【木村泰子の「学びは楽しい」#37】「未来の学校」をつくるために

子どもたちが自分らしく生き生きと成長できる教育のあり方について、木村泰子先生がアドバイスする連載の37回目。今回は、お二人の先生から届いたメッセージをもとに、未来の学校をつくるために必要なことを考えていきます。(エッセイのご感想や木村先生へのご質問など、ページの最後にある質問募集フォームから編集部にお寄せください)【 毎月22日更新予定 】
執筆/大阪市立大空小学校初代校長・木村泰子

目次
新年度は学校が変わるチャンス!
6年生が卒業し、新たな年度を迎える準備が始まりましたね。異動があったり、初めて出会う子どもが入学してきたりと、大きく学校が変わるチャンスの時です。
そんな今、まさに、旬のテーマにつながるメッセージをお二人の読者の方からいただきました。この機会にみなさんで共有して、いっしょに問い直しましょう。
「これからの学校のあり方について」の私の考え方についてご意見ください。
1 基盤となる教育観は「主体性」「当事者意識」と考えます
2 子どもの「主体性」が育まれるよう教職員全員で今ある教育活動すべてを問い直す
3 可能な限りの教育活動を子どもに委ねる
4 自己決定の場、自己肯定感が育まれるよう 大丈夫? どうしたいの? どうしたらいい? 常に この声かけを心がける
5 地域や企業、大人に学校教育活動に関わってもらう
6 将来を見通したキャリア教育を小中つなげる
7 自由進度学習など、子ども単元単位の、子どもが主体的に進める授業の展開
保護者、地域の皆さんのご理解、協力をいただきながら、これらの取り組みを進めることが全ての子どもの学びを保障する学校づくりになると思っていますが、周りの皆さんにご理解いただけません。 木村先生のご意見をお伺いしたいです。
まさに直球のメッセージですね。
1.主体性と当事者意識 2.全教職員ですべての教育活動を問い直す 3.子どもに委ねる 4.問いかける 5.地域の力を活用する 6.小中でキャリア教育を 7.子どもを主語にした授業の創造
ここに挙げていただいた7つの視点はどれも「未来の学校」をつくるためには不可欠の視点ばかりです。どれか一つが欠けても「未来の学校」はつくれません。それなのに、なぜ反対する人がいるのでしょう。ここですよね。
大人は過去の経験値は豊富ですが、未来は誰も知らない未知の世界です。だからトライするのが不安なのです。つまり子どもの前で「教えるプロ」でなければならないとの過去の教員像から解放されていないのです。
子どもに決めさせたら大変なことになる。失敗させないように指導するのが教員の仕事だ。それぞれがバラバラに動けば統率が取れなくなる、などの過去の「指導観」を転換できない困り感があるのです。
未来をつくるためには、過去の教員がもつ「指示・号令・命令」を捨てて「問いかけ」に変えることです。問いかけは他者との対話を生みます。未来をつくるツールは対話です。職員室の中に(分かってくれない・残念な先生・子どもの敵……)などと感じる人たちがいるのが、教育改革まっただ中の現在の学校の当たり前なのです。だからと言って決してあきらめることなく、1ミリずつでも進めばそのうちに大きく変わります。ひるむことなく、批判せず、子どもだけを見て未来の学校をつくりましょう。必ず、実現します。
子どもが見ていますから!
子どもの多面的な理解のため、個別最適な支援のため、チーム学校で子どもを育てるため、主体性と当事者意識を育む組織への問い直しを続けて2年。ようやく3年生以上の普通学級でチーム担当制度の導入がこの4月に実現します。 しかし、本丸は特別支援学級のチーム担当化、それをさらに進めてインクルージョンの実現です。 今、一人ひとりの特別支援学級の保護者と対話を重ねて、インクルージョンやチーム担当をするとしたらどんな不安がある?って、聞いています。聞くこと自体にたくさんの学びがあります。しかし保護者の不安に寄り添った未来志向の言葉が自分から中々出てきません。理念だけで進めようとしている自分の浅はかさを思い知らされます。
みんなと一緒の教室でみんなのペースで学べない時の不安、 少人数で静かな場でないと安心できないという不安、みんなで過ごすことによるストレスが家で爆発するのではないかという不安、色々な先生の個性に対応できないという不安、つまり担任固定が安心、文字や言葉にならない共有すべき情報もあるという不安。
もちろん、慣れるのに時間はかかりますが、一緒に頑張ろう、社会に出て行くのだから必要なスキルだという声もたくさんいただきます。 普通学級の授業が自由進度学習的なものになり切らない中、インクルージョンの難しさを感じています。
「普通学級」が変わらない限り、「インクルーシブ教育」は成立しません。「ふつう」と「特別」を一緒にするのがインクルーシブではないからです。学校の中の「ふつう」を捨てない限り、インクルージョンな学びの場は実現しません。
「ふつう」があれば必然的に「特別」が生まれますが、「ふつう」を捨てると「特別」は生まれません。子どもは子ども同士の関係性の中で育ち合います。社会につながる力はそれぞれに違いをもった子ども同士の学び合いの中でしか獲得できません。未来をつくるのは今目の前にいる子ども同士です。そのためには学校が地域社会でなければならないのです。
学校の中で「障害」を理由に子ども同士を分断している環境は、誰も取り残さない社会をつくる大人になることにはつながりません。また、「健常」や「障害」で子ども同士を分断するのは、「子どもの権利条約」に反することも問い直しが必要です。
「いつもいっしょが当たり前」の環境の中で、子どもは自分で自分の学びの場を見つけていけばいいのです。大人は過去の学校の経験値から、いただいたメッセージの中にあるような不安を訴えられますが、あくまでも大人の不安です。どれだけ「重度の知的障害」と診断され、言葉をもっていない子どもでも、自分のことは自分で決める力をもち備えています。周りが気づかないだけです。
大人の不安で子どものチャレンジを止めたくはありません。子どものそばにいて、その子が困ったときに周りの子どもとつなぐ仕事が教員の支援です。これまでの過去の学校の当たり前を常に問い直して、すべての子どもが違いをリスペクトし合い、対等な関係性で学び合える環境をまずは生み出しませんか。そのための手段が「チーム担当制」です。
1秒先の未来は誰も知らないから、未知の世界で誰もが不安です。だからこそ、大人のみんなで手をつないで支え合うチームが必要なのです。そして、未来をともにつくる子どもと「学びのパートナー」になることがこれからの教員の仕事です。失敗したらやり直せば、成功体験に変わります。新年度に向けてトライしましょう。
〇未知の世界は誰しも不安で、「過去の教師像」に捕らわれがちなもの。子どもだけを見て、職員室での対話を通して、過去の指導観を転換させていこう。
〇社会につながる力は、違いをもった子ども同士の学び合いの中で育つ。「障害」の有無にかかわらず、「いつもいっしょが当たり前」の環境で、子ども同士をつなぎ、学び合える環境をつくろう。
〇未知の世界に向かって、大人がチームになって支え合いながら、未来をともにつくる子どもと「学びのパートナー」になっていこう。
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きむら・やすこ●映画「みんなの学校」の舞台となった、全ての子供の学習権を保障する学校、大阪市立大空小学校の初代校長。全職員・保護者・地域の人々が一丸となり、障害の有無にかかわらず「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに尽力する。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」流・自ら学ぶ子の育て方』(ともに小学館)ほか。