人に仕事を任せるとは?【伸びる教師 伸びない教師 第55回】
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豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載。今回のテーマは、「人に仕事を任せるとは?」です。人に仕事を任せるとはどういうことか、一緒に仕事をする利点などについての話をお届けします。
執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)
栃木県公立小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を務める。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。
目次
人に仕事を頼むことが苦手
私は、30代半ばまで⼈に仕事を頼むことが苦⼿でした。⼈に仕事を頼むことが苦⼿だったのは、相⼿も忙しいから申し訳ないという気持ちが強かったからでした。
体育主任として運動会を中⼼となって運営していたときも、各係で必要なものをあらかじめ私が準備したり、休⽇に学校に来てグラウンドの整備・⽯拾いを1⼈でしたりするなど、ある程度お膳⽴てをすることで他の教師の負担にならないよう気を遣っていました。
また、⼈に仕事を頼むより⾃分1⼈でやってしまったほうが効率的だという考えも私の中にありました。⼈にお願いをすると、まず、仕事の説明をしなければなりません。そして進捗状況をチェックします。最終的にできたかどうかを確かめ、できたときにはお礼を⾔います。その過程に労⼒や時間を費やすならば⾃分1⼈でやってしまったほうが早いと思っていました。
本来、相⼿がするべき仕事を私が代わりにすると「本当に助かりました」と感謝されることもありました。そうした⾔葉をかけられ、⾃分としては相⼿の役に⽴てたという充実感に浸っていました。
保護者に手助けしてもらう
しかし、あるときからその考えは変わっていきました。
私が30歳の頃、ある⼩学校に赴任しました。当時、その地区では学校が主催する陸上大会がありました。各学校の代表の子供たちが集まり、100m、走り幅跳び、走り高跳び、リレーなどの競技で争いました。
それぞれの学校で、大会が近くなると陸上部を立ち上げ、大会に向けての練習を重ねていました。それは、大会が終わると解散するという期間限定の陸上部でした。
私は、自分が学生時代に陸上部だったこともあり、何とか1年を通して指導できないかと校長先生にお願いし、通年で活動する陸上部を立ち上げました。
はじめは、10名程度の小さな部活動でした。1年目は、週に2~3日の練習でしたが、2 年目以降は部員が30名近くに増え、練習も週5日になりました。
大会で上位入賞を目指す子もいれば体力づくりで入部している子もいました。私は、部活動を通して「走る速さがすべてではない。走る楽しさを感じてほしい」そんなことを思っていました。
学校主催の大会だけでなく、全国大会につながる大会、駅伝大会、マラソン大会などいろいろな大会に参加しました。しかし、大会中は、次の競技に出場する子供たちのウォーミングアップをすることに精いっぱいで、実際に子供たちが走っている様子をなかなか見ることはできませんでした。さらに部員の人数が増え、1人で指導する限界を感じていたとき、あるお父さんが大会のウォーミングアップを手伝ってくれました。大会が終わった後、そのお父さんにお礼を言うと、こんな言葉が返ってきました。
「1人でなんでもやろうとするなよ、先生。俺たちにできることは何でもするから。周りにはたくさん人がいる。甘えてもいいんだよ」
それからは、練習を手伝ってくれる保護者が1人、2人と増え、最終的には6名の保護者が分担して子供たちの練習を見てくれるようになりました。
この部活動は、私がこの学校を異動した後も保護者が引き継いでくれ、現在も40名以上の部員が在籍し活動を続けています。
