【連載】堀 裕嗣&北海道アベンジャーズが実践提案「シンクロ道徳」の現在形 ♯7 先生~上級生としての心構え

連載
堀裕嗣&北海道アベンジャーズの シンクロ道徳の現在形
堀 裕嗣&北海道アベンジャーズが実践提案「シンクロ道徳」の現在形 バナー

堀 裕嗣先生が編集委員を務め、北海道の気鋭の実践者たちが毎回、「攻めた」授業実践例を提案していく好評リレー連載第7回。今回は札幌の有原賢治先生による小学5年生を対象とした実践です。

編集委員/堀 裕嗣(北海道札幌市立中学校教諭)
今回の執筆者/有原賢治(北海道公立小学校教諭)

1 この授業をつくるにあたって

4月に6年生が1年生のお世話をするという取組を行う学校は多いのではないでしょうか。1年生に学校生活への安心感をもたせるためにも、6年生に最高学年としての自覚を芽生えさせるためにも、効果的な活動だと感じています。

しかし、この活動を始める際の子どもたちの心構えのつくり方には、いささか強引さを感じています。つい数日前まで5年生だった子どもたちが、4月になった途端急に「最高学年なのだから」と担任にただ力説され、その意義も分からず、意欲も喚起されず、1年生のお世話を始めてしまっているようにも思います。結果、やらされているという感覚で取り組む子も少なくないのではないでしょうか。
もう少し、子ども自身がその意義を考え、少しでも自分からやろうという気持ちをもった状態でこの活動を始められないものか、と感じていました。

私は絵本が好きです。幼少期に母が私にたくさんの絵本を読み聞かせてくれたからでしょう。実家には、母が定期購入していたであろう絵本のペーパーバックが、たくさん並んでいます。
実家だけでなく、我が家にもたくさんの絵本が並んでいます。ほとんどが保育士である妻のものです。私には息子と娘がいますが、よく二人にせがまれ、これらの絵本を読み聞かせています。

ある日、娘が『くんちゃんのはじめてのがっこう』(ドロシー・マリノ 作・絵/ペンギン社)という絵本を取り出してきました。期待いっぱいで初めて学校に行くこぐまのくんちゃんでしたが、上級生の難しい勉強を見て不安になり、教室から逃げ出してしまうお話です。

この絵本を娘に読み聞かせ、本棚に戻す際、別の本が目に留まりました。それは、『からすたろう』(八島太郎 文・絵/偕成社)でした。学校では、何一つ覚えられず、みんなに無視されていた少年のお話です。教師である私のために妻が勧めてくれた本であり、息子が一時期とても気に入り、何度も読み聞かせていた本でもあり、私にとって思い入れのある作品です。

どちらの作品も、主人公が最後には先生によって救われます。この2冊に登場する先生の行動や想いは、1年生に対して上級生がもつべき心構えとしてふさわしいものではないかと考えました。
この2冊の本をシンクロさせて授業をつくることにしました。

2 授業の実際

「先生」~上級生としての心構え
内容項目 : B 主として人との関わりに関すること 
(7)親切、思いやり  
対象:小学5年生


(1)もうすぐ6年生だからといって特別な想いをもっていないことを共有する。

「もうすぐ 6年生…。今、どんな想いをもっていますか? また、どんなことをしたいですか?」
少し考えさせた後、ペア等で自由に話をさせる。
全体で考えを交流し、もうすぐ6年生だからといって、特別な想いをもっていない人が多いことを共有する。

(2)『くんちゃんのはじめてのがっこう』を読み聞かせる。

「くんちゃんのはじめてのがっこう」表紙画像

「こぐまのくんちゃんは あるあさ とても はやく おきました。とっても うれしいことが あったのです。」から始まる『くんちゃんのはじめてのがっこう』のあらすじは、以下の通りです。

「くんちゃんは、学校に行くのが楽しみで、いつもより早く目を覚ましました。お母さんと一緒に登校する道すがら、花や動物たちに「ぼく がっこうへいくんだよ」と嬉しそうに話しかけます。

しかし、学校に着くと、お母さんと離れることが急に心配になりました。自分の席に座ると、黒板の前で上級生たちが難しい勉強をしているのを見て、さらに不安が大きくなります。
やがて一年生の番になり、先生に呼ばれましたが、緊張したくんちゃんは思わず教室の外へ飛び出してしまいました。窓の外から教室の様子をのぞいていると、先生が一年生にもできる簡単な問題を出します。

それを聞いたくんちゃんは思わず大きな声で答えてしまい、先生は笑顔で「はいってらっしゃい、くんちゃん」と優しく声をかけました。その言葉に安心し、くんちゃんは教室へ戻ります。
心配がなくなったくんちゃんは、お絵かきの勉強を楽しみ、先生にほめられました。翌朝、くんちゃんは昨日よりも早起きし、先生にあげるためのお花をたくさんつみました。」


(3)1年生であるくんちゃんの心情やその変化を理解する。

読み聞かせた後、発問し、以下のようなくんちゃんの心情を理解する。

「なぜ、くんちゃんは「ぼくがっこうへ いくんだよ」と何度も言うのでしょう?」
・初めて学校に行くのがとてもうれしかったから。

「なぜ、くんちゃんは教室から飛び出してしまったのでしょう?」
・上級生の難しい勉強を見て、心配になったから。

「なぜ、くんちゃんは、教室に戻ってこられたのでしょう?」
・先生が、くんちゃんやほかの1年生にも分かる問題を出したことで、それなら自分にもできそうだと思ったから。
・無理矢理、教室に連れもどすのではなく、心配を取り除いた後で笑顔で「戻ってらっしゃい」と言ったから。

「なぜ、くんちゃんは、先生にたくさんのお花をあげたくなったのでしょう?
・自分をさりげなく教室に戻してくれたり、お絵描きをほめてくれたりして、学校生活の心配を取り除いてくれたから。

(4)『からすたろう』を読み聞かせる。

「からすたろう」表紙画像

「ぼくたちが、むらの がっこうに あがった はじめての日のこと、男の子が ひとり いなくなっていました。その子は、きょうしつの ゆかしたの くらいところに かくれていました。」から始まる『からすたろう』のあらすじは、以下の通りです。

「その男の子は、誰も知り合いがいなく、体がとても小さかったため、ちびと呼ばれるようになりました。ちびは、先生を怖がり、学校の勉強を何一つ覚えられませんでした。そのため、先生やクラスの子たちから放っておかれたり、のけものにされたりしていました。ついには、違うクラスの年上や年下の子たちまで、ちびにつらくあたります。それでも、毎日毎日ちびは学校にやってきました。

そのまま5年が過ぎ、ちびは6年生になります。新しく、いそべ先生がちびのクラスの担任になりました。いそべ先生は、ちびが植物に詳しいことに感心しました。また、ちびにしか分からないような絵や、ちびにしか読めないような習字でも壁に貼り出しました。ちびと二人だけで話す機会をつくったりもしました。

そんないそべ先生は、学芸会でちびに特技であるからすの鳴きまねを披露させます。それをきっかけに先生は、会場にいる大人と子どもたちに、ちびの境遇を話して聞かせます。話を聞いたみんなは6年もの間、ちびにどれだけつらくあたっていたかを考え、改心します。
その後、ちびは「からすたろう」と呼ばれるようになりました。卒業後、からすたろうは、学校のあった村に訪れ用事を済ませた後、自慢げに肩をはって遠い山の家へと帰っていくのでした。」


(5)からすたろうの心情やその変化を理解する。

読み聞かせた後、以下の発問をし、からすたろうの心情を理解する。
「なぜ、5年間みんなからつらくあたられたからすたろうが、最後には自慢げに肩をはって歩けるようになったのでしょう。」

いそべ先生が、からすたろうのよいところに目を向けてくれたこと、そのままのからすたろうを認めたこと、周りの子を改心させたことなどをきっかけに、自分に自信を持てるようになったからだということを確認する。

(6)くんちゃんの先生とからすたろうのいそべ先生に共通していることを考える。

「くんちゃんとからすたろうの心情や環境の変化のきっかけをくれたのは誰ですか?」と問い、どちらも先生であることを確認する。

「くんちゃんの先生とからすたろうの先生に共通している行動や想いは何でしょう?」と問い、考えを交流する。どちらも、その子の状態をよく理解し、その子に合った支援をしていることやその子の良さを引き出していること、その子のありのままを受け入れていることなどの共通点を抽出する。

(7)上級生としての心構えをつくる

最後に以下のスライドを提示して、上級生としての心構えをつくります。

 先生=先に生まれた人 年上はみんな先生
 くんちゃんのように、心配になってしまう子
 からすたろうのように、一人になってしまう子
 いろいろな子が、この学校にいます
 いろいろな子が、この学校に入学してきます

 もうすぐ6年生…
 あなたは先生として 1年生や2〜5年生に
 どんな想いをもって関わりたいですか?
 また、具体的にどんなことをしたいですか?

上のスライドを提示した後、今日の感想を書いて授業を終えます。

3 シンクロ授業解説

『くんちゃんのがっこう』と『からすたろう』の絵本をシンクロさせることで、教材が一つの場合よりも、「上級生としてのふさわしい心構え」がより際立って見えます。その際立っている部分が何なのかを抽出する過程で、自ずと子どもたちは、より広く、より深く考えようとします。結果、教師が力説し、押し付けたりせずとも、子どもたち同士が考えを交流している間に、ある程度自然な形で、自分なりの「上級生としてのふさわしい心構え」が出来上がっていくのではないかと思います。

同じテーマ、価値観、問いなどを持った教材を見つけた際には、シンクロさせて授業を創れないか、と考えてみると、より子どもに機能する授業を開発できるかもしれません。

※この連載は原則として毎月1回公開します。次回をお楽しみに。

 

<今回の執筆者・有原賢治先生のプロフィール>
ありはら・けんじ。1985年岩手県生まれ。北海道教育大学札幌校卒。大学卒業後、
根室管内と十勝管内の小学校に勤務。東日本大震災を機に一度岩手県に戻り、子
どもの支援を中心とした震災支援ボランティア活動を行う。現在は、札幌市の小
学校に勤務。

 

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