心の病で休職を経験した教員が伝えたい「定時で帰るためにできる工夫」
過労により「心の病」を患ってしまった公立小学校教師のリアルな体験談。休職を余儀なくされた松原教諭は、「定時に帰る」ことの重要性を強く訴えます。何をどうしたら定時に帰ることができるようになったか、長時間労働で苦しんでいる先生のために、具体的に教えてくれました。
執筆/東京都公立小学校・松原夢人

教員生活10年以上が過ぎ、仕事は順調そのものだった松原教諭が侵された「心の病」。自ら進んでやっていたはずの「長時間労働」は、知らぬ間に教諭の心身を蝕んでいました。
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目次
「定時で帰らないと悪化する」と医師からの忠告
私は「心の病」となり2週間休んだ後、なんとか学校現場に復帰できました。しかし、病院の担当医からは「疲れないように働くこと。定時で帰らないと病状が悪化する恐れがある」という忠告をされてしまったのです。当然ながら、休日出勤も禁止です。教員になってから、出張以外でほとんど定時に帰ったことがなかった私にとって、大きな挑戦でした。担任をしている6年生の子供たちや保護者、周囲の先生、家族、そして何より自分のために仕事を続けるしか選択肢がありませんでした。振り返ってみれば、すぐに長期間の休職をするという道もあったかもしれませんが、当時は想像すらつきませんでした。
残業や休日出勤するメリットvs定時で帰るメリット
私は残業や休日出勤に何の疑問を感じることなく、教員として長年働いてきました。しかし、「心の病」によって制約を受けた時、残業や休日出勤するメリットは何なのか、もし定時に帰ったり休日にゆっくり休めたりしたらどんなメリットがあるのかを整理して考えみたくなったのです。
【残業や休日出勤をするメリット】
- 終わっていない仕事を処理することができる
- 周囲を気にすることになく働くことができる
- 夜遅くに帰ってくる保護者と電話で話すことができる
【定時で帰るメリット】
- 持続的に仕事ができる
- 病気が悪化しない
- 持病を抱えたままでも、なんとか仕事ができる
- 病院へ行っても間に合う
- 早い時間に寝ることができる
- 睡眠のサイクルが乱れなくなる
- 疲労を回復させ、翌日のパフォーマンスが上がる
- 家族との時間(子供と入浴、一緒に夕食、遊びに出かけるなど)が増える
- 夕食の時間が早くなり、太らなくなる
- 友人と会える
- 趣味の時間が増える
- 外部の研修会やセミナーに参加できる
- 仕事帰りに書店に寄れる
- 読書の時間が確保できる
- 整骨院に通える
- 定時を守るためのタイムマネジメント力(時間管理能力)が上がる
- 「時間を守る」という模範的な行動を子供に示すことができる
- 労働生産性(1時間あたりで生み出す成果)が向上する
- 会議時間が短くなる
- 要点だけを話すようになる
- 雑談が減る
- 同僚が定時前に仕事の伝達をしてくれるようになる
- 仕事の取捨選択ができるようになる(できない仕事を断れる)
- 時間内に仕事を終わらせようと工夫するようになる
書き出してみて気付いたことには、定時で帰るメリットがたくさん思い浮かんでくるのです。そして残業するメリットを考えようとしても、なかなか挙げることができませんでした。
客観的な情報がほしかったので、本で調べることにしました。大型書店の端末やオンライン書店で「残業」というキーワードを検索してみると、「残業ゼロ」「時短」「仕事が速い」「残業削減」という題名の本がたくさん出てきます。実際に書店で本の内容を確認したり、購入して読んだりしましたが、「残業をすれば生産性が上がる」という主旨の本は1冊も見つけることができませんでした。どれも残業のデメリットを強調する内容のものばかりです。
当たり前に残業していた私でしたが、「病気になって残業ができなくなってしまった」という悲しみから、「定時で帰るのは、おかしいことではない。むしろ、推奨されるべきことなんだ」と意識を変えるきっかけとなったのです。
2週間の休職から復帰した直後は、自分が残業をしないことを正当化しようと必死だったところもあります。しかし、教員の長時間労働が大きな問題となり働き方改革が進められている現在では、間違っていなかったと捉えています。