生徒たちがよりよく、より幸せに生きていくための国語力 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #20】
前回は、2024年度の全国大会でも活躍した横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校附属中学校の田口尚希主幹教諭に、国語でのカリキュラム・マネジメントと資質・能力の系統性を意識した学習について紹介をしてもらいました。今回は田口教諭に、そうした単元づくりの考え方について聞いていきます。
目次
多面的・多角的に物事を捉える力を育成することが重要
田口教諭は現代の中学校の国語の学習を通して、どのような力を育みたいと思っているのでしょうか。前回の実践事例も取り上げながら、まず次のように話します。
「中学校の国語では、多面的・多角的に物事を捉える力を育成することが重要だと思います。前回の実践で言えば、文章の構成・論理の展開をどれだけ多面的・多角的に捉えられるかが重要で、それについて『話すこと・聞くこと』『読むこと』『書くこと』と、多様な側面から切り取って学習していくわけです。
現代では、ICTもあればAIが作成した文章もあるでしょう。そうしたものも必要に応じて素材として取り上げながら、多面的・多角的に捉えられるようにすることが重要だと思います」
そのような考え方を基盤としながら、意図的に単元構成をしていくという田口教諭。では、どのように単元構成を考えていくのでしょうか。
「本校は中高一貫校ですから、基本的に6年間を見通したカリキュラム・マネジメント(以下、カリマネ)を意識して単元構成することを大事にしています。
本校の特色として上げられるのは生徒一人ひとりが課題研究を行うことで課題(テーマ)を見付け、実験・研究を行うのです。その過程で、生徒がどんな場面で『話すこと・聞くこと』『書くこと』『読むこと』を使うのかと考えると、レポートを書いたり、スピーチをしたり、論理的に考えたりするなど、失敗から改善のための課題や方法を見出すことなどで、中学・高校から社会人になっても続けていくことだろうと思います。それは本校の教育目標の 1つである、『広い視野、高い視点、多面的な見方を身に付けさせ、ものごとに対する柔軟な思考力・解析力を培い、論理的頭脳を養う』、つまり論理的思考力の育成につながります。
では、その論理的思考力の育成のために(前回紹介した)2学年の国語の中で何ができるのかと考えると、(学習指導要領の国語科2学年『思考力、判断力、表現力等』の各領域に共通する)論理の展開、文章の構成ということが浮き出てきます。そこですべての領域をまたぎながら、論理の展開や文章の構成を多面的に捉えられる人になってほしいと考え、前回紹介したようなカリキュラム・マネジメントと資質・能力の系統性を意識した学習を行いました。
例えば前回の単元であれば、どんな場面でも双括型を使えば、よりよく伝わるということはないでしょう。ですから文章の構成の3つの型それぞれが、話すとき、聞くとき、書くときなど、どんな場面でより有効なのだろうか、どんなテーマの場合に有効なのだろうかということを考えてくれればよいと考えて単元構成をしています。小学校段階では頭括法、尾括法、双括法といった文章の型については学んでいますが、学習を通して、その特徴を自分たちで見付け出し、それを意図的、効果的に使えるようにしたいのです。
もちろん、先の実践例のように学校のカリマネとしてやっていける学習内容もあれば、国語科として資質・能力の育成を意識して、書くことの領域での内容の系統性を考え、単元構成を行っていくこともします。例えば、2年生の『書くこと』の指導事項、ア、イ、ウ、エ、オで、当該単元ではオの指導事項を取り上げるのだけれど、ア、イ、ウ、エの内容をなぞっていきながら、それを身に付けているか見とりつつ、身に付けていない既習事項があれば、そこを復習しながら、最終的にオの事項を身に付けられるような単元構成をしたいと考えています(次回、この場合の単元の実例を紹介)。
さらに、より具体的に単元構成を考えていく過程について聞くと、次のように話してくれました。
「個々の単元を考える場合は、まず指導事項を見て、この指導事項は生徒がどんな力を身に付けられる指導事項かを考えます。例えば論理の展開について言うと、1つの論理の展開を考えるのであれば、多面的・多角的ではありませんから、それをどんな切り口で学習すれば生徒たちが多様な角度から見てくれるのだろうかと考えていきます。そして、必ず広がりがあり、妥当性はあるけれども答えのないテーマを取り上げようと考えていきます。
そこから具体的に生徒たちの動きを考え、どこが言語活動の場面になって、そこまでにどんな対話的な学習を組み立てていけば、生徒たちが言語活動の場面で一番のパフォーマンスを示してくれるのかを考えています。さらに言えば、その言語活動の中で失敗もできるような(前回のサイコロトーキングのような)即興性も大事にしていて、それによって生じる失敗からも学べるようにしています」
対象と対話し観察し理解する過程を通して、自分の考えをどう表すかが大事
では、先のような単元構成を通して、最終的にはどのような人を育てたい、どのような力を育みたいと考えているのでしょうか。田口教諭は最後に次のように話してくれました。
「私は国語の教育を通して、生徒たちが幸せに生きる力を身に付けられればいいなと思っています。それは、国語の学習では、前回紹介したような自分の考えをよりよく伝えることや、筆者の意図を読み取ることを通して他者が何をしたいのかより的確に読み取る力などを身に付けていきます。それらすべてがつながるのは、生徒たちがよりよく、より幸せに生きていくための国語力かなと思っています。さらに言えば、社会の中で『自分はここ一番頑張りたい』と思うときに、活躍できるような国語の力、言葉の力が身に付くといいなと思います。
特に現代において、子供たちには対象との対話が少ないのではないでしょうか。その対象は他者だけではなく、物でも本でも自分自身でもよいのですが、対象と対話し観察し理解する過程を通して、自分の一言をどう出すかが大事です。しかし、その過程が十分ではない中で話してしまったり、(SNSのようなものの)短い言葉で伝えたりするために、すれ違いが起こり、トラブルになってしまうのではないかと思います。
そうした問題に対応できる力を、すべて国語の授業だけで身に付けられるとは言いません。しかし、彼らがより幸せに生きるために国語としてもアプローチできるところが多くあるのではないかと思っています。
例えばSNSの短い文章を見たときに、意図は何だろうかと熟考する。そのコメントに対し、どう応えるべきか、あるいは応えないという選択肢も入れて検討する。それは、決して正解と言えるような答えがあるものではありません。その答えがないことにどれだけ向き合うことができるのかが重要ではないでしょうか。答えがないことに対し、失敗を積み重ねて、少しでも自分なりの答えに辿り着くことが大切なのだと思います。それが、先に言った、幸せに生きる力につながるのではないかと思いますし、そんな学習が国語を通してできればよいと思っています」
※
今回は、田口教諭の単元構成の考え方や、それを通してどんな力を育みたいのかを聞いていきました。次回は、今回の単元構成の考え方の中で出てきた、「書くこと」の領域内の系統性を意識した形の単元について紹介してもらいます。
【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は2025年1月24日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之