休校明けの一学期にやってよかったこと、気づいたこと|沼田晶弘の「教えて、ぬまっち!」
新型コロナウイルス感染拡大により、学校はかつてない長期休校に入らざるを得ませんでした。学校、学級が再開してからの一学期も、いままでとは全く違う一学期になったことでしょう。 今回はカリスマ教師の沼田晶弘先生に休校明けから慌ただしく過ぎてしまった一学期をふり返ってもらい、やってよかったことや、気付いたことを聞いてみました。
目次
休校中に出したタイピングの課題は大正解!
一学期をふり返り、やってよかったと思うことは、休校中にタイピングの課題を出したこと。
子供たちはタイピングゲームで楽しみながらローマ字を習得できたし、タイピングをマスターしたことで、休校中にオンライン授業をしたとき、チャット機能を効果的に使うことができたので大正解だったなと思うよ。二学期以降もパソコンを使った調べもの学習でも大いに役立つだろう。
オンライン授業の可能性が広がった
もう一つは、オンライン授業にトライすることで、オンライン授業の可能性が探ることができたこと。
ボクは沖縄の離島で教育イベントをするなど、遠方の人と仕事をすることが多いので、実は2、3年前から個人的にZoomを活用していたけれど、今回のコロナ禍によって教育現場にも急速に普及したよね。さらに、Google Meetなど、他のツールも使い勝手が格段によくなった。もちろん授業で使用するにはいろいろ課題もあるだろうけれど、いろいろな場面で各地の先生方が試行錯誤し、オンライン授業のノウハウを蓄積したことで、可能性も広がったと思っている。
先生作の動画は「おうちのカレー」、デジタル教材は「ホテルのカレー」
さらに、今回気付いたことは、さまざまなオンライン教材の有益性だ。
休校中、オリジナルの動画や映像を一生懸命作成し、子供たちに提供した学校や先生方もいただろう。子供たちもそれらを自宅で見て、とても喜んだと思う。でも、先生が自分たちで作ったそれらの動画は、いわば「おうちのカレー」なんだよね。
ボクはこれを「カレー理論」と呼んでいる。
どういうことかと言うと、子供たちは「お母さんのカレーが一番おいしい」とか、「パパが作るおうちのカレーが一番」ってよく言うよね。
では、子供たちがおうちのカレーがおいしいと感じる理由は何かと言うと、「安定の安心感」があるから。
もちろん、おうちのカレーには、自分が嫌いな食材が入っていなかったり、逆に好きな食材が少し多めに入っているという工夫もあるかもしれない。でも、客観的に味のクオリティを比べてみれば、恐らくホテルの本格的なカレーのほうが上だろう。
だから大人になると、「うちのカレーが一番おいしい」とは言わなくなる。いろんな味を覚えるようになるからね。その代わりに自分の家のカレーを食べたときには、「この味が一番落ち着くな」とか「そうそう、この味!」と言うようになる。やっぱり安心するからだ。
同様に、担任の先生が映像に出てくると、子供は落ち着くし、安心するという効果はあるけれど、教育動画としてのクオリティは、NHK for schoolのほうが上だったりする。
なぜなら、映像のプロや教材作成の専門家たちが何年もかけてリサーチし、研究を重ねて作っているものだからだ。
つまり、授業で使う教材を何もかも先生が自作するのではなく、すでに世の中に提供されている良質の学習支援コンテンツを上手に活用することも選択肢としてはもっておいたほうがいいということ。
教師の役割や、子供たちの学び方の多様性について見つめ直す機会になった
デジタル教材やオンライン学習支援ツールは有料のものも多いので、これまでなかなか踏み込めなかったけれど、コロナ禍によって学校で授業が行えなくなり、代替案として自宅学習用のデジタル教材に切り替えた学校もあったと思う。
実際、ボクもいろいろ試してみたけれど、素晴らしいコンテンツがたくさんあって驚いたよ。
算数の教材は、子供たちに計算ドリルをさせるだけでなく、採点したり、個別に苦手分野を解析したりしてくれるものもある。システム料金はかかるけれど、全員分のドリルを買うことを考えたら費用はあまり変わらないかもしれないよね。しかも、ドリルを翌日回収して、忘れた子をチェックして、全員分を先生が採点するといった工程を考えると、デジタル教材を利用したほうがはるかに効率的だ。
Aさんは100点取れるまで何回もドリルに取り組んだなどの履歴も個別に残るので、頑張った子はちゃんとほめてあげることもできるし、データとして結果が可視化されるので、つまずいている子には適切に指導もできる。
そう考えると、有益なデジタル教材はどんどん活用し、教師は子供たちに安心感を与えながら、励まし、やる気を引き出し、困り感を解消してあげることに注力したほうがよいんじゃないかと思ったりする。
そういう意味で、コロナ禍は、学校に通う意義や教師の役割、そして子供たちの学び方の多様性について、見直すよいきっかけになった。
教師はよりICTリテラシーを高め、有効活用していくべき
GIGAスクール構想により1人に1台の端末が整備されることになり、ICT教育は今後さらに加速されていくだろう。
もはや、オンライン授業やデジタル教材に対して、教師側が苦手意識をもったり、危険性を指摘ばかりしていてはいられない。 なぜなら、子供たちは間違いなく今後テクノロジーと共存する世界に生きることになるのだからね。
だからこそ、教師ももっと積極的にいろいろなデジタルコンテンツに触れ、どんなコンテンツが子供の学びを深められるのか、目の前の子供たちの実態を見ながら見極める目を養ったり、何をどう使うと危険であり、何をどう活用すれば有効なのか、デジタルリテラシーを高めておくことは必要だと思ったよ。
これまで学校で当たり前にできていたことができなくなり、ICTへの移行がグンと進んだわけだけれど、いろいろなことにチャレンジするなかで意外なヒントも見えてきた。 例えば、黒板が使えなくなったけれど、「じゃあそもそも黒板を使わない授業はどうしよう」と考えるなかで、視野を広げて授業の在り方を見ることができたし、オンライン授業によって、手を挙げて発言することは苦手でも、チャットで意見を伝えるのは得意という子も見つけることができた。
学校再開後はいろいろな制約ができたけれど、その分、ICTを活用した新しい教材で、新たな実践をつくることが短い時間で効率的に学習を進めるためのキーポイントにもなったよね。
いずれにせよ今後は新しい生活様式の中で、新しい学校教育を生み出していく必要があるだろう。 とにかく、今までやっていたことをそのまま移行してもダメなことはわかった。
大変なこともあるかもしれないけれど、子供たちがさらに楽しく、効果的に学ぶための実践を考えていくなかで、いまでは思いつかないようなことが生み出されていくかもしれないと考えると、ちょっとワクワクするよ。
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沼田晶弘(ぬまたあきひろ)●1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『「変」なクラスが世界を変える』(中央公論新社)他。
取材・構成・文/出浦文絵