、やめる、止める、捨てる、つなげる、統合するなどの発想で、業務を見直し整理することです。コロナ禍により、長い間続いてきた学校教育の流れがいったん止まりました。これを元に戻してはいけないと思うのです。むしろチャンスととらえ、学校が今までに抱え込んできたものを見直すことが大切です。

本当に必要なのは何かと考えたときに、教員の主たる仕事は授業をすることです。授業に関すること、準備や評価などは外せません。そこはきちんとやるとして、それ以外のもので、今止まっているもの、何のためにやるのかわからなくなっているものは、やめてもいいと判断できます。

また、学校では子どもが主人公です。子どもの声を聞きながら、学校の計画をもう一度見直すことも必要です。これからは学校運営や計画にも子どもの声をどんどん反映させていくべきです。そうすると、子どものほうからいろいろな提案をしてきます。そうやって、子どもの意見を生かしながら教員が行事などを計画するようにすると、その経験が子どもたちにとっては将来、自分たちで社会をつくっていくときの素地になります。

2つ目は、アウトソーシングできる作業はどんどん外に出すことです。今は、予算はあっても人が確保できない状況だと思うのですが、本校で検討しているのは、知的障害のある人たちが働く作業所との連携です。例えば、学校に入って掃除やいろいろな作業をしてもらうことで、子どもたちには貴重な出会いがあり、その経験が学びにつながります。

3つ目は、事務職員との連携です。校内のお金の流れをすべてつかんでいるのは事務職員ですから、校長、教頭と事務職員は常に情報交換をしながら、どのようなお金の流れをつくるのか、どうやって外部の人に学校に入ってもらうのかを相談していく必要があります。お金をどう使うかは、カリキュラム・マネジメントの重要な部分です。「人が来てくれない」と文句を言っていても始まりません。お金をどう使い、人をどう動かすかを学校として考えていく必要があります。

「働き方改革」は職場のみんなが考えながら進めていかなければならず、そのゴールは自分だけではなく、全教職員、組織全体の「ウェルビーイング」(well-being)です。そして、それを実現するための環境づくりをするのは校長の役割です。

校長は結局、信じて任せるしかないのです。たとえ教職員が話し合った結果、校長が予想していたのとは違う方向へ話が進んだとしても、それを尊重することが大切です。実際に動き出して、うまくいかないことが出てきたら、教職員が再び話し合って修正していけばいいだけです。

もしも教職員が「指示待ち人間」になっているとしたら、それは校長の責任です。校長はきちんと問いを発し、考えさせることを常にし続ける必要があります。

取材・文/林 孝美

『総合教育技術』2020年11月号より

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