学級会の望ましい議題とは【やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本】③
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宮川八岐・元文部科学省視学官による「やき先生のとっておき学級活動の基礎・基本」の連載3回目。児童の自発的、自治的な実践活動としての学級会が意欲的に実践されるかどうかは、「議題」のよしあしで決まると言っても過言ではありません。しかし、多くの研究大会の実践発表や学校の研究会で見られる議題には、必ずしも望ましい議題ばかりではないというのが現実です。今回は、児童の目が輝く議題、意欲的な実践が期待できる議題とは何か、望ましくない議題とは何かなどについて、いっしょに考えてみましょう。
執筆/元文部科学省視学官・宮川八岐
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目次
「学習指導要領」及び「解説」では
昭和33年改訂で学習指導要領において必修となった学級会活動の指導については、学習指導要領や指導書(平成10年改訂から「解説」)には、学級会活動のねらいや、内容としての話合い活動の説明はあるものの、議題についての例示などの記述はなく、「学級生活における諸問題を話し合い解決する活動」などとしているだけで、その後の改訂でもその扱いは基本的には変わっていません。
「生活上の諸問題」の捉え方
文字通り学級生活における「諸問題」は、学校・学級によって、学校生活の時季によって、学校行事や児童会活動との関わりによって、様々なことが考えられます。具体例を学習指導要領レベルで記述することはできないことであり、むしろ示すことは適切ではないことから「諸問題」とせざるを得なかったのです。
ところが「問題」という用語が、生活上生起する困ったこと、生徒指導上の問題と捉えられる傾向があります。そこで学習指導要領解説や学校の指導計画に「望ましい議題の条件」といったことを示すなどしていますが、そうしたことが年間指導計画に例示していない学校も少なくありません。しかし、近年では多くの学校で、例えば<予想される議題例>が、年間指導計画に例示されるようになっています。
問題は、その例示や先生方の「議題観」が望ましい集団活動の理念に立脚した取り上げられ方になっているかどうかです。各種研究会や学校の授業研究会などで、しばしば望ましい議題かどうかの議論が行われることがあります。
望ましい議題の条件
学級会のいくつかの議題案について、「望ましい議題の条件」を基に計画委員会で「選定」し、学級全員で「決定」することになります。次の内容が一般的な議題の条件とされるものです。
〈望ましい議題の条件〉
①児童にとって必要感が高い問題か
(時期的にどうか、他に優先して解決しなければならないことか)
②学級生活をよりよく豊かにする問題か
(よりよい生活になるという期待がもてる問題か)
③全員で協力しなければ実現できない問題か
(一部の児童だけに関わる問題ではないか、全員の協力が必要か)
④決めたことが自分たちで具体的に実行できる問題か
(時間的にも、労力的にも実現の見通しが立つことか)
⑤創意工夫の余地のある問題か
(自分たちなりの創意工夫が生かされることか)
などです。こうした観点を指導する際に、「児童の自治的な活動としてふさわしくない問題」についても踏まえた指導が欠かせません。
〈児童の自治的な活動としてふさわしくない問題〉
ア 個人情報やプライバシーの問題
イ 相手を傷付けるような結果が予想される問題
ウ 教育課程の変更に関わる問題(児童の自治的活動の範囲内か)
エ 校内の決まりの変更や施設・設備の利用などに関わる問題
オ 金銭の徴収に関わる問題
カ 健康・安全に関わる問題
「予想される議題例」のいろいろ
ここでは、多種多様な議題例をただ列挙するだけでなく、大まかな分類をして紹介します。その分類の仕方もいろいろ考えられますが、今回は以下のようにしました(以下の議題例は、やき先生の実践や研究校などの研究授業における議題です)。
(1) 年度初めや学期末・学年末に行われる議題例
・どうぞよろしくの会をしよう
・係を決めよう
・転入生を迎える会をしよう
・1学期がんばったね会をしよう
・2学期もがんばろうの会をしよう
・1年間ありがとうの会をしよう
・学校生活六か年思い出ランキング発表会をしよう
・卒業を祝う会をしよう など
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(2) 学級生活上生起する問題に関わる議題例
・学級のボールの使い方を決めよう
・転入生を迎える会をしよう
・学級文庫の使い方を工夫しよう
・学級活動コーナーの使い方を工夫しよう
・学級夏休み作品展を開こう
・学級新聞コンクールをしよう
・係活動発表会をしてよりよい工夫を出し合おう
・紙芝居を作って発表会をしよう
・廊下のクラス紹介コーナーの使い方を決めよう
・学級園収穫祭をしよう
・鬼の面コンクールをしよう
・手作りカルタでお正月の会をしよう
・教育実習生とのお別れ会をしよう
・学校に紙芝居を作って残そう
・卒業文集のクラスページを考えよう など
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(3) 児童会や学校行事等に関わる議題例
・児童集会での学級紹介の内容や方法を決めよう
・秋の子供祭りのクラスの出し物を決めよう
・委員会活動の学級報告会をしよう
・遠足の自由時間ですることを決めよう
・施設訪問でおじいちゃん、おばあちゃんに喜んでもらうことを考えよう
・自然教室の夜の集いの計画を立てよう
・キャンプファイヤーの出し物を決めよう
・バスレクの計画を立てよう
・栽培活動でお世話になった○○さんに感謝の気持ちを伝えよう など
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「議題」の変遷
学習指導要領の昭和33年改訂で学級会活動が必修になってから、これまでの間に学級会で取り上げられる「議題」にどのような変化が見られるか、また、望ましくない議題としてどのようなものがあるかについて見てみましょう。
(1)「反省会」から「がんばったね会」へ
昭和40年代から昭和50年代の記録を見ると、1週間の生活目標についての「反省会」をするというのが多かったようです。しかも、どの班がよく守ることができたかの点検・総括の場であったという例も少なくなかったようです。また、やき先生が昭和44年に教員になりましたが、受け持ったクラスの前年の学級会の議題としては「お誕生会」が毎月行われていたということでした。その児童たちにそれ以外の学級会を紹介すると、「えっ、そういうのやっていいの?」と目を丸くして生き生きと取り組んでいました。
千葉県八千代市立大和田小学校は、平成6年度末から学級活動の指導法の研究に取り組みはじめ、現在も続けていて研究歴31年になります。この学校は、隔年に自主公開研究会をしていましたので、多くの先生方や新聞記者の方々が関心をもって集まり、実践などが広がりました。当初は、「今月の生活目標の反省会をしよう」「1学期を振り返ろう」などといった議題がありましたが、その後の指導改善で「1学期がんばったね会をしよう」といった議題に変わっていきました。
週末や月末、学期末などに反省点をまとめても、次の意欲的な取組にはつながらないと気が付いたからなのです。そのことより、みんなのがんばっていたことを認め合おう、という方向に変わっていきました。もちろん、現在も反省会の学級会を見かけることはありますが、がんばったね会が多くなっているように思います。
(2)学級経営の問題を学級会の議題にしていたことの改善
昭和52年2月に刊行された、ある学級会の書籍には、望ましい議題例とその考察が数多く載っていますが、「朝のあいさつのかかりをきめよう」という議題があります。驚くことに「1年生では望ましい議題と言えよう」との考察が添えてあります。これは教師が日直の仕事として指導すべき学級経営上の課題の1つで、学級会で決めることではないというのが現在の一般的な考え方だと言えます。ただ、研究校などを訪問して係コーナーを見ると、「あいさつがかり」を設置している学級があり、びっくりします。
「忘れ物や落とし物が多いがどうしたらよいか」の学級会を以前はよく見る機会がありましたが、これは教師の生活指導の内容です。学級会でどのようなことが決まるかと関心をもって見ていると、<罰をつくればよい>といったことを決めることになるわけです。
(3)「スローガン、シンボルづくり」から「豊かな生活づくり」へ
昭和50年代の議題例には、「掃除のスローガンを決めよう」や「学級目標を決めよう」などが多く見られます。後者については、現在も多く見られます。しかし、学級目標の設定は、学校教育目標の学級化の学級経営の課題ですので、学級会の議題として児童に決めさせるものではありません。児童の好きな言葉をスローガンにするものではないのです。
教育基本法には、教育の目的として「人格の完成を目指す」とあります。その人格の構造は<知><徳><体>で捉えられていることから、学校教育目標は、例えば「よく考え学ぶ子(知)」「思いやりのある子(徳)」「体をきたえる子(体)」などとなっているわけです。それを学級の実態等を踏まえて担任教師が設定します。その場合の学級の実態として、保護者の願い、児童の思いを生かすように工夫する実践がよく見られるようになりました。
年度初めに「3ー1のマスコットをつくろう」や「クラスの旗を作ろう」といった議題で学級会をしている例が少なくありません。この議題は、「進級お祝いの会をしよう」や「1年間がんばろうの会をしよう」、あるいは「3-1の係を決めよう」などの生活づくりの議題に優先して取り組む議題かと考えたいものです。こうした取組は、学級担任がシンボルづくりが好きだからか、または、前の学年で経験していた児童から提案され、それがそのまま議題になったかのいずれかでしょう。
まとめ
今回は、学級会の議題について取り上げました。学級会が意欲的に実践されるか否かは、議題のよしあしで決まるという考え方から、「望ましい議題」とはどのようなものかを考えてみました。時季に応じて予想される望ましい議題、適切かつ適宜のオリエンテーションによって、児童の自発的、自治的な実践活動としての学級会が全国全ての学級で展開されたとしたら、どんなにか素晴らしい社会になるだろうかと夢見てしまいます。
改めて教育委員会での研修の機会、学校内で授業研の機会を計画してほしいと思います。そして、実践を語り合いましょう。
宮川八岐(ミヤカワ・ヤキ)
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埼玉県公立学校教員、教頭、草加市教育委員会、草加市立氷川小学校長を経て、平成6年から文部省初等中等教育局小学校課教科調査官(主に特別活動、生徒指導、学校図書館等)に。平成12年から同局視学官。平成16年度国立妙高少年自然の家所長、平成17~20年度まで日本体育大学教授、平成21~27年度まで國學院大學人間開発学部教授を務める。
構成/浅原孝子 イラスト/畠山きょうこ