小6理科「水溶液の性質」指導アイデア

執筆/大阪府公立小学校教諭・松田善行
編集委員/国立教育政策研究所教育課程調査官・鳴川哲也、大阪府公立小学校校長・民辻善昭、大阪府公立小学校校長・細川克寿

主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善

「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業改善を行い、資質・能力を育成するには、どのようにすればよいのでしょうか。

まず、「主体的・対話的な学び」の実現に向けて、子供が学びのテーマに興味や関心を持てることや、子供たちの疑問を対話の中で醸成させながら問題を設定することが大切です。そのために、指導者は子供の疑問が生まれるための導入をデザインすることが肝要になります。

例えば、酸性雨などの環境問題を紹介したり、自分たちの住んでいる地域にも酸性の雨が降っていることを紹介したりすることで、「酸性とはどのようなものなのか」と疑問が生まれやすくなると考えられます。そして、対話の中で子供たちの疑問を醸成し、問題へと高めていきます。

予想の場面では、それぞれが予想や仮説を持って他者と伝え合い、他者との対話の中で共通点や差異点について明らかにすることで、その後の問題解決をより主体的なものにしていきます。

実験、観察を計画する場面では、指導者がスマートな方法を一方的に提案するのではなく、「これまでの知識や経験を生かして、どうすれば検証できるのか」「自分の予想と結び付けて考えると、どんな結果になりそうか」と問い返しながら、検証方法を決定し、見通しを持てるようにしていくことも大切です。

そうすることで実験、観察という手続きが、子供にとって問題を解決するための手段として位置付けられ、その後の学習を主体的なものにしていきます。

「深い学び」については、本単元で育む資質・能力に基づく「見方・考え方」を働かせながら、様々な知識を相互に関連付けていくことが大切です。水溶液の性質を子供の身の回りのものと結び付けることで、理解も深まります。そこで、酸性、中性、アルカリ性の関係を捉えられるようにするために、発展的な学習活動としてBTB 溶液を使用すると効果的です。BTB 溶液は、色彩的にも黄色(酸性)と青色(アルカリ性)の中間に、緑色(中性)が位置し、塩酸にアルカリ性の水溶液を少しずつ加えていくことで、黄→黄緑→緑→青→濃い青と連続的に変化していくことから関係が見えやすいという特徴があります。

水溶液のイメージ
写真AC

それまでつながりが見えなかった酸性、中性、アルカリ性の関係が理解できると、身の回りの土壌や水質の改良、ヒトの肌が弱酸性であることとシャンプーとリンスの関係など、身の回りの物について見方・考え方を働かせやすくなり、これまでの学びを身の回りに広げやすくなることが期待できます。

授業づくりのポイント

①身近な自然の事物・現象から問題を見いだし、実験を行う場面の設定。

②水溶液の性質や金属の質的変化について多面的に調べ、考察する場面の設定。

③身の回りのものに見方・考え方を広げ、学びをつなぐことで、より科学的な概念を形成する場面の設定。

単元のねらい

水に溶けている物に着目して、それらによる水溶液の性質や働きの違いを多面的に調べる活動を通して、水溶液の性質や働きについての理解を図り、観察、実験などに関する技能を身に付けるとともに、主により妥当な考えをつくりだす力や主体的に問題解決しようとする態度を育成する。

単元計画(五次 全10 時間)

一次

1時

●食塩水、炭酸水が蒸発する様子を見る。

炭酸水には何が溶けているのだろうか。

考察 炭酸水には二酸化炭素が溶けている。水溶液には気体が溶けたものもある。

蒸発皿を紹介し、食塩水が蒸発する様子を演示する。次に炭酸水を蒸発させる。そうすることで、五年生での学習が想起される。さらに炭酸水を蒸発させても何も残らないことにより、これまでとの経験・知識とのずれが生じ、疑問が生まれることが期待できる。

2・3時

●5種類の水溶液を用意して紹介する。

水溶液を仲間分けしよう。

●リトマス紙を使って様々な水溶液の性質を調べ、水溶液は酸性、中性、アルカリ性に分けられることに気付く。

食塩水、炭酸水、薄い塩酸、薄いアンモニア水、石灰水を提示し、簡単に紹介する。

三次

4・5・6時

●酸性雨について学ぶ。(活動アイディア①)

薄い塩酸は、金属を変化させる働きがあるのだろうか。

●薄い塩酸に金属を入れて調べる。

見えなくなった金属は、どうなったのだろうか。

●蒸発により、溶けたものを取り出せるかを調べる。

蒸発により出てきたものは、元の金属なのだろうか。

●元の金属の性質を振り返り、多面的に調べるようにする。(活動アイディア②)

〇酸性雨についての知識には個々の差があるので、酸性雨によって被害を受けたと考えられる金属でできた像などの建造物や、自然の様子が分かる写真などの資料を提示する。また、環境省が発表している「降水中のpH分布図」などを活用し、身の回りにも酸性の雨が降っていることに気付けるようにし、水溶液の性質に関心が持てるようにする。そして、薄い塩酸は酸性雨に近い水溶液であることを伝えることで、金属像がダメージを受けていることと関連付けて、予想や考察をすることができる。

〇薄い塩酸に金属を入れる実験では、試験管を用いるようにし、手で触れるなどして反応熱にも気付けるようにしたい。

四次

7・8時

薄い塩酸のほかにも、金属を変化させる水溶液はあるのだろうか。

●薄い塩酸以外の水溶液でも、金属を変化させる働きがあるかを調べる。

アルカリ性の水溶液(薄い水酸化ナトリウム水溶液:4gの水酸化ナトリウムを水に溶かし100mL にする)にも、金属を溶かす働きをするものがあることに気付けるようにしたい。薄い水酸化ナトリウム水溶液の扱いには、細心の注意を払うようにする。

五次

9・10時

酸性の水溶液とアルカリ性の水溶液を混ぜると、性質はどうなるのだろうか。

●BTB 溶液の入った酸性の水溶液にアルカリ性の水溶液を少しずつ加え、色の変化を見る。(活動アイディア③)

本単元で学んだことが身の回りで利用されている事例について調べたり、これまでの生活経験と結び付けてまとめたりする。

酸性とアルカリ性のものが互いの性質を打ち消し合うことに気付けるようにし、これまで学習した酸性、中性、アルカリ性の関係性を捉えられるようにする。また、身近な水溶液をおよそのpH で表に整理することで、本単元で学んだことに関連する身の回りのものに気付けるようにする。

活動アイディア①(三次 4時)

教師は、酸性雨が自然や金属像などに影響を与えていることを紹介する。そして、「降水中のpH分布図」を紹介し、身近に酸性の雨が降っていることに気付けるようにする。

身近にも酸性の雨が降っているんだね。

本当に金属を変化させるのかな。

そこで教師は、薄い塩酸は酸性雨に近い性質を持っていることを紹介する。

問題

薄い塩酸は、金属を変化させる働きがあるのだろうか。

指導におけるポイント

身近な自然の事物・現象から問題を見いだす

  • 身近に酸性の雨が降っていることに気付くことで、より酸性の水溶液に関心を持ったり、その性質に対する疑問が高まりやすくなる。金属は丈夫なものであるという認識を持つ子供は多い。そこで、「水溶液が本当に金属を変化させるのか調べたい」という問題へとつなげられるようにする。
  • 写真資料が用意できない場合、NHK for School クリップ「酸性雨による被害」も活用できる。

活動アイディア②(三次 6時)

問題

蒸発により出てきたものは、元の金属なのだろうか。

予想

五年生の学習で食塩水を蒸発させた時のように、やっぱり元の鉄やアルミニウムだと思うよ。

見た目が全然違うから、元の金属じゃないと思うよ。

実験方法の計画

これらが、元の金属かそうでないかを確かめるには、どうすればよいですか。

元の金属なら電気を通すはずだ。

鉄なら、磁石に引きつけられるはずだ。

鉄やアルミニウムなら、塩酸を加えると泡を出して温かくなって、溶けていくはずだ。

実験を行い、結果を表に整理する

実験後の考察

電気も通らなかったし、磁石にも引きつけられなかったし、塩酸を加えても前のように泡を出して、温かくなって溶けなかったから、蒸発させて出てきたものは、元の金属とは違うものなんだろう。

結論

蒸発により出てきたものは、元の金属ではない。
塩酸には、金属を変化させる働きがある。

指導におけるポイント

調査官からのワンポイント・アドバイス

国立教育政策研究所教育課程調査官・鳴川 哲也

今回の小学校理科の学習指導要領の改訂では、理科を学ぶことの意義や有用性を実感することや、理科への関心を高める観点から、日常生活や社会との関連が重視されました。本単元「水溶液の性質」は、子供たちの生活との関連を図りながら学習することで、資質・能力の育成を目指すことができます。

本実践例にも示されているように、子供たちの周りには「弱酸性」「酸性雨」などのように液性を示す言葉がたくさんあります。理科の授業で学習したことと、それら言葉が関連していることに気付くことで、子供たちの学びは一層深まります。

本単元の学習を行う際、特に実験などを行うときに、事故防止に細心の注意をはらうことが必要です。濃度をどのくらいにするのかについても、事前にしっかりと確認しましょう。予備実験を行う際、班ごとに実験することを想定しておくことも重要なことです。

イラスト/山本郁子

『小六教育技術』2019年1月号より

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