ピアノが弾けなくてもCD1枚でできる合唱指導【先生のための学校】

連載
久保齋の「先生のための学校」

学力研 先生のための学校校長

久保齋

合唱に熱心に取り組むクラスは、美しい歌声をひとつに合わせようと気持ちを通じて、子供たちがキラキラ輝くようになるものです。音楽に限らず、図工、体育などは、学級文化を高めることができる授業なのです。しかし、私もそうですが、音痴でピアノが苦手だからといって、合唱指導ができないと言ってしまってはいけません。伴奏CD1枚でできる合唱指導法を紹介します。

執筆/「先生のための学校」校長・久保齋

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くぼ・いつき●1949年、京都府京都市生まれ。京都教育大学教育学部哲学専攻卒業。教育アドバイザー。40年以上にわたり「学力の基礎をきたえどの子も伸ばす研究会(学力研)」において《読み書き計算》の発達的意義について研究するほか、どの子にも均質で広範な学力をつける一斉授業のあり方を研究・実践し、現在も講演活動を中心に精力的な活動を続けている。

教室には文化が必要

合唱指導
イラストAC

「学力づくりでクラスづくり」「授業づくりでクラスづくり」は私の所属する学力研の主張です。どの子にも学力の基礎を鍛え、学力格差をつくらない取り組み、授業改善で楽しい授業をつくる取り組み。これらを確実にやることなしに、キラキラ輝くクラスはつくれません。

しかし、これだけでは不十分です。教室には文化が必要です。

一生懸命つくられた素晴らしい図工作品が貼られているクラスは明るいです。子供たちはそれを見ると、ウキウキするのです。手を抜いた絵や汚い字の作品が貼られていると、それを見るだけで子供たちはイライラします。教室には優れた文化が必要です。その点で、図工、体育、音楽は、クラスづくりには欠かせないものです。

実は、私はリズム・音程音痴で、もちろんピアノなんてまったく弾けません。でも、私のクラスの子供たちは素晴らしい天使の歌声で、学校中から一目置かれる存在だったのです。「教師はできなくても、子供はできる」。これが教育技術というものです。

どうせやるならCD1枚で頭声的発声

ある学校へ赴任したときの「1年生を迎える会」で、素晴らしい歌声を披露するクラスがありました。それで、その担任の先生に恐る恐る指導の秘密を聞いたのです。するとその先生は、CDを1枚見せて「指導はこれだけです。これで頭声的発声を指導するのです」と教えてくださいました。

声には2種類あります。地声と裏声です。どの子も低い音は地声、高い音は裏声です。この変声点が人によって違うので、地声と裏声の混じった合唱になって響きません。それでこれを、訓練で全員裏声…すなわち歌声にすれば、響く天使の歌声になるのです。

指導は犬の遠吠えから始めます。2年生の子供たちにも十分できますし、とても乗ってきます。

みんなが裏声を出せることがわかったら、いよいよCDでの指導に入ります。ここで、ちょっとした秘密があります。どの子も裏声から始まる曲、要するに高いシやドから始まる曲で練習します。それならば、誰でも裏声を出さなければなりません。使う曲は、この1曲だけです。私は「ビリーブ」を使いましたが、「グリーングリーン」 「星の世界」 「風に向かい光に向かい」がこのような曲に当たります。

初めは、小さな小さな声で

「ビリーブ」の曲を聴きながら、初めは小さな小さな声で歌います。黒板に歌詞を貼って、 合唱隊の美しい歌声をひたすら模倣するのです。そうしていると、頭声的発声をできる子が3名出てきたので、「同じように響きのある、柔らかい声でマネしなさい」と言うと、子供たちの声が明らかに変化していきました。

これで、歌声練習の条件がそろったので、合唱隊の模倣とCDのピアノ伴奏での練習を続けていきました。ここからは二つの課題があります。一つは低い音も歌声にする取り組み、もう一つは腹式呼吸で声を大きくしていく取り組みです。先を急ぐと壊れます。少しずつ少しずつ……。

急ぐとできない子をつくってしまい、自信をなくす子をつくってしまいます。はじめはどんなこともゆっくり、慎重にいかなければなりません。こうして、私の学年では「11ぴきのねこ」 の組曲をソロも入れて歌えるようになりました。 ぜひ「教室に文化を、教室に天使の歌声を」の取り組みを始めてください。

久保校長からひと言

「天使の歌声」の実践は『1か月集中実践で子供が変わる』にDVDつきで紹介したものです。そのときは3年生、4年生のものでしたが、2年生でも楽しく頭声的発声が取り組めます。「天使の歌声で、みんなから『二年生すごい』と言ってもらいました」という声もありますので、本を参考にやってみてくださいね。

『小二教育技術』2019年1月号より

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