側転の指導って、何から始めたらいいの? 【使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業 #75】


マット運動の技の一つに「側方倒立回転(側転)」があります。ダイナミックで見栄えがよく、子どもたちが「できるようになりたい」と憧れる技の一つです。そんな側転ですが、逆立ち姿勢を経過する際に転倒することもあり、授業では慎重に進めていく必要があります。今回は、側転のはじめの一歩といえる「川わたり」という教材を紹介します。
執筆/神奈川県公立小学校教諭・齋藤裕
監修/筑波大学附属小学校教諭
体育授業研鑽会代表
筑波学校体育研究会理事・平川譲
目次
1.川わたり
「折り返しの運動」や「よじのぼり逆立ち」で腕支持感覚や逆さ感覚が高まってきたら、「川わたり」という運動に取り組みます。川わたりに取り組むことで、立った姿勢(立位)から一気に頭を下げて腕支持の逆さ姿勢になり、再び立位に戻ることに少しずつ慣れさせていきます。体の軽い低学年段階から少しずつ取り組ませていくとよいでしょう。
川わたりには、「小さな川わたり」から「大きな川わたり」というステップがあります。まずは、小さな川わたりから紹介します。
2.小さな川わたり
小マットを川に見立て、「マットは川だよ。濡れていいのは手だけ。足や靴を濡らさないように川をわたろう」というような場面設定をします。図1のようにマットに両手を着いた状態から始め、マットを踏まないように反対側まで跳び越します。両腕での確実な支持を意識させます。太鼓の音に合わせて、着手した手はそのままで数回往復させます。腰が高く上がって逆さまになっている子や、肘がピンと伸びている子、手と手の間のマットを見ている子を見取り、お手本として取り上げて、よりよい運動イメージをもたせると上手に運動する子が増えてきます。運動に慣れてきて、着地した後にマットから両手を離したり、着地で両足が揃わなかったりする子が出てきた場合は、そのままやらせておいて構いません。
<図1>

3.大きな川わたり
小さな川わたりに十分に慣れたら、次は「大きな川わたり」に取り組ませます。図2のように立った姿勢から片手ずつ着いて、腰・足を上げて反対側に着地するのが大きな川わたりです。
<図2>

大きな川わたりになると、右手から着くのが得意か、左手から着くのが得意か、違いが出てきます。同じ体の向きのまま元の位置に川わたりで戻るのは、左右反対の運動になるのでやりにくさを感じる子が出てきます。
学習を進めると、元の位置に戻る時に、体の向きを変える子が出てくることがあります。そんな時にはこの子をお手本にして、全体で運動観察をさせます。
「〇〇さんの体の向きはどうなっていた」と発問すると、「向きが変わっていた」という返答があります。当人に「どうして体の向きを変えるの?」と問うと、「その方がやりやすかったから」という回答が概ね得られます。その後に、「次は、〇〇さんが、右手と左手どっちを先に着くか見ていてね」と指示を出して運動観察をさせます。行きも帰りもどちらか一方の手を先に着いて、大きな川わたりをしていることに気づかせます。その後、「自分だったら右手が先がやりやすいか、左手が先がやりやすいか確認しながらやってみよう」と指示して運動を再開させます。
中には、自分ではよくわからない子もいるので、班の仲間に「どっちの手を先に着いたほうが、腰や足が高く上がっているか見てやって」と声をかけておきます。この時の「〇手を先に着く」が、後の「大の字回り」にも生きてきます。
自分がどっちの手を先に着いたほうがやりやすいのかがわかったら、少しずつ腰の高さを上げながら逆さまになっている時間が長くなるよう取り組ませていきます。ここまでステップを進めてくると、立位の姿勢から一気に頭を下げて腕支持の逆さ姿勢になり、再び立位の姿勢に戻る感覚はかなり高まってきています。




#76では「川わたり」の次の教材の「大の字回り」を紹介します。スモールステップで「できそう」「できた」を繰り返しながら運動感覚と技能を高め、「側転」を楽しく学べる体を養っていきましょう。
【参考文献】
・平川譲(2018)『体育授業に大切な3つの力』東洋館出版社
イラスト/佐藤雅枝
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執筆
齋藤 裕
神奈川県公立小学校 教諭
1978年東京都豊島区生まれ。子どもたちが「夢中になって体を動かそうとする体育学習」、体育を指導することを苦手と感じている教師が「これならできそうと思える体育学習」を目指して日々研鑽中。

監修
平川譲
筑波大学附属小学校 教諭
体育授業研鑽会 代表
筑波学校体育研究会 理事
1966年千葉県南房総市生まれ。楽しく力がつく、簡単・手軽な体育授業を研究。日本中の教師が簡単・手軽で成果が上がる授業を実践して、日本中の子どもが基礎的な運動技能を獲得して運動好きになるように研究を継続中。『体育授業に大切な3つの力』(東洋館出版社)等、著書多数。