安全で安心な教室環境ってどういうこと?|特別支援教育のケーススタディ
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- 特別支援学級の学級経営

特別支援学級に配属されたものの、学級経営に悩む若手の先生方が多くいると聞きます。実際に学級内ではどのようなことが起こりがちなのでしょうか。ここでは、兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザーの関田聖和先生が、特別支援教育のケーススタディを指南。特別支援学級だけではなく通常学級での特別支援にもお役立てください。
構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和

目次
新しい学級の始まりは教室環境を整えることからスタート
新年度に向けて準備しておきたいことはたくさんあります。ここで一度リセットして、新たな気持ちで臨めるといいですね。年度当初のお仕事チェックリストは、こちらを参考にしてくださいね。
さて、学年がひとつ上がり、新しい教室でスタートする時期にこんなケースがよくあります。
先生~~~~
しゅんたくんが教室で急に走り出して、机にぶつかって泣いているよ
え!! 机にぶつかった💦
何でそんなことが~~~~~~~~~~~~
子どもたちへの準備の第一歩は、教室環境を整えることです。しゅんたくんのような痛い目に遭わないように、「専手必笑」(専門的な手だてで必ずみんなが笑顔になれる)で取り組んでみましょう。私の失敗談も含めて、4つにポイントを絞って、お伝えします。
ポイント1 子どもたちにとって、見やすく、分かりやすく、簡潔な掲示を
特別支援教育がスタートした頃、「視覚情報刺激を減らすためにシンプルにしましょう。なので黒板の周囲には、何も貼らないでおきましょう」といった事例をよく聞きました。
実はそうではないんですよね。
掲示しておくものの精選が必要だということです。
めあてであったり、合言葉であったり、大切にしたい言葉などは、掲示しても大丈夫です。もちろん子どもの育ちの中で、不要になったのであるならば、はがすことも視野に入れて作成し、掲示します。
ですが、光が当たるときらきら光ったり、風が入るとひらひら揺れてしまうような掲示物はNGです。子どもたちにとって、見やすく、分かりやすく、簡潔な内容にして掲示したいですね。
ポイント2 子どもといっしょにレイアウトの変更
子どもたちの特性を鑑みながら、教室内の動線を考えてみましょう。実際に物を置きながら、
「図工の道具を取りに行くときは、このように通るかな」
「本は、こちらにそろえた方が、使いやすいかな」
など、机上ではなく、実際に置きながら考えるといいですね。子どもの動線を意識した教室内の構造化を図っていくのです。また、学校の教室がほとんど同じ構造の校舎で、単学級が続く高学年の場合、物の位置がなんとなく同じところになり、子どもたちに習慣化されているようなことがあります。
どうして、学級文庫をこの場所にしたの? ず~っと、教室の入り口付近にあったのに……
以前、子どもからこのように言われたことがあります。特性のある子どもたちにとっては、大きな変更と認識することもあります。この小さなストレスの積み重ねによってトラブルを引き起こすとも考えられなくはないので、ほかの先生方とどんな教室レイアウトにすればよいか、話し合えるといいですね。先生同士の新年度のコミュニケーションにもなります。
特別支援学級では、より注意が必要です。前年度まで在籍している子どもにとっては、新年度というだけで負荷がかかっているうえに、「3月まであったものが、4月になったらいつもの場所にない!」と、困ってしまう子どももいます。
前年度の担任の先生と配置を確認しながら行いたいものです。場合によっては、レイアウトを考えておいて、実際に配置変更をするのは、子どもたちといっしょに行う方が、良い場合もあります。
ポイント3 画びょうやS字フックも意識して配置する
前年度の掲示物をはがしていると、画びょうの頭部が取れてしまい、針だけが残っている掲示板に出合うことがあります。ラジオペンチなどで、確実に抜いておきましょう。
また、掲示物を貼っていて画びょうが余ったとき、ケースに戻すよりも掲示板の隅に刺しておくほうが、次が楽だなと感じることもあります。しかし、これは避けたい事柄です。刺しておいた画びょうが何かしらの原因で子どもの体内に入り、重大な事故につながってしまった学校事例があります。
掲示物の画びょうが取れたらすぐ分かりますが、余った画びょうが外れてもなかなか気づきにくいものです。必要分以外は、掲示板に刺さないようにしましょう。
このほか、給食のエプロンや小さなかばんをかけるために、教室の隅にフックを設置することもあるでしょう。こちらも、L字フックよりもS字フックのほうがおすすめです。なぜなら、L字フックは服に引っかかりやすく、引っかかった拍子にケガなどにつながるケースもあります。とくに教室の入り口付近に設置する場合は、子どもの動線を考えて、できるかぎり教室内に収まるようにしましょう。
もちろん、フック類は設置しない方がより安全といえます。ランドセルのロッカーなどがある場合、余ったスペースを使って、保管することも可能です。子どもたちの動線を想像しながら、「危ないかも?」という意識で、教室環境を整えていきましょう。
ポイント4 運動場側や階数を意識する
運動場側に窓がある場合は、全開にできないようにしておくことも大切です。換気のために全開にしておきたいときもありますが、転落防止の観点から、子どもの頭の大きさを目安にして、窓を開く幅を考えます。
窓のレールにつけることで、それ以上窓が開かなくなる転落防止用の器具も売られています。教室が2階以上の場合、こちらを用意しておくのもおすすめです。角材を窓の下枠にはめることでもストッパーになり、転落防止の代用になります。その際、角材はすぐに取れないよう固定しましょう。
もちろん、それだけではなく本棚などの置き場所も同じです。本棚に乗り上げて、窓を開けて転落する可能性のあるところには配置しません。これは消防法でも禁止になっています。防火管理者の講習会などでも、確認されることでもあるので、資格をもっている先生方から、詳しく聞いてみましょう。
学校事故についてはこちらの記事も参考にしてください。
繰り返される”学校事故”専門家が警鐘を鳴らす事故の共通点とは
物理的な安心安全な学級環境は、先生たちで作り上げ、子どもたちとともに活用しながら、より良いものにしていきましょう。「先生たち」の「たち」が大切です。多くの先生の目で確認しながら、取り組むことができるといいですね。
イラスト/terumi