「3密」ピンチをチャンスに変える特別活動

特集
新型コロナ対策:新しい授業と学級づくりの知恵、続々更新中!

「3密」の中にあって、学校行事をはじめ特別活動の時間を中止または縮小する動きがあります。楽しく有意義な学校づくりのために、コロナ下でも特別活動に前向きに取り組む学校をレポートします。

屋外学校行事

学校における集団の学習や活動の意味とは

新型コロナ禍が学校にもたらした問いは何でしょうか。それは、学校のあり方です。なぜ学校で学ぶのでしょうか。なぜ集団で学ばなければならないのでしょうか。これまで当たり前だと思っていたさまざまな学習や活動の意味が問われたのです。

学校があるから、子供たちが学校に来るのではありません。子供たちは学校が楽しくてたまらず、友達と一緒にいたいから、学校に集うのです。学校に行きたくない子供にとって、学校再開はうれしいでしょうか。自宅学習が続いてくれたほうがはるかによかったはずです。

「3密」で活動ができなくても、ピンチを創造のチャンスとして捉え、知恵を絞って、特別活動による学校づくりや学級づくりに邁進した学校があります。

今回ご紹介するのは、いずれも、「3密」時代に求められる学校のあり方を模索した学校ばかりです。

3密の中でも工夫してできる「ミニ運動会」

鳥取県八頭町立こう げ東小学校

5年生から6年生に賞状を授与しました
5年生から6年生に賞状を授与しました

これは、5年生が6年生にサプライズプレゼントとして贈る集会活動です。

5月に開催されるはずの運動会は、地域とともに行うこともあって、「3密」を避けるために中止になりました。

ところが、5年生から、「行事がなくなり、寂しい」「6年生は小学校生活最後の運動会がなくなり、残念に思っているだろう」という声が上がりました。5年生は「6年生のために何かできないか」と考え、「6年生に最高の思い出をプレゼントしよう」という議題が生まれ、5月に行われた学級会で6年生にミニ運動会をプレゼントすることが決まりました。その学級会では、ミニ運動会の準備から実行まで担任の力を借りないことも決めらました。

ミニ運動会で行う演技は、「水汲みリレー」「玉投げ合戦」です。これは、「6年生が本気になり、満足できる」「6年生全員が笑顔になる」「『3密』を避け、5、6年生がより多くの場面でかかわれる」という自分たちが考えた条件にあてはまるものとして生み出されました。

当日のプログラムは、①初めの挨拶、②ラジオ体操、③水汲みリレー、④玉投げ合戦、⑤賞状の授与、⑥記念撮影、⑦終わりの挨拶、となりました。5年生担任の河崎美華教諭はこう語ります。

「6年生が心から喜んでくれました。後日、6年生は5年生にペットボトルに入ったお礼の手紙を靴箱に置いて贈りました。活動の振り返りを見ると、誰かのためにと考えて、自分たちができることを学級みんなの力で行うことについてやりがいや達成感を感じていることがわかりました。」

ペットボトルに入れたお礼の手紙を靴箱に置く児童
お礼の手紙を入れたペットボトルを5年生の靴箱に入れる6年生たち

谷口敏明校長はこう考える

谷口
谷口敏明校長

本校では、特別活動を基幹として学校教育を推進し、「学び合い 人間関係を深め 自分たちで生活をつくる東っ子の育成」をテーマに「つながる子(人間関係形成)、うみだす子(社会参画)、やりぬく子(自己実現)」を育てようと研究に邁進しています。

この取り組みの成果が、新型コロナ禍におけるさまざまな活動に表れました。その1つが、中止となった運動会の代わりに5年生が提案、計画、運営を行った「ミニ運動会」の開催です。

子供たちや教職員には、自分たちで生活をつくろうという意気込みがあります。

感染症対策により、さまざまなことが規制され、閉塞感を子供たちも感じている今だからこそ、人とつながろう、みんなが楽しくなることを生み出そう、やり抜こうとする子供たちを育てることが大切ではないかと考えています。

5年生担任の実践に対する思い

河崎美華教諭
河崎美華教諭

「何事も縮小したり中止したりすることは簡単です。しかし、社会がこのような事態になっていることを逆手にとり、何か自分にできることを見出す能力が、これからの社会を生き抜く上で必要になると考えています。
5年生には、『誰かのために自分は何ができるか』を問い続け、貢献力をつけていくことで、最終的に自己の成長や自信につなげてほしい。そのように考えて今年度の学級経営を行っています。」

3密の中でも工夫してできる「地域のお祭り」

福岡市立かたかす小学校

灯明祭り

灯明まつり
灯明まつり

これは学校、地域、保育園等が製作した数百もの灯明を運動場に並べて点灯し、幻想的な風景を鑑賞して楽しむ地域行事です。自治協議会主催で行う予定でしたが、今年度は、6年生に活躍の場を与えるために、6年生が企画運営する文化的行事として10月に実施することになりました。

まず事前に校長が地域とPTA役員会に説明し、協力体制をつくりました。次に6年生担任が原案をつくった上で委員長会議に提案し、了承を得ました。総合的な学習の時間を使って取り組むことにしました。

子供たちは、昨年の状況や地域の要望の収集、分析から始め、灯明のデザイン、宣伝ポスターづくり、材料の発注、関係機関の説明などの諸活動を探究的な学 習の中で行います。

夏祭り

夏祭り

6年生が運動場に店を出店し、下級生だけでなく、保育園の子供たちも招待して一緒に楽しむという活動です。異年齢交流活動に代わるものとして、9月に行いました。6年生が他の学年との仲を深めることと、夏祭り気分をともに楽しむことが活動の目的です。

「3密」対策として、①店と店の間隔を十分に空けること、②並ぶ場所を養生テープで示すこと、を行いました。

他にも、マスクが不足していたとき、6年生が1~3年生のためにマスクをつくる活動や、遊具などの消毒のために用務員が忙しいことを知った6年生がすべ ての学級に備えてある扇風機を掃除する活動を行いました。

野口博明校長はこう考える

野口博明校長
野口博明校長

本年度、福岡市では早々と運動会や自然教室が中止になりました。しかし、逆境のときこそ、新しいものが生まれるのではないかと考えます。特別活動を「やれない」ではなく、「工夫してやる」という方針を、教職員、保護者、地域の方にいち早く打ち出しました。具体的には、小学校生活最後となる6年生が活躍できる場を年間5回以上実施することを伝えています。

地域との結びつきが強いのが本校の特色です。子供たちと学校のためにPTAと地域の方が立ち上がり、学校でできなくなった「自然教室」「観劇会」「昔遊び」「親子で雑煮づくり」などを地域行事として校区にある堅粕人権まちづくり館で「3密」対策を施した上で実施していただくことになりました。特別活動を行っていることで、地域が学校を助けるというサイクルが表れているのだと思います。

6年生担任の実践に対する思い

衣笠郁教諭
衣笠郁教諭

6年生は1学級しかありません。6年生担任の衣笠郁教諭はこう話します。

「6年生の子供たちには、『卒業するとき、身に余るほどのありがとうの言葉をもらうだろう。人から感謝の言葉をもらって恥ずかしくないような学校生活を送ろう』といつも語りかけています。6年生が活躍する場面を1つでも多くつくり、子供たちに成長してもらいたいと思って取り組んでいます。」


取材・文・写真(一部)/高瀬康志

『教育技術 小五小六』2020年11月号より

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