サプライズ連発の学年末フィナーレ【4年3組学級経営物語25】
3月②「来年度の飛躍に向かって」レッツ・トライだ!
文/濱川昌人(よりよい学級経営を考える大阪教師の会)
絵/伊原シゲカツ
4年3組担任の新任教師・渡来勉先生……通称「トライだ先生」の学級経営ストーリー。学年末おたのしみ会で、子どもたちが内緒で進めたサプライズ企画が始まった! そして瞬く間に過ぎていく学年末の日々。4年3組、チーム4年の行方は…。さあ、飛躍の春を目指してレッツ・トライだ!
(3月の回は、新作書き下ろしです)
目次
<登場人物>
大和川くん(大和川強/やまとがわつよし)
西華小学校にボランティアで手伝いに来ている教育学部生。小学生時代、イワオジのクラスで、イワオジに憧れて教師をめざす。ルックスがイワオジに似ていることから、クラスメートから「小イワオジ」と呼ばれていた。
トライだ先生にレッツ・サプライズだ!
4年3組、学年末のお楽しみ会。その途中で、黒板に『ありがとう! トライだ先生』の大きな手作り掲示物が張られ、子どもたちは画用紙を片手にニコニコ顔…。
子どもたちからの電撃サプライズに、渡来先生はパニック状態です。
「先生、内緒にしてゴメン。全員で準備したんだ。これから、感謝の気持ちを先生に届けるよ!」
司会のカズが嬉しそうに告げると、渡来先生を中心にした輪の形にイスが並べ替えられました。
「最初はパネルトーク! マリがトップです」
画用紙を掲げ、勢いよく立ち上がるマリ。
「…バレそうになったパネルです。先生、春の遠足の時のトライだ弁当、…絶対に忘れません」
画用紙のパネルに描かれた遠足の弁当。そして電話をしているトライだ先生。…マリの体内時計を治すため、毎朝電話でアドバイスしていたときの様子です。
「最近、笑顔が素敵って言われました。こんな面倒な私を素直にしてくれた先生に、…感謝です!」
深々と礼をするマリ、真っ赤な顔の渡来先生。
「先生の秘密の特訓で、僕は泳げるようになりました。秘密の特訓をしてくれてありがとう!」
プール水泳を描いたパネルを掲げるハジメ。
リュウは得意の漫画で、渡来先生と合作で作った漫画の事を描きました。
「漫画オタクは素晴らしい才能だって教えてくれて、自分に自信が持てたよ。…ありがとう!」
ヒロは、窮地に立った自分と友人を救ってくれた渡来先生に、自分の将来の夢を重ねました。
「僕の夢は小学校の教師です!」
その言葉にみんなが頷き、誰からともなく拍手が湧き起こりました。渡来先生の眼にキラリと涙が光り、やがて止まらなくなりました。
静まり返り、じっと見詰める子どもたち。渡来先生は、ズルズル鼻を啜り立ち上がりました。
「気付かなかったよ、サプライズ。…ゴメンな。こんな未熟な担任でも、君たちのお陰で頑張ってこられた。少しは教師らしくなれた…、かな? この一年間、本当に…、本当にありがとう!」
深々と頭を下げる渡来先生。心を動かされたカズは、涙をぐっと堪えて司会を続けます。
「サプライズ…、続けよう。次は……、あっ、僕だ」
教師の”やりがい”って?
「ええっ、葵先生も。…泣いちゃったんですか」
翌日の放課後、職員室で驚きの声を上げる渡来先生を、恥ずかしそうににらむ涙目の葵先生。
「帰りの会で、2組の子どもたちが…。サプライズで、『ありがとう 葵先生!』って替え歌を歌い出したんです。…本当に、感動的でした!」
大和川くんの速報に、苦笑いの大河内先生。
「二人とも仕掛けられたのか、サプライズを…」
そう言うと、嬉しそうに言葉を続けます。
「大変な時もあるが…。心が通い合った時、いい指導ができた時…、たくさんの感動や喜びに出会える。…やりがいのある仕事だな、教師は」
渡来先生と葵先生は、大きく頷きました。
「やりがいを感じられたのは、主任のお陰です。この一年間、本当にありがとうございました」
「よりよい学級、そのために担任はどうあるべきかを、しっかりと学ばせていただきました」
大河内先生が、急に真顔になって呟きました。
「だがな、私が本当に嬉しかったのは…。あの子たちが自分の想いをボトムアップできたこと。君たちが自主的に活動できる学級に育ててくれたことだ。学年主任の”やりがい”を感じたぞ」 POINT
【ボトムアップの大切さ】
教師専制や放任タイプの指導では、子どもたちの気持ちが学級づくりに向かわず、行き詰まって崩壊していきます。参画意識や仲間意識を高め、子どもたちの意見や考えを適切にボトムアップしていく学級づくりが大切です。そのためには、教師の支援・援助のもと、為すことによって学ぶ活動体験が必要です。その様な学級においてこそ、子どもたちは集団性や社会性を高め、さらに互いに磨きあえる人間関係を築いて自己指導力を育んでいけるのです。
チーム4年の終わり、そして未来へ…
終業式、職員打ち合わせ会…。慌ただしく、そして寂しく過ぎた最後の一日。夕暮れ迫る職員室、頬杖をつき物思いに耽る渡来先生。
心の中で何度も繰り返される二つの別れ。
一つは、子どもたちとの別れ。寂しさに心が揺れます。
そして、もう一つは職員打ち合わせ会。校長先生が説明した、次年度の人事内容です。
『入学式準備のため、今日は新一年生の担任と教務主任の発表をします。1組は…、2組は葵ゆめ先生。そして、教務主任は大河内巌先生…』
唐突なチーム4年の終焉に気持ちの整理ができず、また溜息…。手持ち無沙汰に机上のパネルトークの束を手に取り、パラパラと繰ります。
『…みんな成長したんだなぁ、この一年間で』
マリ、ハジメ、リュウ、ヒロ、カズ、ジュン、アキ…。眺めているうちに、子どもたちの成長に関われた喜びが心を満たしていきます。
ふいに先日の職員室での会話を思い出しました。…サプライズに感激しただけの自分と、子どもたちの成長や担任の指導成果に着目した大河内先生。
『この視点の違いが教師力の差だ。教師として、もっと成長しなければ…。これからの目標だな』POINT
心の揺れが、少しずつ静まってきました。
その時、肩をポンと叩かれました。振り返ると入学式の打ち合わせを終えた大河内先生と葵先生が、傍らでニッコリ微笑んでいました。
「迷ったり落ち込んだり…、まだまだ未熟な私ですが、大河内先生の教師力を目指して努力します!」
決意を述べる渡来先生を、温かく見守る大河内先生と葵先生。
「共に頑張ろう。これからはチーム西華だ!」
「お互い、飛躍の春にレッツ・トライだね!」
パネルトークの束を机の上にそっと置くと、渡来先生は二人に嬉しそうに頷きました。
【教師の成長】
教師には「研修の義務」があります。また、勤務年数や職務等により「達成目標」が各々定められます。勤務年数や勤務体験を経るに伴い、資質・能力を向上させてキャリアアップしていくことが求められているのです。
公的な研修の機会も大切ですが、日頃から自己研鑽して教師力を高め成長していくことが大切です。特に、新教育課程の完全実施にしっかり取り組める指導力、いじめ等の課題への適切な対応力を磨いていきましょう。
【4年3組学級経営物語】は今回で終了です。次は【5年3組学級経営物語】に続きます。