新年度を笑顔でスタートするための心構え|4月【特別支援学級の学級経営】
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文部科学省からは、すべての新任教員が10年以内に特別支援教育を複数年経験するよう努めるように通知が出されています。特別支援の知識や経験が乏しいまま、手探りで特別支援学級を担任している先生も多いことでしょう。この記事では特別支援学級でよくあるケースを挙げて、その道の専門家がポイント解説します。今回は新年度最初に行われる入学式や対面式などについてのお話です。
構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和

目次
登場人物
皆川先生:自閉情緒クラス担当。教師生活25年のベテラン。特別支援学級主任・特別支援教育コーディネーター
島原先生:知的クラス1担当。教師8年目。特別支援学級担任1年目
根本先生:知的クラス2担当。教師3年目。特別支援学級担任2年目
しゅんたさん:皆川先生担当。独特な自分の世界をもっていて、彼なりのルールがある。他人とは打ち解けるまでにかなり時間がかかる。粘土や工作などは緻密で動物などは本物そっくり、大人顔負けの作品を作りあげる。
長期目標:同じクラスの友だちといっしょに作品作りをすることができる
短期目標:大人といっしょに作品作りをすることができる
るなさん:島原先生担当。よく動く。出し抜けにしゃべる。思いついたことをすぐに伝えてしまう。言わないでいいことまで言ってしまうことがある。発想が豊か。次から次へと案が浮かぶ。
長期目標:会話のキャッチボールを楽しむことができる
短期目標:先生としりとりなどの遊びに取り組むことができる
ゆうかさん:根本先生担当。不注意。衝動性が高い。よく忘れてしまう。様々なことが気になってしまい、失敗することが多い。いろいろなことに気が付いてくれるので、友だちが忘れていたことを思い出してくれるようなことがある。
長期目標:タブレットで記録を取ることができる
短期目標:タブレットで必要な事柄を写真に撮ることができる
4月のとある日の教員室での会話
(皆川先生)
いよいよ新年度、同じ顔ぶれになったけど、よろしくお願いしますね。
(根本先生)
はい、よろしくお願いします。早速ですが、新しく入学してくるせいさんと、新しく仲間入りするかずくんが増えますね。
(島原先生)
そうですね。かずくんは、昨年度、るなさんの隣のクラスにいたのでよく知っています。入学してくるせいさんのこと、まだ詳しくないんですよね。
(根本先生)
まず、せいさんは入学式に向けての準備ね。そして、かずくんは個別の指導計画を立てながら考えていきましょう。
4月は桜も咲いて、なんだかうきうき、わくわくする反面、どきどきもありますよね。とくに新入生は、新しい環境に出合います。今までと違うことに困難さを見せたり、目に留まるものすべてが新鮮に感じ、確認していくことが必要な子どももいます。
この時期は、野中信行先生が提唱される「3・7・30の法則」がいい得て妙です。
最初の3日間、次の7日間、そして30日間に学級で何をなすべきか。また学級をどのような状態にまで導くといいのかを日数を目安に考えているシステムになります。60日、90日を追加して見通しをもつ実践をされる先生もいます。これは、通常の学級だけではなく、特別支援学級にも使えるシステムです。
【POINT1】入学式の前日にリハーサルすることも一考する
新入生の不安は、どの子も同じです。特別支援学級の子どもだけではなく、保護者から希望があったり、学校側から声をかけるなどをしたりして、入学式会場の下見を行うと良いでしょう。これは、子ども自身が見通しをもつために有効です。事前に会場に入って、実際を見ておくことで、安心して入学式に臨むことができることが多いです。
ただし、体育館で行うからといって、入学式の準備が行われていない状態に入っても意味はありません。できれば前日が良いです。入学式のリハーサルなので生花が用意されたり、紅白の幕などが張られたりした中で下見を行うことが重要だからです。においや音なども事前に確認できます。マイクを使うのならば、先生が「……入学式を始めます」などのセリフを聞かせることもいいでしょう。
その際、音が大きすぎれば過敏さを見せることがあります。保護者の方に就学前の様子をうかがいながら、行いましょう。場合によっては、マイクの使用を控えることも一考しなくてはいけません。式次第の順にやってみせて、伝えていきながら、歩くコースや近くにいる先生は誰なのかなど、確認できることを事前にしておくといいです。このときに確認したこと、入学式での様子などを個別の指導計画にエピソードとして記録しておくと、その後の指導に役に立つことがあります。入学直後は、子どもの背景理解が大切ですので、こまめな記録をお勧めします。
【POINT2】各クラスへの伝え方を保護者と共有しておく
入学式後、教室に行くことでしょう。特別支援学級で過ごすのか、交流としていく教室どちらへ向かうのかを保護者と確認しておきましょう。できれば、タイミングを見計らって、両方の教室に行けるといいですが、入学式当日は、無理をせずに進めましょう。ただし、こだわりの強さによっては、行った場所にしか行かなくなる子どももいるので、これも保護者の方と確認します。
新入生だけではなく、各クラスへ交流に行く場合、「どうして、かずくんは、特別支援学級に行くの?」といった周囲の子どもたちからの質問にも対応できるように、「ゆっくりと時間をかけて学習に取り組む教室にも行くんだよ」と伝えるなど、保護者の方との共通理解があればいいでしょう。本人の安定につながることはもちろんですが、保護者の方の安心にもつながることでしょう。
ケースによっては、オープンにしないでほしいという場合もあります。保護者と本人の気持ちが一番です。決して無理をせず、できることとそうでないことを確認しながら、その子どもにとって一番いい伝え方を保護者の方と共有しましょう。この共有したことも、個別の指導計画に記録しておきましょう。
【POINT3】「いってらっしゃい」と「おかえり」
また、周囲の子どもたちが自然に応援できるような言葉かけを促すのもいいでしょう。特別支援学級に行くときは、「いってらっしゃい」。帰ってきたときは、「おかえり」などのやり取りを入れるだけで、温かい雰囲気の学級になるだけではなく、帰属意識も生まれ、その子の意欲が増すかもしれません。交流学級の一体感も生まれます。
これらの言葉は、特別支援学級で過ごす時間、交流としていく教室の時間との切り替えの合図にもなります。見通しももつことができ、有効な手だてです。
そろそろ入学式の準備に入るわよ。
るなさんたち、新一年生にやさしくできるかなあ。
大丈夫だよ。みんなでこの一年も楽しんでいきましょう。
いかがでしたか。入学する子や学年がひとつ上がる子、期待と不安が入り混じった4月がスタートします。保護者との情報共有や事前の確認、こまやかな観察記録などの丁寧な準備こそ、見通しを持たせた今後の学級経営に欠かせません。「専手必笑」(専門的な手だてで必ずみんなが笑顔になれる)で、充実した1年になりますように!
イラスト/terumi