補教には学級づくりのヒントがいっぱい! 教室チェックポイント&担任へのアドバイス
学校運営において、補教時(担任の代行を行う際)は単なる代行業務に留まらず、教室の環境や児童の様子を深く観察する貴重なチャンスです。つまり、担任が不在の際にはクラス運営の改善や見えにくい課題を発見する機会として補教を活用することができます。教頭が補教時に注目すべきポイントと、担任にアドバイスすべきこととは何でしょうか。
【連載】がんばれ教頭クラブ
目次
1 管理職にとっての補教とは
出張などで担任が教室を空けなければいけないとき、あなたは補教を買って出ていますか?
ただ授業の代役を務めればいい・・・そんな風に考えないで、教室の様子や子どもたちの姿を、担任とは違う目線で見てみよう、という貴重な機会と捉えましょう。
例えば、担任が見ていない場所で、児童はどんな風に過ごしているのか、ちゃんと課題に取り組んでいるのか、それとも別のことに気を取られているのか。
こういうことを知ることで、一人一人の児童に、もっと合った指導ができるようになる可能性があります。
それに、教室の環境を客観的に観察することも大切です。
机の並べ方、壁に貼ってある物、教材の置き方などなど…。こういったことが、児童の集中力や学習意欲に大きく影響していきます。毎日を同じ場所で過ごしている当事者には、当たり前過ぎて気づかない問題点も多くあるのです。
わたしは教頭になってから、教室を見る目が変わりました。問題点や課題を探すだけではなく、どうすればせんせい方がもっとよくできるか、そんな視点で見るようになりました。実は、企業でも、従業員がいない間に管理職が労働環境をチェックし、事故や問題を未然に防ぐことがあります。学校でも同じように、担任がいない時に教室や児童のようすをチェックすることで、もっといい学級経営ができるようになるではないでしょうか。
2 5つのチェックポイントとアドバイス
⑴ 学力をチェックする
補教時に最初に注目すべき点は、児童の学力レベルです。担任不在の時にこそ、児童一人一人がどの程度授業内容を理解し、学習に取り組んでいるかを観察する最良の機会です。
どの児童がどんな学びをしているか、どんな学力がついているのかをみていきます。
① 授業中の発言や質問への対応
児童が授業にどれだけ積極的に参加しているかを確認します。発言が少ない児童や、授業への積極性が感じられない児童は、学習内容に不安を感じ自信をもてないでいる可能性があります。
② 課題提出状況とノートの内容
課題の提出状況や、ノートの使い方も重要な観察ポイントです。ノートが整理されていなかったり、課題提出が不完全だったりすると、その児童は授業内容を十分に理解していないかもしれません。
③ 小テストや確認問題の実施
小テストや確認問題を提示してみることで、児童の理解度をより客観的に把握することができます。個々の児童の強みや弱点を特定し、適切な支援策を講じることが可能になります。
わたしは、気になる児童については具体的にメモに記し、担任と観察結果を共有するようにしていました。場合によっては、それを基にした指導アイデアを提案することもありました。
これで、担任も具体的なアクションを起こしやすくなるでしょう。
また、担任の努力を認め、共に取り組む姿勢を示すことで、より前向きな対話ができます。
「せんせい、毎日の授業づくり、本当にお疲れ様です。今回、補教をさせていただいて、児童の様子をじっくり見られたんですよ。その中で気づいたことを、ちょっとお話ししてもいいですか?」
と口火を切り、具体的なアドバイスとしては…、
「授業中、元気よく手を挙げる子もいれば、ちょっとためらう児童もいました。△△くんは少し自信なさそうでした。こういう児童には、小さな成功体験を積み重ねていくのがいいかもしれません。せんせいはどう思いますか?
「ノートや課題のことなんですけど、□□さんのノートはキチンと整理されていて素晴らしかったです。でも、××くんのは少し乱雑で、課題も終わってないところがありましたね。授業の理解度に差があるのかな、と思いました。こういうことを見ていると、個別のサポートが必要な子もいるんじゃないかと感じました」
「一人一人の特徴を掴んで、ぴったりのサポートができれば、きっとさらにいい結果が出るはずです。これからも一緒に子どもたちのことを考えていけたらいいですね。何か気になることがあったら、いつでも相談してくださいね。一緒に頑張りましょう!」
⑵ 学級機能をチェックする
次に、クラス全体の協力体制や、リーダーシップがどのように機能しているかを確認します。
① 役割分担と協力関係
クラス内で、児童同士がどのように役割を分担しているかを観察していきます。掃除や班活動などで、誰がリーダーシップを取っているのか、誰が消極的になっているのかを把握します。
② 学級委員やリーダーの動き
学級委員や活動リーダーの役割がどれだけ機能しているかを観察することも大切です。彼らが積極的にクラスをまとめている場合、担任不在でも円滑にクラスが運営されていると言えます。逆に、リーダーが機能していない場合は、補強が必要なポイントとして報告できます。
③ クラスの雰囲気と人間関係
クラス全体の雰囲気や児童間の人間関係も重要な観察ポイントです。児童同士のコミュニケーションの様子、グループ活動での協力度、孤立している児童の有無などを注意深く観察します。また、クラス内でのいじめや排除の兆しがないかも確認します。これらの情報は、クラスの社会的機能を評価する上で非常に重要です。
わたしは、補教時に見つかったクラスの強みや弱点を担任に伝え、対話をしながらより効果的なクラス運営へのアドバイスをしました。担任へのアドバイスは…
「せんせい、今回、補教で子どもたちと過ごして、クラスの様子をじっくり見られたんですよ。面白いことがいくつか見えてきたので、ちょっとお話ししてもいいですか? 掃除の時間に、○○さんと△△さんがみんなを引っ張っていく姿が印象的でした。でも、□□さんは少し控えめだったようです。それぞれの良さを活かせば、もっと素敵なクラスになりそうですね」
「学級委員さんやリーダーたち。頑張っている場面もあれば、ちょっと困っているようなときもありました。せんせいの(こうしてほしいな)という思いを、もっと伝えてあげるのもいいかもしれません」
「クラスの良いところをもっと伸ばして、ちょっと苦手なところを補っていく方法を一緒に考えてみませんか? 何か思いついたことや相談したいことがあったら、いつでも声をかけてくださいね。これからも一緒に、素敵なクラスづくりを頑張っていきましょう!」
⑶ 教育課程の進行状況をチェックする
補教時は、管理職にとって、教育課程の進行具合を確認できる良い機会でもあります。
① カリキュラムの遅れ
担任が計画している授業の進行が、年度はじめに立案した教育課程に沿って進んでいるかどうかを確認します。補教中に授業の進度が遅れていると感じた場合、担任にカリキュラムの見直しや、進度を調整する必要があるかもしれません。
② 児童の理解度に合わせた指導
補教中に児童の理解度が異なる場合、授業の進め方を一時的に調整することが求められるかもしれません。授業の進行がスムーズであるかどうか、また児童がついていけているかを確認していきます。
③ 教材・教具の効果的な活用
補教時には、担任が普段使用している教材や教具の効果性も確認します。ICT機器、実験器具、視聴覚教材などが適切に活用されているか、また児童の学習意欲を高め、理解を深めるのに役立っているかを観察します。
わたしは、担任が大きな修正が必要であると判断した場合は、時間をとって各教科の進度について協議してきました。年度の終わりまできちんと履修完了できるか、できないとすれば、今後の学習単元に軽重をつけて確実に履修できる時間の設計をすべきであることを教科書や指導書、計画書を前に協議してきました。担任へのアドバイスは…
「今回、補教で教室に入ってみて、気づいたことがあります。教育課程の進み具合なんだけど、年度初めの計画と比べてどうですか? もし遅れてるなって感じたら、一緒に見直してみませんか?」
「児童の理解度にばらつきがあるみたいだったのですよ。授業の進め方を少し工夫してみるのもいいかもしれないですね。例えば、すいすい理解できる子には難しめの問題を用意したり、ちょっと苦手な子にはもう少し丁寧に説明したりとか。一人ひとりに合わせた指導ができたら素敵ですよね」
「もし、自分ひとりでは、指導が少し大変かも…って思うことがあったら、遠慮しないで相談してください。一緒に各教科の進み具合を確認して、年度末までにちゃんと終わるように計画を立て直しましょう!」
⑷ 児童の人間関係をチェックする
児童同士の人間関係も、補教時に重要な観察ポイントです。担任が不在の際に、普段は見えにくい友との関係が浮かび上がることがあります。
① グループ活動や休み時間の様子
グループ活動や休み時間に、児童同士がどのように関わっているかを観察します。孤立している児童や、特定のグループ内で問題が生じている場合は、その兆しを見逃さないことが重要です。児童の言葉遣いも要チェックポイントです。
② いじめの兆しを探る
特定の児童がほかの児童から排除されている、または嫌がらせを受けているような兆しがないかも注意深く観察します。いじめは早期発見が重要です。補教時にそのような兆しを確認したら、注意深く観察を続けていきます。
③ リーダーシップと協調性の発揮
補教時には、普段とは異なる環境下での児童の行動を観察する絶好の機会です。特に、クラスのリーダー的存在の児童がどのように振る舞うか、また他の児童がそのリーダーシップにどう反応するかを注視します。さらに、普段は目立たない児童が新たなリーダーシップを発揮する場面や、児童間で自然に協力し合う様子なども観察します。これらの観察結果は、クラス内の潜在的な人間関係や個々の児童の成長の可能性を示す重要な指標となります。
わたしは、人間関係に課題があると判断した場合は、すぐに担任に報告し、対策を講じることを促したり、関係する会議にかけたりしていました。担任へのアドバイスは…
「せんせいは子どもたちの様子、毎日よく見ていてくれてるよね。ちょっとした変化も見逃さないように、一緒に気をつけていきたいです。会話や行動パターン、誰と誰がよく話すとか、誰が誰を避けてるとか、そういうのって大切な情報だよね」
「この前補教に出たとき、○○さんと◇◇さんが話してて、□□さんが入ろうとしても、なかなか入れなかったシーンがあったんですよ。ちょっと気になりました。言葉ではなくて表情や態度などからも、児童の様子に気を配りたいですね」
「自由時間って大切ですよね。普段見られない児童間の関係性が見えてくることがあるからね。ちょっと大変だけど、記録しておいて時系列で変化をみていく長期的な視点も大切だよね。せんせい、これからも一緒に児童の成長を見守っていきましょう」
⑸ 児童と担任の関係をチェックする
最後に、児童と担任の信頼関係についても補教時に確認します。学級風土を感じ取り、児童が担任に対してどのような信頼感を持っているかをみていきます。これは、授業への積極性にも大きく影響します。
① 児童の反応や授業への参加度合い
担任が不在の際、児童がどう反応するかを観察することで、担任との信頼関係をある程度把握することができます。児童が安心して授業に取り組んでいる場合、担任との関係は良好だと考えられます。一方、不安やストレスを感じている児童が多い場合は、担任とのコミュニケーションに課題がある可能性があります。
② 保護者との関係も影響
担任と児童の関係は、保護者との関係にも影響を受けることがあります。保護者からの信頼を得ている担任は、児童からの信頼も厚い傾向にあります。保護者が担任に好感をもっていれば、児童も同じように感じることが多いです。
③ 担任不在時の児童の行動と発言
補教時は、担任不在の環境下で児童の本音や普段とは異なる側面を観察する絶好の機会です。児童が担任について話す内容や態度、担任の指示や教えに対する反応を注意深く観察します。例えば、担任の名前を呼ぶ際の口調や、担任の教え方についての感想、担任不在時の規律の維持状況などから、児童と担任の関係性を推測することができます。また、児童が自由に発言できる雰囲気があるか、担任に対する不満や要望を率直に表現できているかなども重要な観察ポイントです。さらに、担任がいるからやらされているからではなく、担任不在時に学級のシステムがどう機能しているのかが大きなチェックポイントと言えます。
わたしは、補教時に感じたことを言葉を選びながら担任に話し、児童や保護者との関係強化のアドバイスを行いました。担任へのアドバイスは…
「児童との信頼関係って大切ですよね。それは毎日の小さな積み重ねで作られていきますよね。朝、教室に入ってきた子たち一人ひとりに声をかけてみませんか? 『来てくれてありがとう』ってね。そうすると、児童の顔がパッと明るくなりますよ」
「児童の話をじっくり聞くのは大切ですね。『そうだね!』とか、『そう思ったんだ!』と共感してあげると、児童は安心するし、せんせいのことをもっと好きになってくれますよ」
「授業中も、児童の良いところを見つけて、具体的にほめて励ましていきましょう。『すごいね!』『よく頑張ったね』って。そうすると、児童一人ひとりの自信にもつながっていきます。自信をもたせるということが担任の大きな仕事ですよね」
「あと、保護者の方々とのつながりも大切ですよね。ときどき電話して、『○○さん、こんなところが成長してますよ』って伝えてみるのはどうですか? せんせい、一緒に頑張っていきましょう。きっと素敵なクラスになりますよ!」
3 新しい景色をみよう
こうしたチェックポイントを持ちながら補教を行うことで、自分の目指す学校像や教育像の解像度を高め、より精緻なビジョンを持つことが出来るのではないかと思います。さらに、以下のような点にも気をつけてみてください。
① 準備をしっかりと行う
補教に臨む前に、授業内容や児童の状況を把握することが重要です。これにより、適切なアドバイスができるようになります。例えば、できる範囲でいいので児童の学習進度や理解度を確認し、どのようなサポートが必要かを見極めます。
② 担任とのコミュニケーションをしっかりとろう
担任が適切なアドバイスを受けたと感じることで、教頭による補教が楽しみになり、心待ちにされるようになります。補教後の報告だけでなく、定期的なミーティングやフィードバックの機会をもち担任との信頼関係を築くことが大切です。
③ 指導的な言い方を避ける
指導色の濃い言い方を避け、一緒に考え、一緒に歩んでいくというスタンスを大切にします。例えば、課題解決の際には、担任と共にアイデアを出し合い、最適な解決策を見つけるプロセスを共有していきます。
④ 児童の成長を観察する
児童の成長を見守り、担任の努力が報われたと感じたら、大いに賞賛します。児童が新しいスキルを習得したり、学習に対する意欲が高まったりする様子を観察し、その成果を担任と共有します。
⑤ ポジティブなフィードバックをする
担任の努力や成功を認め、積極的に賞賛することで、モチベーションを高めます。具体的な例を挙げて、どのような点が優れていたかを伝えることで、担任の自信を育んでいきます。
これらのポイントを実践することで、教頭と担任が協力し、より高いレベルの教育環境を作り上げることができます。児童の成長を見守りながら、共に歩んでいく姿勢を大切にしていきましょう!
◇
補教時は、担任不在の間にクラスの状況を見直し、教室運営、授業づくりの改善に役立つ多くのヒントを得る絶好の機会です。学力、学級機能、教育課程、児童の人間関係、そして担任との信頼関係など、幅広い視点から教室を観察し、担任に具体的なアドバイスを提供することで、クラス全体の成長をサポートすることができます。教頭としては、補教をただ単に『代わりに授業をする時間』と考えるのではなく、『児童の成長を助けるための大切な時間』だと考えて、学校全体でも積極的に取り組んでいきたいですね。「教頭せんせい、昨日のわたしの学級はどうでしたか?」と不在だった担任のせんせいの方から聞いてくると「やったあ!」と思うことが多かったです。企業の不祥事防止という観点ではない学校ならではの人材育成の手法としても進めていっていただきたいです。
イラスト/坂齊諒一
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。