教師力は文章力から! 保護者や児童の心に響く文書作成術

あなたは児童や保護者に向けて文章を書くとき、どんなことを意識していますか?「必要事項を漏れなく書く」「締切に間に合わせる」…。それだけではもったいないです。わたしたち教員のつづる通信文やおたよりは、単なる業務文書ではありません。児童の成長、教室の空気、学校の願いを伝え、心と心を絆で結ぶ大切なメディアなのです。いい文章を書いて、あなたの信頼度をグンと上げましょう!
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

目次
伝える力は、結ぶ力
わたしたち教員は、日々の教育活動の中で、児童の成長を願い、保護者や地域社会に対し、教育に対する熱い思いを届けるという重要な役割を担っています。学級通信や保護者へのお便り、学校からのお知らせなど、私たちが日々発信する文章は、決して単なる事実を伝える業務文書ではありません。
これらの文章には、教室の温かい空気、生き生きとした児童の姿、そしてわたしたち自身の教育観や哲学を込めることができます。学校と家庭を、あなたの言葉で紡がれた絆で結ぶことができます。
特別な才能は不要です。日々の実践の中で意識的に磨き、向上させられます。
最初に意識しておきたい「響く文章」の3つのお約束
相手の心に響く文章を書くのには、ちょっとしたお約束があります。
意識すべきことは次の3つです。
⚫︎目的意識をハッキリと
「なぜ、何のために書くのか?」をハッキリさせる。
⚫︎読者の視点に立とう
「誰が読むのか?」という読み手の視点を持つ。
⚫︎必ず読み返そう
書いた後、もう一度読み返す。
●目的意識をハッキリと。なぜ、何のために書くの?
この文書で何を伝え、読み手にどうなってほしいか?」を明確にしたいです。目的が曖昧だと、結局何が言いたいのかわからない文章になりがちです。
【例:学年レクリエーション大会の案内文】
<悪い例>
目的不明で無機質
「来週、学年レクリエーション大会を実施します。準備物は以下の通りです。ご協力をお願いします」
➡︎ 読み手は「ああ、そうなんだ」止まり。協力の目的が伝わりません。
<良い例>
目的が明確で、行動を促す
「感謝をテーマに、全員で心に残るPTA主催学年レクリエーション大会を企画しました。児童が主体的に準備を進め、互いに感謝の気持ちを育む貴重な機会となります。ぜひご家庭でも、お子さまと一緒に学年レクの話題で盛り上がっていただけるとうれしいです」
➡︎「児童の成長につながる活動」と目的を伝えることで、保護者の協力意欲が高まります。
★情報羅列ではなく、狙いや目的を伝えよう
単なる事実の羅列で終わらせず、その活動の意義や目的を明確に伝えましょう。読み手が「なぜこれが必要なのか」「参加することで何が得られるのか」を理解できるような記述を心がけます。
● 読者の視点に立とう
次に大切なのは相手の視点に立つこと。「誰がこの文章を読むのか」を想像することです。読み手の状況や感情を理解することで、伝わる文章は格段にレベルアップします。こんな方法で進めてみましょう。
① アイメッセージにして書こう
「~してください」と相手を主語にしてお願いする文章を、ユー(You)メッセージと言います。これを読むと、あなたはどう感じますか? 自分の領域まで踏み込んでこられるような、自分の時間や自由を制限されるような、そんな印象を抱きませんか? そこで書き手を主語にして、「~していただけると、とても嬉しいです」のようにしてみましょう。これがアイ(I)メッセージです。アイメッセージは、相手のことを尊重しつつ、相手の善意に訴えかける主張であり、読み手からは好意的に受け止められます。
② 相手の事情・心情に寄り添おう
保護者は常に、我が子のことを心配しています。「安心してください」「いっしょに考えましょう」といった共感を示す言葉を添えます。
③ 児童も保護者も読みます
児童向け、保護者向けと目的の違う文書であっても、両方が読む可能性が高いです。分かりやすくポジティブな言葉で表現します。
④ 多様な背景を持つ保護者がいる!
特定の状況を前提とした表現や誤解を招く言葉は避けます。「もし自分がこの方の立場で読んだらどう感じるか?」と問いかける。
【例:学級懇談会の案内文】
<悪い例>
一方的で冷たい印象
「来週の懇談会に必ずご出席ください。出欠票は〇日までに提出してください。提出がない場合は欠席とさせていただきます。」
➡︎ 命令口調で高圧的。保護者の都合を考慮せず、義務として受け取られます。
<良い例>
共感と選択肢を示し、参加を促す
「学校でのお子さまの日常の姿や、この1学期の成長について、直接ご報告し、ご家庭での様子を伺うことができる貴重な機会です。お忙しいことと存じますが、ご都合のつく方はぜひお越しください。皆さまとお会いできるのを、心より楽しみにしております。ご参加いただけない場合でも、個別でのご相談は随時承っておりますので、別の機会を設定いたします。お気軽にお声がけください。」
➡︎「命令」ではなく「共感」と「提案」。懇談会の意義やメリットを提示し、参加できない場合への配慮も示すことで、学校への信頼感を高めます。
★より良いアイメッセージのために
良い機会であることの強調
読み手にとってのメリットや、参加することで得られる価値を提示し、前向きな気持ちで検討してもらえるように促しましょう。子どもの成長を助ける「貴重な機会」として位置づけます。
忙しい保護者への配慮
読み手の状況(忙しさや不安など)に共感する言葉を加えましょう。同時に、参加できない場合の代替案や、柔軟な対応が可能であることを示すことで、信頼感を構築します。
ネガティブ言葉は使わない
「~しないと欠席とみなします」といった否定的な表現は避け、「~していただくことで助かります」「~していただければ幸いです」といった、ポジティブな表現に切り替えましょう。
必ず読み返そう
文章を書き終えたとき、多くの人は「終わった」と思いがちですが、実はそこからが本番です。書いた文章を見直し、よりよい表現に磨き上げていきます。推敲ですね。
特に効果的なのが、「声に出して読む」という方法です。目だけで読むと、頭の中で自動補完してしまい、ミスや違和感に気づきにくいのです。しかし声に出すことで、耳を通じて入ってくる言葉の情報と、目から入ってくる言葉の情報が脳内で照合されますので、間違いに気づきやすくなります。
また、音読によって、文章の読みやすさや表現の自然さにも、より意識を向けやすくなります。
以下の点に注意してみてください。
① 読みにくい箇所はないか?
文の長さが不均衡だったり、一文が妙に長かったりすると、読者は読みにくいです。音読して、自然な会話のように息継ぎしながら読めるような、テンポよく簡潔な表現を目指しましょう。
② 不自然な表現はないか?
「ご確認させていただきます」といった二重敬語や、「一層のご活躍をお祈り申し上げさせていただきます」のような過剰な敬語も、実は推敲で気づける代表例です。
③ ちゃんとアイメッセージになっているか?
「命令口調だ」「冷たそうだ」「一方的だ」と感じる部分がないかどうか、ちゃんとアイメッセージで書けているかどうかを確認します。
④ 誤字脱字、変換ミスはないか?
どんなに頭をひねって書こうとも、誤字や変換ミスがあると読み手に不信感を与えます。
「真摯に対応いたします」→「新市に対応いたします」
「運動会にご参加ください」→「運動会にご酸化ください」
など、よてもよく見ます(笑)。正確さの確認も怠らないようにしましょう。
【例:学級通信のひと工夫】
<悪い例>
情報伝達のみで終わる通信
「今週は運動会の練習をがんばりました。来週は遠足です。持ち物の準備をお願いします。」
➡︎ 事実を淡々と述べるだけで、読み手の心には響きにくいです。
<良い例>
担任のまなざしと感情が伝わる通信
「この1週間、〇〇さんの弾けるような笑顔が教室の空気を明るくしてくれました。みんなが自然と笑顔になる、不思議な力を持っているんだなあと、すごく嬉しくなりました」
➡︎ たった一文で、担任のまなざしや思いが具体的に伝わり、「心と心が通じ合うコミュニケーション」へと文章がアップデートされます。
ひと工夫のポイント
事実+感情+具体性で
単なる事実の報告だけでなく、それに伴う児童の感情、担任の気づきや思いを具体的に描写しましょう。これにより、文章に深みと温かみが生まれます。
主語・目的語の明確化
誰が、何をしたのかを具体的に示すことで、読者は情景をより鮮明に思い浮かべることができます。
感情に訴えかける
ポジティブな言葉や感動的なエピソードを盛り込み、読み手の共感や喜びを引き出すことを意識しましょう。
抽象から具体へ
漠然とした表現(例:「がんばりました」)ではなく、具体的な行動や様子を描写することで、読み手は児童の姿をより鮮明にイメージできます。
シチュエーション別実例集
「タブレットでのメモ」を習慣化する
教室で子どもの素敵な瞬間や保護者に伝えたいなと感じた出来事があったら、その場でタブレットなどにメモを取る習慣をつけましょう。単語や短いフレーズで十分です。
<メモ例>
9/9 みなと 本読み3回がんばった
9/10 あかり 給食苦手なピーマン完食
9/10 あおい 泣いてた〇〇くんにティッシュ
短く具体的にメモすることで、学級通信や連絡帳に活用しやすくなります。記憶に頼らず、記録に残す!これが、忙しい先生にこそ必要な習慣です。
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。