次期学習指導要領では、指導事項の選択と配列の最適化、構造化が必要【中教審レポートと関係者インタビューで綴る 次期学習指導要領「改訂への道」#04】
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2024年12月25日、学習指導要領の改訂に向けた諮問文が示されましたが、それを受け、25年1月30日に中央教育審議会教育課程部会の下に、教育課程企画特別部会が設置され、第1回の会議が開かれました。現行学習指導要領への改訂でも教育課程企画特別部会が設置され、各教科等の議論を始める前に、改訂の方向性についての議論がなされましたが、今回も同様に、教育課程企画特別部会を中心に、改訂の方向性を議論していくことになります(同部会での文部科学省[以下、文科省]事務局による説明では、今秋をめどに同部会による議論をまとめる予定とのこと)。
そこで今回から、教育課程企画特別部会の親部会となる教育課程部会の奈須正裕部会長(上智大学教授)に、改訂議論を開始するにあたっての基本的な考えについて取材し、紹介をしていきます。初回となる今回は、現行学習指導要領の成果と「積み残し」を中心にお話を紹介していきます。
なお、学習指導要領改訂の諮問については、下記URLよりご覧ください。
https://www.mext.go.jp/content/20241225-mxt_soseisk01-000039447-01.pdf
目次
前回改訂は、内容中心から「資質・能力」基盤への学力論の重心移動
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今回の諮問文では、前段の現状分析の中で、「現行学習指導要領では…(中略)…全国学力・学習状況調査における地域間格差は縮小傾向にあり、OECDのPISA調査でも高位層の割合が増え、低位層の割合が減るなどの改善も見られています」とあります。
まさに、この間の学校関係者の努力の成果ですが、同時に、OECDも含め、世界中のいろんな国や地域の教育の専門家が研究を行い、何十年にわたって政策としてトライしてきた結果、こういう政策を行えば、こういうことが起こるということも一定程度見えていました。前回の改訂では、それを行ったわけです。何も日本だけが独自な考えで行っているのではなく、学術的にも政策的にも既知のことを基に改訂を行っており、現行学習指導要領への改訂時に、「必要な改訂はこういうことですよね」ということは見えていたわけです。
ただし先日開かれた、教育課程企画特別部会の第1回会議で、何人かの委員も「積み残し」があると指摘されていましたが、現行学習指導要領の改訂作業の出発点で、特に義務教育においては、学力水準を維持するとして、各教科等の内容(指導事項等)や時数は基本的に触らないということが前提とされていました。そのために「積み残し」が生じているのです。学習指導要領の改訂とは、コンテンツベースでは基本的には「何を教えるか」という意味での内容の改訂であり、過去には指導事項や時数を変えてきましたが、それを基本的に触らないということで多くの人が驚きました。
では内容に触れずに何をやったかと言えば、内容中心から「資質・能力」基盤への学力論の重心移動です。もちろん、それ以前にも「資質・能力」という考え方がなかったわけではありません。総合的な学習の時間は、すでに「資質・能力」で学力論を描いていましたし、昭和の時代には「生きて働く学力」という言い方がなされていました。ですから、なかったものを創ったのではなく、政策的に学力論の重心の移動、学力論の拡充・拡張を行ったというのが、現行学習指導要領の一番大きな改訂点だったのです。
指導事項は特に変えず、時数も変えず、めざす学力論の質をきちんと整理しましょうということです。それは、日本が独自に考えたことではなく、すでにいろんな国が取り組んできたことで、OECDのキーコンピテンシーやアメリカの21世紀型スキルといったものが世界中にありました。
そのように前回改訂では、「資質・能力」基盤という学力論における重心の移動、学力論の拡充・拡張が行われたわけです。それだけでなく、「社会に開かれた教育課程」にしましょう、「教科等横断」も考えましょう、学びの質は「主体的・対話的で深い学び」というイメージをもちましょう、といったことを示しました。それらの中で、「資質・能力」にもっとも関わるのが実は「各教科等の見方・考え方」で、これらを大事にしましょうということを提示したわけです。
教育課程の編成はニュージーランド、カナダ、オーストラリアなどの成果が参考に
第1回の会議では複数の委員から、現行学習指導要領の基本的な方向性を今後も維持し、「熟成」するのが望ましいとの意見が出されました。では、現行学習指導要領の「積み残し」とは何か、改めて説明すれば目標と内容の構造化であり、それに最適化された指導事項の選択と配列です。
前回改訂で、めざす「資質・能力(子供の姿)」は明らかになったわけですが、その「資質・能力」を実現するために最適な指導事項の選択と配列がなされているかと言えば、それができているはずはありません。なぜなら、指導事項と時数は触らないというルールのもとで議論がなされたからです。
そもそもカリキュラムとは何かというと、(コンテンツベースでは)指導事項の選択と配列で、それが現状において、「資質・能力」の育成に向けて最適化されているかと言えば、そうではないわけです。もちろん、内容を「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」に分け、特に「思考力、判断力、表現力等」をしっかり書き込んだ点は、大きな前進です。しかし、基本的に指導事項は触っていないわけですから、どうしてもこれらの指導事項でどのような「資質・能力」が育成可能かという筋道になっているわけです。
各教科等を見てみても学問体系、知識体系としてはよくできています。ただしそれは、この指導事項一つ一つが身に付いていて、体系的に教科内容が理解できるというイメージです。そうではなく、「資質・能力」を実現するという目的で(単純に増やすとか減らすではなく)指導事項の選択と配列を最適化、構造化することが必要だということです。
諮問文中の、諮問事項の第一に「特に、各教科等の中核的な概念等を中心とした、目標・内容の一層分かりやすい構造化をどのように考えるか」とあるのは、そういうことなのです。これがトップに来ているということが私は大事なことだと思っていますし、前回改訂における最大の「積み残し」なのです。
ただ、これについては、海外にも多様な事例があります。ビッグアイディアやセントラルアイディア(中核的な概念)に基づいて構造化された教育課程の編成は、ニュージーランドやカナダのブリティッシュ・コロンビア州やオーストラリアのビクトリア州など、多様な国や州で行われ、成果も上がっているため、そのようなものが参考になるだろうと考えられます(資料参照)。
しかも、それはまったく新しいものなどではなく、すでに「見方・考え方」というアイディアで出してあり、中核的な概念による構造化に当たるものは、例えば、理科の「粒子」や「エネルギー」として示してきたものなのです。
【資料】ビッグアイディアで整理されたカリキュラム例
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今回は、現行学習指導要領の成果と、「積み残し」となっていた目標と内容の構造化を中心にお話を伺いました。次回は、学習指導要領の歴史的経緯や多様性問題などについて紹介していきます。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之
【中教審レポートと関係者インタビューで綴る 次期学習指導要領「改訂への道」】
次回は2月27日公開予定です。