賛否両論の「研究授業」で気付いた授業のクセ【令和2年度新任教師のリアル】

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これは、2020年4月に小学校の先生の道を歩き始めた、小学校教諭・優花と美咲(仮名)の対談連載です。 ともに1997年生まれ、学生時代から仲がよい2人が、研究授業に運動会にと多忙な日常を振り返ります。そこで見えてきた今後の課題とは……?

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photo by Feliphe Schiarolli

●優花(ゆうか)……東京都出身。大学時代は道徳教育の研究に力を注ぐ。某県の教員採用試験に合格し、現在公立小学校3年生の担任。

●美咲(みさき)…… 東京都出身。楽器の演奏、運動や体操が好き。学芸会や運動会など大きな行事の運営を研究。私立小学校2年生の担任。

授業は技術、経験を重ねて上げるもの

――今回は優花先生の研究授業についてまずは、お聞かせいただきたいと思います。

優花・ 他の先生に授業を見ていただくというのは、思った以上に緊張しました。

美咲・ いいな~。私の学校は研究授業がないんだ。どのように進めるの?

優花・ 私は国語だったのだけれど、6時間くらいかけて指導案を作ることから始めたよ。案を作って、他の先生にアドバイスをいただき、再び練り上げて、また見ていただいた。

美咲・ 実際に授業をしてみると、『授業は技術』だと思う。なんでもそうだけれど、人に見てもらうと、技術は上がってくる。

優花・ まず、感想から言うと、『暗黙知』っていうのかな。授業って、簡単に言葉で説明できない要素がたくさん含まれているよね。研究授業で暗黙知の存在をより意識した。

美咲・ わかる。授業は、技術でもあり、子供たちとのコミュニケーションでもある。経験を重ねた先生ならではの『間』や『聞き方』などがある。

優花・ 研究授業って、強制的に教材研究をやりこむことでもあるんだよね。それこそ、暗記するくらい研究して、授業の進め方について、シミュレーションをきっちり行い、方向性を考える。

美咲・ そうなんだ。それは発表の場がないと、なかなかできないよね。

優花・ 私たちは大学で教育について学び、この半年間授業を重ねてきて、勘所のようなものはつかめてきたような気がしてきたけれど、それはまだほんの入り口だったって気付かされたよ。

ついつい発していた何気ない一言

美咲・ 暗黙知か……一番心に残ったことって何? 言葉にしにくいことかもしれないけれど、教えて。

優花・ 子供の反応が、私の予想の上をいっていたことかな。私の真剣さが伝わったからだと思う。私の『一緒に授業を作ろう』という気迫が、子供の発想を引き出したかも。

美咲・ そういうことある! 授業の技術面で気が付いたことは?

優花・ 授業にも口癖ってあるじゃない。私は子供の発言に対して、「100点です」とか「惜しい、70点です」などと、口頭で採点していたの。これは無意識にやっていたんだよね。そうしたら、授業を見てくださった先生が、「国語は考え方を問う教科でしょ。だから、いろんな意見が出てきて、それを相互に認めるという授業の運び方をしてもいいんじゃないかな」と指摘してくださった。

美咲・ なるほど。言われてみると私もつい「正解です」などと言っている。

優花・ そうなんだよね。それから、私は発言に対して、点数をつけないようにした。その後、挙手する子が増えたように感じたよ。

美咲・ 確かに、これは誰かに指摘されないと、わからない。

コロナ下で何もかもが急ピッチに

優花・ そういえば、美咲ちゃんは運動会の準備の真っ最中だよね。大学で学校行事を研究していたじゃない?

美咲・ 出し物は、ダンスとリレーだけれど、子供は予想とは全く異なる動きをするので、理想とは程遠い運動会になりそうだよ。

優花・ まあ、2年生だからね。遊んじゃうよ。私の学校は、ダンスの発表会をするのだけれど、毎日「きちんとやりなさい!」と叫んでいる(笑)。

美咲・ 理想では、子供のやりたいことを引き出して、褒めて伸ばす……なんて思っていたなぁ。

優花・ そんなの、絶対に不可能(笑)。事故がなく終わらせることで精いっぱい。

美咲・ 時々我に返って悔しくなるけれど、現実の説得力は圧倒的。もっと自分自身に余裕があればいいんだけれど、今年はコロナの休校期間もあるから、授業から何もかもすべてが駆け足。  

優花・ うん。わかる。言い方を変えれば、コロナで余計なことを考えず、目の前の課題に集中できる。授業も行事も無事に終わらせることに集中できるから、迷うヒマがないというのはよいと思うよ。

美咲・ そうだね。悩む前にやらなきゃいけない。これは、昨日の理科の実験の時に思った。『導入・展開・まとめ』をじっくりやりたいのに、よーいドン、で始めるタイムレースになっちゃう。

優花・ 異例な中で時間のやりくりをしなくてはいけない。

美咲・ 同じ学年の先生と、授業の進捗を確認しつつ、駆け足で進めている感じ。

優花・そういえば、美咲ちゃんの学校は、そろそろ受験の準備が始まるんじゃない?

美咲・ もう始まっていて、先日は受験日を想定した模擬試験を行い、試験監督の練習をしたよ。今年は学校説明会なども開催できないからオンラインになるじゃない。映像を作ったり、オンライン説明会の台本を考えたりして、それはそれで大変。

優花・ きちんと休めている? 私は土日休みだけれど、美咲ちゃんは土曜も仕事じゃない。

美咲・ 9月は連休があったから、ホッと一息付けた。1日、完全にオフにしたら、気持ちが楽になったし、心身が整った感じがした。

教師半年目で自分自身に変化が…

優花・ リセットするのは大切だよね。今月で私たちが先生になって半年。自分の中に変化はあった?

美咲・ 私は子供たちが多少ふざけていても、見守れるようになった。

優花・ 私も! 気持ちに余裕ができた。私のクラスには問題を抱える子がいて、授業中ふらついてしまうこともあるんだけれど、そういう子に『鉛筆を持ってみようかな』と思わせるようなコミュニケーションができるようになった。

美咲・ それはどのようにするの? 知りたい!

優花・ ふらつく子の気持ちに寄り添えるようになったかも。この前、算数の授業中に席を立ってしまったんだよね。それで、「今、なんで席を立ったの?」と聞いたら、その子は「雲が流れていて、気になった」って答えたの。前なら「今は算数の時間ですよ」などと諭したけれど、今は「そっか。雲のことは理科でやるから、そのときに観察しようか」といった会話ができるようになった。

美咲・子供を認めて、伸ばしているね。先生って感じがする! それにつけても、ホントにいろんな子がいるね。

優花・そうだよ。他にもいろんな子がいて、保護者がいる。先日は、子供同士のささいなケンカで20分以上の電話応対が必要だったケースがあった。

美咲・子供同士のケンカは、先生にはどうすることもできない。私のクラスにもそういう保護者の方はいるよ。

優花・怒りをダイレクトにぶつけてきて、長々と苦情を言うのがその方のパターン。美咲ちゃんの話を聞いていると、私立はその学校の理念に共感した保護者が多いから、考え方や生活環境などに共通点が多い。話を聞いていると、クレームも理詰めだよね。私の学校は感情的な方が多いような気がする。

美咲・いろんな背景の子供がいるからこそ、みんなの可能性を引き出したいけれど、現実的には時間がなく厳しい。

優花・理想と現実は全然違う。最近、思い通りにならないからこそ、互いに成長ができると気が付いてきたよ。子供を育て、子供に育てられ……私たちも前を向いて行かなくちゃ!

美咲・そうだね! やることが多すぎて、立ち止まったら終わらない。がんばるぞ!

取材・文/前川亜紀

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