小6国語「やまなし」板書の技術

連載
見やすく理解しやすい「単元別 板書の技術」元京都女子大学教授・同附属小学校校長 吉永幸司監修
関連タグ
連載 見やすく理解しやすい 京女式 単元別 板書の技術  バナー

今回は、有名教材の「やまなし」です。本単元のめあては、「宮沢賢治が「やまなし」に込めた思いについて自分の考えを文章にまとめ、感想を交流する」です。作品の世界観を捉えやすくするため、「やまなし」に描かれている対比関係や作品構成がよく分かる板書の工夫を紹介します。

監修/京都女子大学附属小学校特命副校長・吉永幸司
執筆/埼玉県公立学校教諭・小澤綾華(せせらぎの会)

 

単元名 作品の世界をとらえ、自分の考えを書こう
教材名 「やまなし」 資料「イーハトーヴの夢」(光村図書 6年)

単元の計画(全8時間)

第一次 単元のめあてを確認し、学習の見通しをもつ。(1時間)
1 「やまなし」を読み、初発の感想を交流する。単元のめあてを設定し、学習計画を立てる。

第二次 「やまなし」の世界観と「イーハトーヴの夢」から分かる宮沢賢治の生き方を重ねて深く読む。(6時間)
2 資料「イーハトーヴの夢」を読み、宮沢賢治の生き方・考え方について話し合う。
3 「五月」と「十二月」の内容を大まかに捉える。
4・5 「かにの子どもら」目線で「五月」と「十二月」の風景や様子を簡単な絵や図で表す。
6 なぜ「やまなし」という題名にしたのかを考える。
7 宮沢賢治が「やまなし」に込めた思いについて文章にまとめる。

第三次 感想を交流し、学習を振り返る。(1時間)
8 文章を読み合い、感想を交流する。そして、学習を振り返る。

板書の基本

対比関係が一目で分かる板書

本教材「やまなし」は、色彩表現から見える「明」と「暗」、「かわせみ」と「やまなし」で対比的に描かれる命、「五月」と「十二月」で描かれる「現実」と「理想」の世界など、2つを比べ対比関係に気付くことで、より深い読み取りをすることができます。

3/8時間目の板書では、「二匹のかにの子どもら」の心情や様子から「かわせみ」と「やまなし」の関係に気付かせます。対比させたい2つを同じ色で囲ったり、「魚を食べるかわせみ」と「かにたちに食べられるやまなし」など似た言葉を使って表したりすることで、関係を一目で分かりやすくします。

6/8時間目の板書では、「かわせみ」と「やまなし」から「五月」と「十二月」の世界観、そこから結び付く宮沢賢治の生きてきた「現実」と追い求めていた「理想」など、対比関係が一目で分かるように、上下2段で表します。

作品の構成が一目で分かる板書

「やまなし」は、「冒頭の一文、五月(1場面)、十二月(2場面)、末尾の一文」の額縁構造で描かれています。一見見落としがちな、冒頭・末尾の一文にも、中を深く読むためのヒントが書かれている構成は、作品の魅力の1つでもあります。

そこで3/8時間目の板書のように冒頭・末尾の一文を短冊に記し、その中に「五月」「十二月」をカードで示し、一目で作品の構成が分かるよう工夫します。そのことで、「二枚の幻灯」が表す意味や、「幻灯」という言葉に込められた思いについて、考えやすくさせます。

板書を利用した授業の進め方(3/8時間目)

小6国語「やまなし」板書
3/8時間目の板書

1 本時のめあてを確かめる

「やまなし」は「五月」と「十二月」の2つの場面で構成されていることを確認した後、本時のめあて、〈「五月」と「十二月」を比べて読もう。〉を板書します。

2 物語の構成を捉える

本教材は、「五月」と「十二月」の2つの場面が冒頭部分「小さな谷川の底を写した、二枚の青い幻灯です。」と末尾部分「私の幻灯は、これでおしまいであります。」の一文に囲まれている額縁構造であることを理解させます。続いて、冒頭部分と末尾部分の一文を書いた短冊を貼り、中の部分に「一 五月」(ピンク)「二 十二月」(黄色)のカードを貼ります。

3 冒頭部分について考える

「二枚の青い幻灯」という言葉に注目し、赤ペンで波線を引きます。その後、表す意味について子供たちが考えた意見を、赤チョークで板書します。「幻灯」という言葉は、馴染みがない言葉なので、辞書で言葉の意味を調べた後、イメージさせやすくするために写真やイラストを提示し、黒板に貼ります。

4 「五月」と「十二月」の世界について考える

まず、それぞれの場面の登場人物について考え、白チョークで板書します。そこから、2つの場面に共通して出てくるのが、「かにの子どもら」と「お父さん」であることを確認します。この物語は、誰の気持ちが多く語られているのかを考え、「かにの子どもら」であることを確認し、黄色チョークで囲みます。

具体的に、次のような手順で指導します。

《「五月」の世界について》

①「かわせみ」についての叙述を確認し、板書します。その際、「見えなくなった魚」はどうなったのかを考え、「死んでしまった、かわせみに食べられてしまった」など、子供たちの考えを赤チョークで書き足します。

②「かわせみに食べられてしまった魚」を表すために、「かわせみ」と「魚」を黄色の矢印でつなぎます。次に「魚」と「クラムボン」の関係について考えるために、クラムボンの正体について考えさせます。「プランクトン・あわ・微生物」などの子供たちの発表を赤チョークで書きます。その後、「魚」によってなくなってしまったことを表すため、「魚」と「クラムボン」を黄色の矢印でつなぎます。

③「かにの子どもら」から見える「かわせみ」について考えます。「かわせみ」の描写や、会話文から、「こわい・ふるえる」など恐怖を与える存在であることを確認し、2つを矢印でつなげ、「かにの子どもら」の「かわせみ」に対する気持ちを矢印の下に書きます。

《「十二月」の世界について》

①「やまなし」についての叙述を確認し、板書します。特に、子供たちがよく目にする「梨」との違いを伝えるため、「やまなし」の写真を提示し、貼ります。私たち人間から見ると小さい「なし」に見える「やまなし」は、「かにの子どもら」から見るととても大きな「なし」であることを確認します。

また、「熟している」という言葉に注目し、「やまなし」としての命の終わりに近い状態であること、「おいしい酒になる」という言葉から、「食べられる(飲まれる)」存在であることを押さえます。

②「かにの子どもら」から見える「やまなし」ついて考えます。「やまなし」の描写や会話文から、「おいしそう・二日待つと…」など希望を与える存在であることを確認し、2つを矢印でつなげ、「かにの子どもら」の「やまなし」に対する気持ちを矢印の下に書きます。

5 「かわせみ」と「やまなし」を比べる

「五月」を象徴するのが「かわせみ」、「十二月」を象徴するのが「やまなし」であることを確認します。そして、「かにの子どもら」から見える「かわせみ」と「やまなし」の印象について話し合い、2つの関係が対比であることを確認します。そして黒板上部に大きく双方向の矢印で2つをつなぎます。

6 末尾部分について考える

「私の幻灯」という言葉に注目し、赤ペンで波線を引きます。冒頭にも「幻灯」という言葉が使われていることから、「夢や理想」を表しているのではないか、「私」とは「宮沢賢治自身が語り手」ではないか、などの子供たちの発言を赤チョークで書き足します。

板書を利用した授業の進め方(6/8時間目)

小6国語「やまなし」板書
6/時間目の板書 

1 本時のめあてを確かめる

本時のめあて、〈宮沢賢治はどうして「やまなし」という題名をつけたのだろう。〉と板書し、資料「イーハトーヴの夢」で学んだ宮沢賢治の生き方・考え方と、「やまなし」の世界を結び付けて考えることを確認します。そして、その2つを結び付けることで、「宮沢賢治が作品に込めた思い」や「題名の意味」について深く考えることができることを伝え、板書します。

2 宮沢賢治の生き方・考え方と「やまなし」を結び付ける

まず、板書中央に左右に長く線を引き、上下に分けます。黒板上段を「かわせみ」が象徴する「五月」の世界、下段を「やまなし」が象徴する「十二月」の世界とし、カードや赤チョークで記します。

その後、次のような手順で考えを広げていきます。

①「やまなし」の学習を想起させ、「五月」の場面で「かわせみ」がもたらしたものは何かについて、「かにの子どもら」目線で考えさせます。その後、子供たちの考えを、上の段に箇条書きで板書します。

子供の考えの例:死の恐怖、いきなり(突然)の死、命が一瞬でうばわれる、こわい、自然のきびしさなど。

②「十二月」の場面で「やまなし」がもたらしたものは何かについて同じく「かにの子どもら」目線で考えさせ、その後、考えを下の段に板書します。

子供の考えの例:楽しみ・希望・喜び、人のためにささげる命、命をたくす・与える命、自分よりもだれかに、自然のめぐみなど。

③「五月」と「十二月」で対比関係になっている部分に黄色チョークで波線を引いた後、双方向の矢印(赤チョーク)でつなぎます。

④資料「イーハトーヴの夢」の学習を想起させながら、次のように学習を進めます。
初めに、黒板を上下に分けた線の上に「宮沢賢治の人生」とカードを貼り、彼の生き方・考え方について「やまなし」で描かれた世界と関連のある個所を発表させます。

「五月」の世界と関連のある出来事や生き方・考え方、子供の考えの例
・災害・農業の不作・伝染病
⇒多くの命が一瞬にして奪われる・こわい・死の恐怖など

「十二月」の世界と関連のある出来事や生き方・考え方、子供の考えの例
・自身が病気で苦しいときでも農業について教えていた
・最後の最後まで決めたことをやり抜いていた・命を全うしていた
⇒人のために自分の力をつくす・未来に希望をもつ・自分を犠牲にしても誰かのために力を注ぐなど

次に、「やまなし」の世界と関連される個所に黄色チョークで波線を引きます。

そして、「五月」の世界、「十二月」の世界がそれぞれ表しているものについて考えます。子供たちの発表から、上段に現実、下段に理想と書き、強調されるよう四角く囲います。

3 題名を「やまなし」にした理由について考える

題名である「やまなし」は「十二月」の世界にしか登場しないこと、「十二月」は賢治の「理想」の世界であることから、題名の意味について考え、発表させます。

 

構成/浅原孝子

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
見やすく理解しやすい「単元別 板書の技術」元京都女子大学教授・同附属小学校校長 吉永幸司監修
関連タグ

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました