インタビュー/玉置 崇さん|それぞれの教員が自らの働き方を振り返り、「個別最適な働き方改革」を【今こそ問い直す!先生を幸せにする「働き方改革」とは⑤】

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今こそ問い直す!先生を幸せにする「働き方改革」とは
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全国の学校で、今進められている「働き方改革」。ともすると時短ばかりが強調されがちですが、本当の意味で教師の仕事にやりがいや楽しさを感じられる改革になっているのでしょうか。学校教育のオピニオンリーダーの方々に改めて「働き方改革」の本質を語っていただきながら、子供も先生も皆が幸せになる「これからの教師の働き方」について考えていきます。連載第5回目は、岐阜聖徳学園大学の玉置崇教授にお話を伺いました。

〈プロフィール〉
玉置 崇(たまおき・たかし)
1956年、愛知県生まれ。公立小中学校教諭、国立大学附属中学校教官、中学校教頭・校長、県教委主査、教育事務所長などを経て、2015年4月より現職。教員養成に精力的に取り組みながら、学校や自治体のアドバイザーとしても活動中。文部科学省の各種委員会の委員を歴任。『スクールリーダーの“刺さる”言葉 教職員、子どもの心を動かす55のフレーズ』(明治図書出版、2023年)など著書多数。
 
玉置 崇(たまおき・たかし)

学校で今、先生たちに何が起きているか

「『働き方改革』だから、とにかく早く帰れとそればかり言われます。子供たちのためにやりたいことがあっても、家に帰るとやる気力が出ず、 結局やらずじまいになってしまいます。玉置先生は、教員時代にいろいろなことにチャレンジしておられて、私も刺激を受けていますが、今はそういう気持ちをだんだん失っていっています」

「私には、行事で子供を育てていきたいという強い思いがあります。しかし、行事がどんどん削られて、行事を通して育んでいくべき大事なものが、『働き方改革』の名のもとに欠けていっていると感じます」

「校内研修がどんどん削られていきます。もっと学びたいのに、本当にこれでいいのかなと思うことがあります」

これらの声は、大学時代に私のゼミで学んだ若い教員たちから受けた相談の一部です。今、「働き方改革」の推進によって気力を失いつつある教員が、身近にたくさんいると感じています。

以前は、教員は授業の準備に時間をかけていろいろな教材を作ったものでした。部活動をとことんやりまくって、子供や保護者に応援してもらっていた教員もいました。

しかし、今は横並び主義で、時間と行動を制限され、どの教員も同じであることを求められるわけです。このまま時短重視で「働き方改革」を進めていくと、このような教員たちと日々接している子供たちはおそらく「学校には個性的な先生は少ない」と感じるのではないでしょうか。

また、頑張る教員に対して、「あなただけ目立つと、保護者から苦情が来るので、他の先生に合わせるように」などと言う校長もいると聞きます。私が管理職をしていた頃よりも、管理職の個性も薄くなってきたように思えます。

子供にとっては「あの先生、面白いよな」と印象に残る教員が減り、平均的な、まぁまぁの教員ばかりになってしまう気がします。そうすると教師という仕事の魅力も薄まっていきますから、「あんな先生になりたい」と思うような、教員に憧れる子供は減っていくのではないでしょうか。

今の「働き方改革」の何が問題なのか

今の「働き改革」の何が問題なのかを考えるために、原点に戻ってみましょう。そもそも「働き方改革」の趣旨は、教員が働き過ぎて疲弊し、よい教育ができなくなるといけないから、無駄な業務はやめて負担を軽減し、一番大事な部分に力を注げるようにしていきましょうということです。教員が元気で子供たちによい教育をして、よい学校をつくるために「働き方改革」を行うのです。

しかし、現状ではそれがどこかへ行ってしまって、多くの学校では時短至上主義に走っています。時短は、結果が数字で出ますから、教育委員会としては目標に設定しやすいのだと思いますが、それは本質ではありません。

皆さんの学校では「働き方改革」を進めたことで、教員が働きやすくなりましたか。教員と子供の関係はよくなりましたか。教員と保護者の関係はよくなりましたか。もしも答えがNOだとしたら、よい教育ができていないということですから、今行っている取組に意味はないということです。

学校が進めるべきなのは「個別最適な働き方改革」

では、学校はどんな「働き方改革」をすればいいのでしょう。私が提案したいことは二つあります。一つ目は「個別最適な働き方改革」です。今、子供に対しては、「個別最適な学び」として、子供自身が振り返り、学習を調整できる力を身に付けさせようとしているのですから、教員たちも自らの働き方を振り返り、「個別最適な働き方」を考えてみてはどうでしょう。

もしも私が校長だったら、一律に「18時に帰りましょう」などとは言いません。「個別最適な働き方改革をしましょう」と提案し、やり方についてはそれぞれに考えてもらいます。ポイントは、トータルで働き過ぎないことです。

例えば、教材研究を始めたら 30分で終わることはないと思うのです。資料のプリントを作ろう、ワークシートを作ろうなどと、アイデアが次々に湧いてきたら、そこに時間をかけることは問題ないと思います。それがまさに教師の仕事だからです。

そういう日もあっていいのですが、毎日では困ります。長時間勤務が連日続くようであれば、教員自身で振り返り、無駄な業務はないかを見直し、早く帰る日をつくってもらいます。そして、今日はこの仕事を終えてから帰ります、明日は早く帰ります、というように、それぞれが自分の働き方を振り返りながら、業務の内容をてんびんにかけ、月ごと、学期ごとのトータルで時間外勤務を減らすことができればそれでOKとします。

結果的に学校全体として時短になり、しかもよい授業ができるようになり、先生と子供との関係もよくなり、教育の質が向上する、そうなることを管理職は目指すべきでしょう。

ただし、校長が一度言ったぐらいでは、校内の教職員の働き方は変わらないと思います。校長が提案した「個別最適な働き方改革」に積極的に取り組んでいる教員がいたら、管理職が価値づけていくことが大切です。

例えば、育児や介護のために毎日早く帰る人たちは、すでに「個別最適な働き方」をしています。授業を見て回った後に、その先生に個別に「あなたは自分なりに時間をうまくやりくりして働いているし、準備の時間が短くてもこんなによい授業ができるのはすごいことですね」などと声をかけるといいと思います。校長が「見ている」と知らせることが大事であり、そのやり取りを聞いていた他の教員にも少しずつ校長の考え方が広がっていくはずです。このような日常的な積み重ねが学校を変えていくのです。

もちろん校長も帰れるときは率先して帰ることが重要です。「今日は何もないから年休を取って帰ります」と、範を示すといいと思います。

「思い込み業務」をやめよう

提案したいことの二つ目は、学校全体として「思い込み業務」をやめることです。これは私の造語ですが、「思い込み業務」とは、「教育効果があると思い込んで、ずっとやり続けていること」を意味します。これがないかを見直し、効果がないことは思い切ってやめていきましょう。

例えば、体育大会の練習を、毎年たくさんの授業時間を削って行う必要があるのでしょうか。校長時代に、ずっと雨が続いて体育大会の練習ができず、開会式の全体練習が本番前日の1回しかできなかったことがありました。体育主任は「校長先生、開会式の入場行進はダラダラすると思いますよ」と伝えてきました。

そこで私は、体育大会の当日、開会式が始まる前にマイクを持って来賓の前に行き、「すみません。今から開会式を行いますが、今年は全体練習が1回しかできませんでした。入場行進でダラダラ歩く生徒がいると思います。歌も大きな声で歌えないと思いますが、お許しください」と話をしました。当然、生徒たちはそれを聞いています。その後、どうなったかというと、しっかりと入場行進をしてくれましたし、一生懸命歌ってくれました。生徒たちは私の言葉を聞いて、「校長は、何を言っているんだ。歩くことぐらいできる。歌うことぐらいできる」と、気持ちに火がついたのでしょう。要は、練習の量よりも、気持ちの問題なのです。そのことを子供たちから教えてもらい、翌年から体育大会の練習の時間をかなり減らしました。

皆さんの学校にもこのような「思い込み業務」がきっとあるはずです。思い切って見直してみてはどうでしょうか。

若い教員が働き過ぎないように配慮するのは管理職の役目

「個別最適な働き方」では、授業や行事を充実させるために、仕事をとことんやる日があってもいいのです。とくに、若い教員が教材研究を頑張りたい気持ちはよく分かります。なぜなら、教員が頑張って準備をすればしただけ、子供は反応を返してくれるので、授業が楽しみになるからです。ですから、本当はその楽しみを奪いたくないのです。むしろ「とことんやれよ」と言ってやりたくなります。

ただし、その教員に無理をしている様子や疲れている様子が見られたら、体調を崩す前にやめさせるのは管理職の役目だと思います。働き過ぎてしまう人は、自分を止められないのです。そんなときは、「あなたが頑張っているのは素晴らしいことだ」と価値づけをしながら、「でも、働き過ぎてしまうと、子供のためにならないし、あなたの家族のためにもならないよ」と伝える必要があるでしょう。

そうはいっても、校長が毎日、校内の全教職員の働きぶりをチェックし続けることなど不可能です。だからこそ、日ごろのコミュニケーションが重要でしょう。教頭や学年主任、事務員さんなどから、「あの先生、最近疲れている感じですよ」などの情報が入ってくるようになればいいのです。校長は一人職で孤独です。しかし、孤立してはいけないのです。働き過ぎてしまう人もいる、という視点を常に持ち、日ごろのコミュニケーションを大事にして、みんなとつながっておいてほしいと思います。

また、若い教員の中には要領が悪くて、どんな仕事にも100%の力で取り組む人もいます。そのような人に対して管理職は、「すべての仕事を100%でやらなくていいんだよ。この業務には、そんなに時間をかけなくてもいいよ」となどと言ってやることも必要かもしれません。形式的にやらなくてはいけないことについては、周囲の教員や子供に助けてもらいながら、あまり力を入れずにこなし、逆に、本人が「これはやりたい」と心から思えることに対しては120%の力を注ぎ、平均して60~70%の力で仕事をすればよい、と教えてはどうでしょう。

教員が一番やりたいことを見失っていませんか

皆さんに問いたいのは、「働き方改革」の名のもとに、教員が一番やりたいことを見失っていませんか、ということです。

私は今でも時々飛び込みで授業をしますが、授業は本当に面白いものです。初めて会った子供たちと学んでいくときは大変ですが、ワクワクします。授業の中で子供が育つ姿を見るとうれしくなります。このワクワク感と喜びをこれからも若い教員に伝えていきたいですし、それを知らずして、教職を去っていく人を一人でも少なくしたいと思っています。

だからこそ、「働き方改革」という名のもとで、あれをやめよう、これをやめようと、自分たちのエネルギーを低下させることだけはやめるべきです。

例えば、若い教員が「新たにこういうことをしてみたい」などと提案したとき、ベテランの中には、「それは『働き方改革』としてよろしくないのでは」と言い出す人がいると聞きます。

私が校長なら、「働き方改革」が大事だと分かっていても、「それでもこれがやりたいです」と言ってくるような若い教員は大歓迎です。「やってみろ」と言うでしょう。大変かどうかは、やってみないと分からないからです。

その一方で、チャレンジに否定的なベテランに対しては「よい視点を指摘していただき、ありがとうございます」と価値づけをしながら、「〇〇先生のご心配は分かりますが、若い人たちだって大人ですから、〇〇先生の助言を大事にしながら、考えて行動するでしょう。一生懸命やった割に成果がなかったら、無駄だったと思うでしょう。とりあえずやらせてみたらどうでしょう」と言うと思います。

「働き方改革」だけを評価しても意味がない

今の「働き方改革」は評価の仕方に問題があると思います。「働き方改革」だけの結果を捉えようとするから、時短重視になってしまうのです。先ほど申し上げたように、大事なのは、「働き方改革」を進めたことで、学校自体の教育がよくなったかどうかです。例えば、無駄な文書作成の業務をなくした結果、学年部会の時間を以前よりも多く取れるようになって、教員間のコミュニケーションがよくなり、教員たちが授業をするのが面白くなり、子供たちにとっても学校が楽しくなった、というように、その先に何が起きたかをよく見て、トータルでうまくいったかどうかを評価すべきでしょう。

そのときに大事にすべきなのは教員の満足度です。この学校で働けてよかったと思うか、この学校の一員になれてよかったと思うかが重要なのであり、「働き方改革」の評価は先生方の声の中にあります。さらに、子供に聞いてみるのもいいと思います。例えば、行事をなくして子供はどう思っているのか、子供の声を担任に集めてもらってもいいでしょう。

校長は教育委員会に「働き方改革」の成果を報告するとき、「今月は時間外勤務が何時間でした」と事実を伝えると思います。それだけではなく、「本校の教員はバランスをとって働いていますので、学校として無駄な働き方をさせているつもりはありません」と、堂々と言える校長であってほしいと願っています。

データの利活用で学校現場はどう変わるのか

最後に、学校現場の今後について言及したいと思います。実は私は2024年3月に入院し、手術を受けました。そのときに関わった医療関係者の仕事ぶりを見て、新たな気づきがありましたのでご紹介します。

まず、手術前に主治医から病状について説明がありました。今どうなっていて、どうする必要があるのかを、データを示し、動画も見せながら、非常に丁寧に説明してくれました。だから、安心して任せることができたのです。そのときに気づいたのは、学校は説明不足なのかもしれない、ということです。

入院中、私の体温、血圧などは、全部データとして電子カルテの端末から見られるようになっていました。看護師がそれを見て「昨日の検査結果を見ましたが、安定していますよ」などと、毎朝声をかけてくれました。その一言がうれしかったです。

そして、驚いたことがありました。主治医は手術後、私の元へは2回しか来ませんでした。しかし、私が何気なく「主治医の先生にこう言っておいてほしいな」とつぶやくと、それを聴いていた看護師とは別の看護師が、(3交代制のため)2日以内に「先生はこう言っていました」と伝えてくれるのです。

食事のおかゆを2回残したら、栄養士さんがわざわざ来て、「味が合いませんか?」と声をかけてくれました。患者が何を食べ残したのかがデータ化されていて、栄養士さんはそれを毎日必ず見ているそうです。また、私には手術の後、たまった血液を抜くための管がずっと体に入っていて、それが嫌で仕方がなかったのです。それが取れたときに、リハビリ専門士さんが「玉置さん、よかったですね。一番嫌な管が取れましたね」と言いに来てくれました。

私は直接何も言っていないのに、電子カルテを見たスタッフが言葉をかけに来てくれるので、病院全体で自分のことを見守ってくれているのだと感じられ、うれしくなるのと同時に、安心もできました。

今、文部科学省は教育データの利活用についての検討を進めています。今後、一人一人の子供のデータが一元化され、それを教員がうまく活用できるようにしていけば、日本の教育はもっと進化する可能性があります。

ただし、現状の学校で病院のような対応ができるかというと、それは難しいようです。教育の現場と医学の現場では決定的な違いがあります。その病院では1人の看護師が担当する患者数が7人ぐらいなので、丁寧な声かけができたそうです。病院によっては看護師1人で10人以上を担当することもあるそうで、そうなるとここまでの声かけはできなくなるようです。

まして学校の場合、担任は約30人を相手にするわけですから、7人を担当する看護師のようなわけにはいきません。それでも、データを活用して複数の大人たちがみんなで一人一人の子供を見ていくという発想を学校に取り入れていけば、教員の働き方が変わる可能性があります。担任の負担が軽減できて休みを取りやすくなるかもしれませんし、複数の教職員から言葉をかけてもらえれば、学校は子供にとってもっと安心できる場になるのではないでしょうか。最後はやはり人間です。データを有効に活用して、教職員が一人一人に適切な言葉をかけていくことで、子供をもっとやる気にさせられればいいなと思っています。

インタビュー・文/林孝美 イラスト/池和子(イラストメーカーズ)

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