外国人児童の指導と支援Q&A

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支援を要する子への適切な対応ポイント記事まとめ
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菊池聡

「保護者への外国語対応、ニュアンスの伝え方が難しい」「生活様式など、日本の学校システムに慣れるのが厳しい子がいる」「日本国籍の子と外国人児童との関係構築の方法がわからない」「学習面でつまずいている子に対し、どこでつまずいているのかを見極める手段、どう指導するのかを知りたい」など、「みんなの教育技術」に寄せられた先生方の多くの声を基に、外国人児童指導のスペシャリスト菊池聡先生にQ&Aの形で指導のポイントを教えていただきました。

菊池 聡●神奈川県横浜市公立小学校教諭。国際教室担当外国人児童が70%を超える小学校2校に勤務後、現職。著書に『〈超・多国籍学校〉は今日もにぎやか!』(岩波ジュニア新書)

外国人児童の指導と支援Q&A

アンケートに現場の切実な声が寄せられました!

Q.外国にルーツをもつ子供の支援や指導について、日頃困っていることがあれば、教えてください(複数回答可)。

Webサイト「みんなの教育技術」アンケート結果(2020年7/14 ~ 8/15実施)

まず気を付けるべきこと

Q クラスに外国人児童が転入してきます。受け入れ時の対応で気を付けるべきことを教えてください。

A 受け入れの段階で通訳を付け、確実な聞き取りを。

最初が肝心です。日本語が苦手な保護者など後からの連絡が難しいこともあるので、受け入れの段階で通訳をつけ、国が示す書類(※)などを参考にして必要事項を確実に聞き取ります。例えば、日本では「氏名」は「戸籍名」と同義ですが、「通称名」がある国も。特に生年月日はよく確認して、受け入れ学年を明確にしましょう。言語の関係で学年を下げる場合は、将来を見据えて保護者と子供とよく話し合ってください。日本滞在歴は高校受験の特別試験と関係する場合があるので、パスポートなどを見せてもらい、学校側で把握しておくことが大切です。

(※)「特別の教育課程」 「個別の指導計画」様式1・児童生徒に関する記録

通訳をつけて確実な聞き取りを

Q 担任として、どんなことに気を付けたらよいですか?

 見通しがもてるよう情報伝達を。学習用具はストックを用意する工夫も。

学習用具はストックを用意する工夫も

教師が無意識にイメージしている「学校生活」とは、自分が受けた「日本の学校教育」です。もしかしたら担任をする子の「学校生活」のイメージは、全く違うのかもしれません。まずは、この差異を想像してみてほしいと思います。そして子供が「日本の学校生活」の見通しをもてるよう、「授業や給食、掃除は、こんな感じだよ。運動会、宿泊学習もあるんだ」など、画像などで具体的な情報を伝えます。

来日直後の保護者は生活に必要なものを買いそろえるだけでも大変です。PTAと協働して、年度末に使わなくなったランドセルや体操着、お道具箱、手提げ袋などを寄付してもらってストックしておき、貸し出す工夫などもあります。

教科指導

「外国人児童にとって参加しやすい授業」とは、どんな授業でしょうか? 教師の心構え、知っておくとよいことを教科ごとに整理してみます。

国語

音読のとき、外国人児童が参加できる方法を考える

教師の口癖や行動は、子供たちの鏡です。例えば、着席順に音読をする「丸読み」の際、「読めないから飛ばす」と「読む順番を入れ替えるなど、読める工夫をする」では全然違います。後者だと、子供たちは、「あの子が参加するためには?」という視点で物事を考えるようになります。「日本語が苦手である」ということを、誰もがもっている「苦手の一つ」ととらえ、周りの子供たちで補い合える集団づくりをしたいものです。

音読のとき、外国人児童が参加できる方法を考える

算数

「算数科AU」などを使い理解しやすい言葉に置き換えを

算数は、外国人児童にとって比較的取り組みやすい教科です。計算など、言葉を媒介としない学習もあるからです。ただ、外国人児童の学習言語(学習活動に参加するための言語)の弱さを考慮し、理解しやすい言葉に置き換える工夫は必要です。文部科学省が示すJSLカリキュラムの算数科では、学習に参加できる「ことば力」獲得をめざし、重要な算数用語を「算数科AU」として提示していますので、参考にするとよいでしょう。

JSLカリキュラム… Japanese as a second language(第二言語としての日本語)のカリキュラム。日本語指導と教科指導を統合し、日本語を母語としない子どもたちが学習活動に参加できるようにするためのカリキュラム開発のこと。
AU…Activity Unit(活動の単位)の略。体験、探求、発信などの活動のこと。AUカードのような形で活用する。

「算数科AU」などを使い理解しやすい言葉に置き換えを

生活科

学校に保護者をお招きし異文化を体感する機会をつくったことも

低学年のうちから、さまざまな国の文化に積極的に触れることはとても大切だと思います。

以前、日本の昔あそびを体験する授業の際、子供たちに「教科書では日本の昔あそびが紹介されているけれど、Aさんの親御さんの国(カンボジア)ではどんな遊びをしていたのかな?」と、呼びかけてみました。すると、「知りたい!」という声が教室から上がり、保護者を学校にお招きし、昔あそびを実演してもらいました。また、その際にカンボジアの「あいさつ」や「数字の数え方」などの言葉も教えていただきました。

こんなふうに外国人児童の保護者の方にご協力をいただいて、一緒に遊んだり、話をしたりという体験はとても貴重です。教科書を使った授業だけではなく、子供が異文化を「体感」できる授業ができるとよいですね。

異文化を体感する機会をつくったことも

その他

アジアの他の国の学校では「勉強すること」が中心!?

来日したばかりの保護者や子供にとっては、体育の授業の様子は珍しいようです。アジアの多くの国の学校では、「勉強すること」が中心で、体育や音楽、家庭科などの教科を履修していないこともあります。たとえ体育の授業があったとしても、遊具やボールを使って遊んだり、走ることが中心だったりするようです。服装も体操服に着替えるようなことはなく、みんなが同じことを一斉に行うような集団行動も行われていないことが多いようです。

スポーツは万国共通言語のように思われがちですが、オリンピック競技にないようなもの(ドッジボール、マット運動、跳び箱など)は、全く経験したことがない子もいるのです。このような知識を「知っておく」だけでも、外国人児童の学校生活に対する「とまどい」に、担任として寄り添えるのではないでしょうか。

学級経営

学級経営には、雰囲気づくりが不可欠です。そうは言っても「指導」だけでは難しい雰囲気づくり……。担任ができることとは?

Q 外国人児童がクラスになじめません。どうしたらいいですか?

 その子の特徴をキャッチして「輝ける場面」を担任がつくる。

外国人児童にとって、母語や文化の異なる学校生活は、私たちには想像できないほどの緊張感やストレスがあるようです。そんな心に寄り添い、ストレスを緩和して「心の居場所」をつくることを心がけてほしいと思います。

また、私は外国人児童が「主」で話ができるような場面を意識してつくってきました。例えば、「母国では図工の時間はなく、切り絵の時間があった」という子に出会ったときは、授業で切り絵をしました。その子が、切り絵が上手だったからです。「餃子の皮は、自作が当たり前」という子に出会ったときは、餃子作りをしたこともあります。こういった時間は、「周囲の子が育つチャンス」でもあると考えています。日本人だけであれば画一化してしまいがちですが、学級の中に異文化を体現している友達がいれば、「一人ひとり、違うことが当たり前。お互いの特徴を、お互いに認め合おう」といった雰囲気を学級の中につくりやすいからです。

大切なことは、担任が「外国人児童を輝かせたい」という気持ちをもっておくこと。毎日の何気ない生活の中から、一人ひとりの子が輝いている瞬間、輝ける瞬間を見逃さないこと。そこで少し機転を利かせて、その子が「輝ける場面」を担任がつくることで、学級全体の学びにつながると思います。

切り絵…「得意」を披露できると、友達の「見る目」が変わる。
餃子作り…「食」は、ダイレクトに「すごい!」が届きやすい分野。

Q コロナのことで中国人の子がいじめられています

「武漢からの恩返し」の話を子供たちに伝えました。

漢からの恩返し」の話を子供たちに伝えました

勤務する横浜市には中華街もあり、多くの中国人が住んでいます。そこで、次の話をしました。「日本政府は武漢に住む日本人を迎えに行く飛行機に、マスクや防護服などの支援物資を積んだ。この対応は、中国の人々の心を動かし、SNSには感謝の言葉があふれた。その後、日本でマスクが不足したときには、『武漢からの恩返し』と書かれた段ボールを抱えた中国人が、街中でマスクを配っていた。この行為に、日本に住んでいる多くの中国人が賛同したそうだ」

「この話を聞いて、みんなは、どう思う?」と、子供たちに投げかけてみました。担任は、それぞれの子供の心に向き合うことが大切です。

保護者との連携

言葉が通じない外国で、子育てをする。「もし、自分がそうだったらどうだろう?」ということを、一度イメージしてみてください。それだけで、見えてくる世界が違うのでは?

Q 保護者との連携のポイントを教えてください

 持ち物連絡は写真や絵図を駆使する。行事の連絡は「早め」を心がける。

図工や生活科などで使用する用具・道具のような日頃の持ち物の連絡は、言葉だけでは理解が困難なことも多いようです。学年だよりに、写真や絵図を入れてていねいに説明します。ただ、ていねいに伝えても、「行き違い」はあり得ます。例えば、遠足のお弁当が「お弁当箱だけ」(中身は空)だったことがありました。説明も大切ですが、こういったことが起こり得ることを知り、遠足の出発前には、担任が子供の持ち物の確認をするといった配慮も必要です。

また、仕事が「シフト制」の保護者も多いので、行事の連絡は早めが大切です。お手紙は少なくとも1か月前までには配付しましょう。

Q 価値観や感覚が違う親とどうコミュニケーションをとればいいのですか?

「先生の日」がある国も。根気強くメッセージ発信を!

近年、来日する方が多いベトナムや中国では、「先生の日」という日が設定され、保護者や子供が感謝の気持ちを表します。つまり、先生は特別なもので、保護者が学校に行く習慣もないので、「全てお任せ」といった感じになってしまうようです。また、日々働くことに精いっぱいで日本語を学ぶ余裕がなかったり、日本の学校システムがわからず、気後れがあったりする保護者もいます。

教師としては、「子供の育ちを支え合う」という共通目標を保護者と確認し合いながら、教育に積極的に関わってほしいというメッセージを根気強く発信し続けたいものですね。

少数派側の「当事者」として思考をしてみることから始めよう

「外国人児童への指導の原点は?」と問われて思い出すのは、私が香港の日本人学校に赴任をしたときのことです。言葉が思うように話せず、生活習慣も違う……。そんな私を、香港の方は、とても温かく迎え入れてくれました。

このとき、初めて「多数派ではなく、少数派の側である」という経験をして、見えてきたことがたくさんありました。

誰の中にも、必ず「少数派である部分」はあると思うのです。その部分の痛みを、きちんと意識してみること。「自分だったら、どうだろう?」と、当事者の側になって考えてみること。それが外国人児童の子を理解し、指導や支援をする第一歩なのではないでしょうか。

取材・文/楢戸ひかる イラスト/畠山きょうこ

『教育技術 小一小二』2020年12月号より

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