「折り返しの運動」でどんな感覚・力が身に付くの? 【使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業 #67】
<#6 体育の学習方法はどうやって学ばせるの?>では、「折り返しの運動」で体育の学習方法を学ばせるポイントを紹介しました。今回は、折り返しの運動で、具体的にどのような運動を行うとよいのか、それらの運動でどのような感覚や力が身に付くのかを紹介します。体育の本質は動ける体づくりです。折り返しの運動で、基礎感覚・技能を高めて各領域の運動にスムーズに入っていける体にしていきましょう。
執筆/栃木県公立小学校教諭・下野誠仁
監修/筑波大学附属小学校教諭
体育授業研鑽会代表
筑波学校体育研究会理事・平川譲
目次
1 「量」が「質」をつくる!
どんな運動もクラスに何人かは、最初は上手にできない子がいます。はじめから上手に運動させたいと考えて丁寧すぎる扱いをしてしまうと、折り返しの運動の効果が低くなってしまいます。折り返しの運動では「質」よりも「量」を重視し、少しずつ動きを正確にダイナミックにしていきましょう。
準備運動も兼ねることができるので、最初は立位の姿勢で行う運動からスタートし、低い姿勢で行う運動へと進んでいきます。以下に紹介するような順番で行うのもよいでしょう。
2 ケンケン
子どもがよく知っているケンケンの動きで、下のような感覚や力を養っていきます。
【身に付く感覚・力】
●手足の協調
●体の締めの感覚
●脚力
【指導のポイント、留意点】
●リズム太鼓で「ケン(トン)・ケン(トン)」とリズムの補助をしてやります。
●床につかないほうの足をタイミングよく前後に振れるように、繰り返し経験を積ませていきます。
3 ケン・ケン・パー
ケンケンを発展させた運動です。「ケン(片足)・ケン(片足)・パー(両足)」のリズムでジャンプしながら前へ進みます。
【身に付く感覚・力】
●手足の協調
●体の締めの感覚
●脚力
●跳び箱の予備(片足)踏み切りから両足踏み切りへの動きづくり
●走り幅跳びの片足踏み切り-両足着地の動きづくり
【指導のポイント、留意点】
●リズム太鼓で「ケン(トン)・ケン(トン)・パー(カッ)」とリズムの補助をしてやります。「パー」のときに、両足でしっかりと着地して静止させます。「パー」で両足の前後差なく静止しないと、この運動の意味がなくなってしまいます。
4 スキップ
スキップは、体をリズミカルに動かす力を高めます。同時に側方倒立回転や腕立て前方転回の準備動作であるホップ動作とほぼ同じ動きになりますので、ぜひ取り組んでおきましょう。
【身に付く感覚・力】
●手足の協調
●ホップ動作の動きづくり
【指導のポイント、留意点】
●スキップの動きができない子には、できる子や教師と手をつないで、お手本に腿・膝の動きを合わせるようにさせると少しずつできるようになっていきます。
5 バンザイスキップ
スキップの動きにバンザイをつけた運動で、ホップ動作と同じ動きになります。
【身に付く感覚・力】
●手足の協調
●ホップ動作の動きづくり
【指導のポイント、留意点】
●スキップに合わせて、バンザイをさせます。左右どちらかの脚が上がるタイミングで両手を上げて、上げた脚と同じタイミングで両手を下げます。「バンザ〜」「イ〜!」、「バンザ〜」「イ〜!」という口伴奏でリズムをつかみやすくします。
6 手足走り
膝が床につかないように、手足で前へ進む運動です。腰より頭が低い逆さに近い姿勢で運動することができます。
【身に付く感覚・力】
●逆さ感覚
●腕支持感覚
●体の締めの感覚
●手足の協調
【指導のポイント、留意点】
●手のひら全体を床につけて体を支えるようにします。指だけでつくと、指の付け根を痛める恐れがあります。
●最初は安全面に留意し、動きに慣れるまで無理のないスピードで行わせます。リズム太鼓を使う場合は、ゆっくりめのリズムがよいでしょう。
7 うさぎとび
両足をそろえた跳躍で「手─足、手─足」の順に床につき、前へ進む運動です。
【身に付く感覚・力】
●逆さ感覚
●腕支持感覚
●体の締めの感覚
●跳び箱運動 切り返し系の技の動きづくり
【指導のポイント、留意点】
●手のひら全体を床につけて体を支えるようにします。
●最初は小さいうさぎ跳びでも、「手─足」の順に床についていればOKとします。「足─手」の順にならないように「手(トン)─足(カン)、手(トン)─足(カン)」と口伴奏やリズム太鼓でリズムを助けてやるとよいでしょう。
●安全面に留意し、無理せず少しずつ大きくできるようにしていきます。
8 あざらし歩き
体を伸ばして肘を突っ張り、体を起こします。下のような姿勢で手だけで前へ進む運動です。
【身に付く感覚・力】
●腕支持感覚
●体の締めの感覚
【指導のポイント、留意点】
●肘が曲がっていると力が入りにくくなり、進むのが難しくなります。肘を突っ張って、手だけで前へ進めるようにします。
●足を動かすと腕への負担が小さくなり、運動の効果が低くなってしまいます。足を動かさずに前へ進めるように「アザラシじゃなくて、ワニになっているよ」などの声かけをします。
●膝など下半身が床につかないようにお尻や腰を上げるようにさせると、体の締めの感覚を高めるのに効果的です。最初は、お尻が少し出っ張るくらいでもよしとして、徐々に体が一直線になるように意識させます。反対に下半身を床に引きずるようにすると、腕への負荷が増し、腕支持感覚をより高める運動になります。
9 手押し車
体の締めの感覚づくりをねらったあざらし歩きと同じように、お腹をへこませて少しお尻を上げた状態で前へ進みます。この運動はペアで行います。
【身に付く感覚・力】
●逆さ感覚
●腕支持感覚
●体の締めの感覚
【指導のポイント、留意点】
●足を持つ子は、運動する子のスピードに合わせて、ゆっくり進んで、ゴールしたら片足ずつそうっと下ろしてやるように指示します。
●下のイラストのようにお腹が伸びてお尻が下がってしまっている子には、「お腹をへこませる!」「お尻を少し上げる!」などの声かけで、体の締めの感覚をつかませます。体を一直線に保つことは難しいので、最初はお尻が少し出っ張るくらいでよしとします。
今回紹介した運動は8種類ですが、折り返しの運動は、アレンジ次第で様々な運動につながる感覚づくりを進めることができます。準備物もほとんど必要なく、簡単に基礎感覚づくりができる折り返しの運動にぜひ取り組んでみてください。
【参考文献】
・指導・監修筑波大学附属小学校体育研究部 平川譲、清水由、眞榮里耕太、齋藤直人(2017)『「できた!」が増える筑波大学附属小学校体育授業のタネあかし〜なわとび・跳び箱運動・鉄棒運動・マット運動〜』ティアンドエイチ株式会社
・平川譲(2005)『授業Cシリーズ 体育・いっしょにのびる授業づくり−子ども・なかま・教師−』東洋館出版社
イラスト/佐藤雅枝
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執筆
下野 誠仁
栃木県公立小学校 教諭
1988年、沖縄県那覇市生まれ。若手や体育授業が苦手な教師にとっても取り組みやすく、子どもたちみんなが「できた」を実感できる体育授業を目指し、実践・研究を重ねる
監修
平川譲
筑波大学附属小学校 教諭
体育授業研鑽会 代表
筑波学校体育研究会 理事
1966年千葉県南房総市生まれ。楽しく力がつく、簡単・手軽な体育授業を研究。日本中の教師が簡単・手軽で成果が上がる授業を実践して、日本中の子どもが基礎的な運動技能を獲得して運動好きになるように研究を継続中。『体育授業に大切な3つの力』(東洋館出版社)等、著書多数。