佐々淳行流ネガティブレポートを生かした学校現場の安心づくり【GKC|がんばれ教頭クラブ】

ネガティブレポート。この言葉を聞くと、「何か悪いことを報告する」ということではないかと感じる方も多いのではないかと思います。しかし本稿で言うネガティブレポートは、「陰性報告」と言った意味合い。異常(陽性)がないことを積極的に報告することを指します。学校組織で最も怖いのは沈黙です。報告がない日常は平穏に見えても、危機は気づかないうちに進みます。大切なのは、平時から小さな情報でも共有し続けることです。佐々淳行氏のネガティブレポートの考え方を基に、教頭・副校長が中心となり、全職員で安全と安定を支える実践を、具体例を交えて組織づくりを探っていきます。
執筆/元山形県公立学校教頭・山田隆弘(ようだたかひろ)
目次
「異常なし」という報告こそが最強の安全装置
佐々淳行氏が説くネガティブレポートの本質
警察官僚・防衛官僚として活躍され、あさま山荘事件など数多くの大事件で指揮をとってきた佐々淳行氏は、「報告がない状態こそが最大の危機である」との経験則を導き出しました。事件が起きていないときにこそ「現在、異状なし」という報告を定期的に上げることで、組織は安定して運営される、ということです。
学校現場においても、この論理は極めて有効です。
組織の各メンバーが「今日は何もありませんでした」と小さな報告を上げることは、管理職のもとで、全領域を点検し、安全を保障したという大きな事実に集約されるからです。
報告の空白が招く学校の機能不全
これは電気回路に例えると分かりやすいかも知れません。組織のメンバーは、電気回路における部品であり、その部品の間を「情報」という電気が流れることで、回路は正常に機能します。それぞれの部品はかけがえのない大切なものであり、電流の流れが阻害された回路は正しく機能しません。
教職員が「これくらい報告しなくていいだろう」と勝手に判断すると、 管理職である教頭に情報が集まらなくなり、結果として校長の視界が遮られ、経営判断を勘に頼らざるを得なくなります。
これこそが、学校経営における静かなる危機です。何も起きていないことを言語化し、伝え合うことは回路の万全性を常に確認していることになります。
安心を組織的に生産するプロセス
また、お互いに「異常なし」と伝え合うことは、職場における心理的負荷を軽減する行為でもあります。これは管理職としての職責が上がっていくほどに増すもので、特に校長は常に自分が把握していない場所で何かが起きていないだろうか、という不安を抱えています。定期的なネガティブレポートは、その不安を組織的な安心へと変換するプロセスです。この安心感があるからこそ、校長は対外的な折衝や将来の学校ビジョンの構築といった、本来の重責に集中できます。
教職員全体を通電状態にするための文化づくり
まずは第1段階として、管理職の間で始めよう
いきなり全員で無事を確認し合う環境を作るのは難しいかも知れません。そこでまずは、主任と教頭、教頭と校長といった、管理職の間で始めてみてはいかがでしょうか。
そして、その行為をなるべく他の教職員も見ているところで行い、意義深さを少しずつ全員と共有していくわけです。
真の危機管理とは、組織の全員が「何も問題ない」ことを価値として共有し、それを報告し合う文化に基づいています。
これまでの学校文化では、報告=問題が起きたとき、という認識が強く、報告がないことこそが有能な教員の証であるかのような誤解がありましたが、これでは「どの段階まで悪化したら報告すべきか」などといった非常に危うい判断を当事者がする可能性があります。報告=現状の共有へとシステムをアップデートしなければなりません。
① 学級担任が放課後、「今日もクラスは落ち着いていました」と一言添える。
② 専科教員が「今日の授業は全クラス予定通り進みました」と伝える。
こうした些細なやり取りを行っていれば、何か具体的な事象が起こる前に、「少し気になったこと」などの意見を気兼ねなく言えるような空気を作りやすくなります。
教頭が仕掛けるアクティブ・リスニング
教頭は、自ら進んで回路づくりをし、そのメンテナンスを行っていく必要があります。人間の組織は文字通り生身のものであり、時間や状況に応じて刻々と変化していくものだからです。自ら校内を歩き、教職員に対してアクティブ(能動的)に働きかける必要があります。
① 休み時間や放課後に各教室を回り、「今日はどうですか?」と声をかける。
③ 相手が「特に変わりないです」と答えたら、「それが一番です。ありがとうございます」と返す。
やはり立場上、教頭が最も情報収集をしやすいと言えます。時間がある限り、是非とも自ら動いて、意見を聞き出す役割を果たしましょう。
職員会議や打ち合わせでの通電交流
朝の打ち合わせや週の定例会議において、あえて、
「各学年から、特段の変化がないことの確認をお願いします」
という時間を設けることも有効です。「変化なし」「異常なし」という言葉を公の場で積み重ねることで、職員室全体に、私たちは今、正常な状態にあるという共通認識が生まれます。毎日、同じ場所、同じ項目をチェックし続けているからこそ、わずか1度、1ミリの変化に気づくことができます。「いつもより廊下が少し騒がしい」「いつもは賑やかな教員が静かだ」といった微細なノイズは、日頃から無音(正常)を確認し続けている者にしか聞き取れません。
「何もなかった」ログを取ろう
口頭での報告に加え、週報や日誌に「異状なし」と明記しておくことは、後日の検証において極めて重要です。もし後に問題が発覚した場合でも、その時点で、どの範囲まで確認がなされていたかという記録があれば、原因の特定が容易になり、組織としての説明責任を果たすことができます。
