「自治的能力」を育てる教師力とは【やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本】⑦

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やき先生の学級活動のとっておき基礎・基本
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宮川八岐

宮川八岐・元文部科学省視学官による「やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本」の連載7回目。今回は、「自治的能力」を育てる教師力について紹介します。先生方の多くは、大学時代に教職科目として特別活動論を受講していなかったり、教職に就いてからも教育委員会の研修として特別活動が設定されておらず、学ぶ機会がなかったりと、自治的能力を育てる指導力を身に付ける機会が少ないという実態があります。「望ましい集団活動を生かす教師」「自治的能力を育てる教師力」を確かなものにする手がかりにしてください。

執筆/元文部科学省視学官・宮川八岐

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「適宜のオリエンテーション」の工夫

教科書のない学級会をはじめ、特別活動については、適宜のオリエンテーションを実施しながら、徐々に自発的、自治的活動の充実を図っていくことが必要になります。もちろん、全てにわたってオリエンテーションをしてからというわけにはいきませんので、活動を通しながら、つまり「なすことによって学ぶ」という考え方でよいと思います。

1 オリエンテーションの種類

一口にオリエンテーションと言っても、様々な種類・内容があります。

①学級会の意義・役割
児童が自分たちの手で学級生活を豊かにするために問題を見いだし話し合って、全員でその実現を図る大切な活動であることの指導。
②計画委員会の編成・活動
議題の収集や学級会の準備、当日の学級会を進める計画委員会の組織づくりと運営のあり方に関する指導。
③「話合い」の進め方
「3つの柱」と「3段階討議法」の意義と方法、「合体」「分類」「イメージの共有化」、折り合いを付けながら「合意形成」をする話合い方の指導。
④望ましい議題
豊かな学級生活をみんなでつくっていく活動(議題)には、どのようなものが考えられるか、望ましくない議題とはどのようなものかの指導。
⑤学級会ノート(ファイル)の活用
学級会の議題や提案理由、決まっていること、役割分担、話し合うこと1~3などの考えを記入するノート(カード)を綴じるファイルの活用法。「学級活動ファイル」として学級活動(2)(3)の資料も綴じられるようにする。
⑥係と当番の違い
係活動の特質を当番との違いから指導する。発達の段階、学級規模等を考慮し、創意工夫の余地のある係の活動(しごと)について指導。
⑦学期はじめ、学期末、学年末の活動など
④「望ましい議題」を踏まえつつ、特に年度はじめや学期末、年度末などにおける問題意識を引き出す教師からの問いかけ、活動例などの指導。

おおよそ上記の内容が考えられます。組み合わせて実施するなどして、発達の段階に応じて低学年から適宜の指導の工夫をする必要があります。

2 効果的な実施の機会

オリエンテーションの種類①から⑦については、例えば①②③をまとめて1単位時間の授業としてオリエンテーションを実施することも考えられます。しかし、1年生から学級会の指導が行われている学校では、そうした時間を特に設けなくてもよいでしょう。学級会の指導をしながら必要に応じて適宜指導することでよいと思います。「なすことによって学ぶ」 というのが特別活動の基本の考え方です。

ただ、次のような実施の機会を心がけることが必要でしょう。
⭕️学級会に向けて計画委員から「今週の学級会の議題を出してください」と朝の会などで呼びかけがあった際に、教師からもそれなりの情報提供などをして、児童の問題意識を高めることも適宜のミニオリエンテーションとして効果的です。

⭕️議題が決まって、児童がそれぞれに学級会ノートに自分の考えを記入する段階に、教師から事例を紹介したり、チャレンジへの期待を述べたりするなどもオリエンテーションの工夫として効果的です。

⭕️ 計画委員会での、柱1の案をラミネート短冊に書いて準備をする段階でも、例えば「1学期がんばったね会をしよう」のような議題の場合では<ゲーム類>だけになりそうであれば、議題の意味について考えさせ、<ゲーム以外>の案も出すように助言することも必要な指導です。

学級会で「3つの柱」と「3段階討議法」が効果的に展開できるようにするには、事前の指導をどうするかがポイントです。前述したような適宜・適切なオリエンテーションなどを工夫することが大切です。

「係活動」の充実を目指す教師力

1「係活動コーナー」の設置

教室の壁面に一定のスペースを「係の紹介掲示コーナー」(写真1)にします。係ごとに係名、メンバー、活動内容などを書いたポスターを掲示できるようにします。係活動を生かす学級経営になります。

係り活動
写真1 係の紹介掲示コーナー

2「係からみんなへ、みんなから係へ」の指導

ある曜日の朝の会や帰りの会のプログラムに「係活動についての話合い」を設定するのです。朝の会では「係からみんなへのお知らせ」、帰りの会では「係へのお願い」を出し合い、必要に応じて話合いをします。係の活動の常時活動を活性化し、児童の自治的能力を高める教師の学級経営です。

3「学級活動コーナー」の設置と活用の工夫

学校の施設によっても教室等の壁面などの利用には限界がありますが、置かれた環境の下で児童の集団活動を見える化するよう、学校として、学級担任として様々な工夫をしたいものです。

下の写真は、学級活動の動きが分かるような掲示板の設置の事例(写真2)と「児童会活動のお知らせのスペース」を確保している事例(写真3)です。

掲示板の設置
写真2 学級活動の動きが分かるような掲示板の設置の事例
児童会のお知らせのスペース
写真3 児童会活動のお知らせのスペースを確保している事例

4 学級会の議題「係の活動を盛り上げよう」の指導

上記2の朝の会の活動と帰りの会の活動を一体化して1単位時間(学級会)にまとめた形の実践です。学級会で柱1「係の活動の発表」をします。活動していること、困っていることなどを発表します。柱2は「係への感想や要望」です。柱3は柱2を踏まえた「係ごとの話合い」をするということになります。係が一斉に活動する機会になり、一気に活動が盛り上がります。

また、研究校などでは、始業前の「学級チャレンジタイム」などといった時間の1コマを係活動などが一斉に行われるようにしています。休み時間などに係ごとの計画を実践する常時の活動が自治的活動ですが、学級会の時間で集中的に取り組むことも自治的活動を生かす学校・教師の取組の1つです。

「学校創意の時間」の確保

児童の自治的活動を生かす学校経営の工夫として、例えば、ある曜日の始業前の15分程度の特設の時間(「学校創意の時間【○○の時間】」)(写真4)を確保し、学級活動オリエンテーション(アンケートの実施を含む)、学級会の準備の活動、係の活動などができるようにしています。あるいは、ある曜日の昼休みの後に設定している学校もあります。いわば「学校創意の時間」ということになります(写真5)。

学校創意の時間の設定
写真4 「学校創意の時間」の設定
学級活動のオリエンテーション
写真5 学級活動のオリエンテーションなど

また、ある月の「学校創意の時間(○○の時間)」の計画委員会の話合いや準備の活動を学級全員が見学参加して学び合う機会にしている学校もあります。

昭和52年学習指導要領の改訂で、教科の時数や内容を削減し、生まれた時間をいわゆる「ゆとりの時間」(学校創意の時間)として、1~2単位時間を確保して特別活動の充実の時間などに充てることができると過去回で伝えました。今後それに近いことができるようになるといいのですが……。

「議題の木」の設置

学校によっては、廊下の壁面を使って「議題の木」(写真6)を設置し、各学級の実施した学級会の議題を葉っぱに書いて貼っています。学級ごとにその木のところに行って、いわゆるオリエンテーションすることも行っています。類する活動として各教室の廊下の壁面などに「学級会の歩み」を掲示しているところもあります。

議題の木
写真6 議題の木

また、研究校などでは、教室の壁面に「学級(学校)生活の歩み」(写真7)を掲示しています。始業式、どうぞよろしくの会、学級の係の誕生、運動会、児童会の七夕集会、といった具合に、学級生活を中心にいわば学級生活のできごとを記録に残していく活動です。そこから議題が生まれることもあります。いずれも児童の興味・関心や問題意識を高める工夫と言えるでしょう。児童の自治的能力を高める学校・教師自らが創意工夫に取り組んでいます。

学級生活の歩み
写真7 学級生活の歩み

まとめ

今回は、「自治的能力を育てる教師」として、学級会の指導の工夫例を中心に何点か取り上げましたが、本来なら児童会活動やクラブ活動の指導も併せて述べたいところではあります。それがまさに日本型学校教育文化の象徴なのですから。しかし、今回は学級生活を豊かにする自治的活動の指導に限定して述べました。学校を小社会と捉えますが、学級生活も小社会なのです。まずは学級生活を豊かにする実践的、創造的な集団活動の充実からと考えます。

児童の自発的、自治的活動を生かす工夫を考える場合、「学校創意の時間」の設置や「議題の木」の掲示スペースの確保といった学校としての適切な措置や、学級担任ができる様々な場や機会の確保の工夫が必要になります。そのために適宜のオリエンテーションを行い、今回の例示を手がかりに児童と共に何ができるかを創意工夫して取り組む教師を目指していただきたいのです。

次回は、学級活動(2)(3)の指導のポイントについて述べたいと思います。

宮川八岐(ミヤカワ・ヤキ)

宮川先生イラスト

埼玉県公立学校教員、教頭、草加市教育委員会、草加市立氷川小学校長を経て、平成6年から文部省初等中等教育局小学校課教科調査官(主に特別活動、生徒指導、学校図書館等)に。平成12年から同局視学官。平成16年度国立妙高少年自然の家所長、平成17~20年度まで日本体育大学教授、平成21~27年度まで國學院大學人間開発学部教授を務める。

構成/浅原孝子 イラスト/畠山きょうこ

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