教師間の意見の違いを乗り越え、よりよい学級をつくる!【5年3組学級経営物語 14】
通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。
教育実習生の大和川くんを指導することになった鬼塚先生。しかし、鬼塚先生の教育観に不信感を募らせた大和川くんは、真っ向から反発。チーム5年は一気に険悪なムードに! 学校教育の本質をテーマに、さあ、「教師道」にレッツトライだ!
文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ
10月②「教師道」にレッツトライだ!
目次
<登場人物>
トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。
しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。
オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。
教師仲間ってなんだ!?
昼休み…、子どもたちと思い切り運動場を駆け回る大和川くん。見守る渡来先生を見つけた2組のカズが、物言いたげに近づいて来ました。
「大和川先生は大人気だよ、遊んでくれるし!」
微笑む元担任に、思わず不平を漏らすカズ。
「でもオニセンは嫌だ。勉強や用事以外の話はしないし、いつも不機嫌で。…もう限界だよ」
黙り込む渡来先生に、諦めたように呟くカズ。
「もう担任じゃなかったね、トライだ先生は…」
無言で去るカズ。寂しげな後ろ姿と以前の高杉先生の言葉が重なり、自分の弱さを責めます。
『鬼塚先生とは考え方の違いをぶつけ合い、喧嘩もした。でも、適当な距離を置いて干渉しなくなったな…』 …ポイント1
本当は分かっていたのです。鬼塚先生は子どもたちの不平や不満を力で抑え込み、表面的に平和を保っているだけ…。課題は山積している。
『大人の都合より子どもを中心に…ですよね』
大和川くんの言葉が、渡来先生の心に突き刺さりました。
ポイント1 【教師同士の関係】
教室で「本音で話そう」「何でもいえる学級にしよう」等と指導していても、職員室では話しにくいことが多々あります。教育観や指導方法の違い、経験年数の差、仲のよさ…。様々な理由はありますが、適当な距離を置き不干渉を保つことから抜け出す努力や勇気が教師同士には必要ではないでしょうか。それが本当の教師仲間…、築くのはあなた自身の一歩から!
激突、教育実習!
放課後。思いきって2組を訪ねた渡来先生は、不穏な空気を感じ、恐る恐る鬼塚先生に声をかけました。
「今度は、…どんな問題があったんですか?」
「担任を差し置いて勝手な事をするな…そう指導していた。教育実習生の立場をわきまえろ!」
鬼塚先生の容赦ない言葉に、大和川くんが怯むことなく言い返します。
「怒ったり罰を与えたり…。本当に嫌がり、怖がっている子がいます。友だちが怒られ罰を受けるのにもう耐えられない、教室に居たくない…とトモコが訴えてきたんです。だから…!」
「自分が意見すると伝えたんだな、…指導教官のオレに!」
そう言い、鬼塚先生が机をバンと叩きました。
「甘いんだ! 理想だけで、厳しい現実を乗り越えられると思っているのか! 経験もないのに!」
大和川くんの体が、ピクリと震えました。暫く黙り込んだ後、諦めたように言い放ちました。
「もういいです、理想を追えない教育実習なんて無意味…。実習は、終わらせていただきます」
教室を出ていこうとする大和川くん。
渡来先生はその腕を掴むと、ゆっくり言い渡しました。
教育の原点に戻れ!
「まだ何も解決していない。担任、教育実習、そんな大人の理由より、子どもたちの気持ちが大切だ。さあ、みんなでもう一度話し合うぞ!」
大和川くんの背中を押し、着席を促す渡来先生。その後ろで突然、高杉先生の怒声が轟きました。
「…都合の悪い意見は聞かず、学級の現実に目を背ける。そんな腑抜けに理想を語る資格などない! 去年と同じ過ちを繰り返すなら、ぶっ飛ばそうと思った。しかし! …まず話合いが必要だ。この場で2組の学級経営を見直すんだ。グズグズするな!」
身震いして着席する鬼塚先生。緊迫した話合いが始まり、高杉先生がまず宣言しました。
「子どもの声を聴き、理想を掲げ、諦めず取り組み続けることが教師の使命。課題のない学級などない。立場を越え、忌憚なく話し合うぞ!」
高杉先生に促され、語り始める大和川くん。
「…では正直に言います。カズは鬼塚先生との距離の遠さ、意思疎通の取り難さを訴えていました。トモコは規律を保とうと叱る先生を恐れ、ケンタは…。何度もそれを伝えたのに、全部否定されて…。子どもたちがよりよい未来を目指す学級を理想に実習を始めたのに…、ひび割れていく2組を毎日黙って見ているのが辛くて…」
「率直な意見だな。どう受け止める、担任は!」
抜き身の刃を突きつけるような鋭い質問。鬼塚先生の額から汗が流れ、沈黙の時間が続きます。
「…と、凄い剣幕で怒鳴られると、どんな気持ちになった。体験学習だ」
高杉先生が穏やかに言葉を続けました。
「脅かして悪かったな。それより…、実習を投げ出せば単位不足で留年。採用試験に合格しても取り消しだ。それを承知の上での意見具申だ。心して応えるべきと私は思うが…」 …ポイント2
主任の一言にとどめを刺されて、無言で頭を下げる鬼塚先生…。
ポイント2【意見具申】
他の意見に耳を傾けることは大切だと分かっていても、都合の悪い場合に「耳を塞ぐ」ことはありがちです。しかし、そんな時に人はよく失敗します。子どもたちは、驚くほど先生のことを見ています。彼等の素直な意見、感想を「意見具申」と考えて、参考にしていくことで手堅い学級経営が実現します。アンテナを張り巡らせることも、教師力の一つです!
磨け、教師道!
「いい教育実習になってきた。ありがとう!」
教務主任の大河内先生に感謝されて、慌てる渡来先生。
「高杉先生の、熱血指導のお陰です…。あの後、鬼塚先生は担任としての率直な思い、目指すべき学級のあり方を子どもたちに伝えたそうです。そして全員の意見を聞き、よりよい学級づくりについて意見交換をしたんです。鬼塚先生は、教師としての生き方を、大きく見直したようですね」…ポイント3
微笑む渡来先生に、言葉を続ける大河内先生。
「いろんな性格の教師がいる。様々な育ち方、考え方を持つ…。だが我々は教師だ。違いを乗り越え、互いに磨き合い高め合うことが大事だ」
「大和川くんにも、そのことをご指導されたんですね」
渡来先生の質問に、ニヤリと笑う大河内先生。
「ガキ大将気分は駄目だ。今後、どんな先生と組むか分からん。…ケンカは最も下策だぞ、とな」
「もう少しで実習は終わりますが、2人ともいい経験になりました。後は…合格発表ですね」
職員室の予定表を眺め、2人で頷きました。
教育実習の最終日、休憩時間の職員室。大和川くんに、朝から何度も同じ話をする鬼塚先生。
「発表は、10時半にホームページで。次の休憩時間だったな」
「緊張するから、何回も言わないでください!」
チャイムが鳴り、2人で教室に戻ります。そして、ついにその時がきました。スマホ片手に職員室に戻った大和川くんが、皆に伝えます。
「合格しましたっ、ありがとうございます!」
ワッと沸く職員室、祝福を受ける大和川くんを、追いかけてきた鬼塚先生が抱きしめました。
「頑張ったな。さあ、お別れ会&合格祝いだ!」
5年2組の子どもたちも集まってきました。みんなに引き摺られていく大和川くんに、職員室からの惜しみない拍手がずっと響いていました。
ポイント3 【学級集団の見直し】
学級の状況を見直すことは、集団育成のうえで非常に重要です。年度半ばのこの時期には教師と子どもたちの人間関係、学習規律、子ども同士の問題等、様々な課題が生じます。それにより学級の雰囲気が崩れていくことがあります。子どもたちが課題を自分事として捉えて、改善への自主的な取り組みを行うための指導が必要です。
(次回へ続く)