保護者の「見えない」不安を解消するコロナ時代の保護者対応術

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今年度は保護者会や家庭訪問などが中止になった学校も多く、オンラインで面談を行うなど、保護者とのコミュニケーションのとり方も様変わりしています。コロナ時代、保護者とどう連携をとればよいのか、保護者対応のプロが解説します。

執筆/新潟大学附属長岡小学校教諭・畠山明大

コロナ時代の保護者対応術
イラストAC

「見えない」という不安

「本当に3密は回避できているのでしょうか」
「学校には通わせたいけれど、感染が……」
「学習の遅れは取り戻せるのですか?」
「学校行事がなくなって子供がかわいそう」
「クラスターになったら、また休校ですか?」
「オンライン授業を子供だけでは不安です」

新型コロナウイルス関連のニュースが毎日のように報道され、学校でも感染防止対策が進んでいます。そのような中で、冒頭にご紹介したような保護者からの不安や要望が、みなさんの学校にも寄せられているかもしれません。

例えば、「勉強の遅れが心配」「行事が中止で勉強ばかりはかわいそう」……。

このような不安が保護者から寄せられたならば、学校はどのように対応すればよいでしょうか? ある保護者からは「勉強して!」と言われ、もう一方からは「勉強漬けにしないで!」と言われているのです。どちらの保護者の言い分もよく分かりますから、悩むところです。

学校に寄せられる保護者からの不安は、一見バラバラに見えて、実は根底で共通しています。

それは、「見えない」ということです。

学習参観や学校行事で来校する機会が減りました。これは保護者にとって大きな不安材料です。なぜならば、わが子の様子をこの目で実際に見られないからです。「百聞は一見に如かず」と言いますが、担任の先生がどんなに学校の様子を伝えようとも、実際に見ることには遠く及びません。ましてや、わが子が家に帰ってきて、「コロナで学校が楽しくない」とか、「運動会が中止になって勉強ばっかり」などと不満を漏らせば、保護者が心配するのは当然です。

来校機会の現象によりわが子が「見えない」

さらに、保護者にとって、もう一つの「見えない」があります。それは、学校での「新しい生活様式」が見えないということです。保護者はこれまで、自身の小学校時代を思い出しながら、わが子の学校生活をある程度イメージすることができました。しかし、新型コロナウイルスによって学校生活は急激な変化をしました。保護者が経験したことのない学校生活を、わが子は過ごしているのです。ですから、学校生活が見えないのです。つまり、もう一つの「見えない」とは、保護者が経験したことのない学校生活はイメージしようがないということなのです。

保護者が経験したことのない「見えない」学校生活

不安→ 安心のための三つのポイント

保護者にとって「見えない」ことによる不安が増す中、その不安を少しでも和らげ、安心に変えるためにはどうすればよいでしょうか。ポイントは三つです。

  1. 子供のポジティブな言動
  2. 「量・質・時期」を意識した情報発信
  3. 聴いて不安の本質を見極める

三つのポイントについて、詳しく説明していきます。

① 子供のポジティブな言動

「学校が楽しくない」「コロナのせいで…」といった子供のネガティブな言葉や態度は、保護者にとって非常に心配です。当たり前ですが、子供たちが「学校楽しい!」と言ってくれることが最大の安心材料です。では、どうするか? ズバリ「学級経営」です。どのような学級経営をすればよいかは、紙幅の都合で省略しますが、ポイントは子供たちの心に寄り添うことを最優先にするのです。授業の遅れを取り戻すことも、学校行事を精選することも教師都合ではダメなのです。

子供のポジティブな変化を引き出すために

  • 制限があって「何もできない」ではなく、工夫して、形を変えて「新しいことをやってやろう」という意識で
  • 学校行事に代わる楽しみを創造する
  • 教師がイライラせず、笑顔で「大丈夫だよ」というメッセージを送り続ける

コロナ禍であっても、「学校はやっぱりいいね」「先生たちがいるから大丈夫だよ」と子供がポジティブな学校生活の様子を伝えてくれるだけで、保護者の安心感は格段に増すはずです。

②「量・質・時期」を意識した情報発信

「保護者が安心できるように情報発信を積極的に行いましょう」。コロナ禍でなくとも、よく聞く言葉かもしれません。では、何をもって積極的と言えるでしょうか。情報発信をする際に心がけたいのは、情報の「量」と「質」と「時期」です。

情報発信3点セット
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まずは「量」です。保護者が学校生活に対して、何に不安を抱くのか。保護者の立場になって考えます。まずは質より量です。ただし、「お便りのみ」「文字ばかり」では、伝え方が単調になりがちですので、紙のお便りに加えて、メールや電話、文字の代わりに写真も使用します。学校として完全に決定していないことも、「現在検討中です」「現段階では、2通りの案を考えています」など、途中経過をお伝えすることも忘れてはいけません。

次に「質」です。言うまでもなく、学校生活に対する不安が払拭できる内容になっているかが重要なカギとなります。先にお伝えしましたが、学校生活が「見えない」保護者にとって、少しでも学校生活が「見える」内容であるかどうかを確認します。

そして、「時期」。急遽の変更やお知らせは極力避けるべきです。また、早すぎるのも考えものです。「以前、お伝えしたから」と考えるのではなく、一度伝えたことでも必要に応じて繰り返し情報発信したほうがよいものは、何度でも発信します。

ここまで読まれて、「学校として出すお便りのことでしょ」「管理職の仕事です」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。ですが、学級担任としてできる情報発信もあると思います。例えば、次のような情報発信はいかがでしょうか。

学級担任ができる情報発信

  • いつもより写真が多めの学級便り
  • 学校生活を伝える「学級写真集」を発行
  • 学校生活が見える「スライドショー」
  • 連絡帳や電話で子供のがんばりを伝える
  • 先手必勝、心配なことはすぐ家庭に連絡
  • オンライン保護者会

人は誰しも、分からないもの、どうすることもできないものに不安を感じます。だからこそ、適切な情報発信を心がけたいものです。

③ 聴いて不安の本質を見極める

新型コロナウイルスへの対応により、学校から保護者への連絡やお知らせが多くなっています。加えて保護者の方が来校する機会が減っていることから、教師と保護者が顔を合わせてお話しすることも少なくなっています。だからこそ、学校からの情報発信を積極的に行うことと同時に、保護者の声をていねいに聴くことが極めて重要です。

例えば、ある保護者から「うちの子は学校でちゃんと手洗い、消毒しているんでしょうか?」と聞かれたら、どう答えますか?

保護者を安心させるため、「えぇ、大丈夫ですよ。手洗い、消毒を学級全体で行っていますし、私も声がけしていますので」と答えたとします。これで保護者は安心するでしょうか。実は、そうならない場合があるのです。

いっそう不安にさせる
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家で子供が「手洗いも消毒も全然してないよ」と話していたらどうでしょう。教師が安易に安心させようとして「大丈夫」と話したことが、子供の話とずれていることで、「この先生、きちんと見ているのかしら?」と、余計な不安につながらないとも限りません。

安心感を与える
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ときにはうまくいっていない現状を正直に伝えることで、安心感を与えることもあります。冒頭、いくつかの例で紹介しましたが、学校には保護者からの多様な不安や要望が寄せられます。まずは、その声をじっくりと聴くことから始めます。そして、不安の本質はなんなのかを見極めるのです。わが子の様子を詳しく知りたいのか、それとも学校生活の現状を知りたいのか、はたまた学校の具体的な対応を知りたいのか……。それが分かれば、保護者の不安を払拭することにつながるはずです。

保護者とつながるチャンス

時代は変わり、保護者の不安や要望がストレートに学校に届くようになったと言われます。それは、かつてのように同居する祖母から「それくらい心配ないわよ」と言ってもらえる家庭が少なくなったこと。近所の先輩ママから「うちの子のときはね……」とアドバイスを受ける機会も減ったこと。夫婦共働きや、SNSなどでの複雑なママ友関係から、気軽に悩みを相談しにくい環境も現在にはあります。

さらに、コロナ禍にあっては、これまで以上に不安要素が多いことは想像に難くありません。学校に寄せられる保護者の不安の声は、学校と家庭が手を取り合って協力タッグを組むためのチャンス、きっかけと認識して対応したいところです。

イラスト/バーヴ岩下

『教育技術 小一小二』2020年11月号より

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