思わず引き込まれる「怖い話」の作り方! 暑い時期の学級レクを、ゾクゾクひんやりさせてみませんか?【怖い話を語ろう<前編>】
最近の夏の暑さは異常で、2学期に入っても残暑の厳しい日々がしばらく続きます。外遊びのできない日などに学級レクの一環として、児童たちの心の中を涼しくさせる「怖い話」はいかがでしょうか?
本記事では、怖い話をつくる上で押さえておきたいポイントをご紹介します!
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
本記事は、前後編記事の前編です。後編はこちらをご覧ください。
目次
1 PTA親子行事の経験
以前、PTAの親子行事で学校お化け屋敷を開催していた時期があります。
夏休みのある夜に「学校お化け屋敷」と称して、夜の学校全部を使って楽しんだのです。
当時の校舎は、大正時代に建てられた木造校舎で、「大日本帝国婦人会」と寄贈者名が刻まれた古めかしい姿見や動物の剥製などがあり、夜の帳が下りると、十分に不気味な佇まいとなっていました。
保護者さんたちは、わが子らをいかに怖がらせてやろうかと、さまざまな工夫を凝らしていました。通路にこんにゃくを吊るしておいたり、仮装で待機したり、恐ろしげな音を流したり。
児童たちは数名のグループを作って、チェックポイントを周り、ゴールする、というものでした。
さて、そこでのわたしの役割は、怖い話をして児童の気持ちをもり立てることだったのですが…。
何と児童たちはすぐに飽きてしまい、怪談が逆効果になってしまいました。無念です。怖いストーリーテリングのスキルが不足していることを反省しました。
それ以来工夫を重ね、機会があればいろいろな教室で、怖い話をしてきました。楽しい話や面白い話以上に、確実にウケる芸だと言う実感があります。どんなコツを掴んできたか、ご紹介したいと思います。
2「怖い話」の心構えと語り方
怪談界の巨匠と言えば、稲川淳二さんをおいて他にはありません。わたしも大ファンです。
稲川淳二さんの語る「怖い話」は、聴く人をゾクゾクさせ、想像力を掻き立てます。彼の巧みな語り口には、多くのテクニックが隠されています。単に怖い話を話すだけでなく、情景描写を細かく行い、音や光を効果的に使うことで、聞いている人の心に深く印象を残すのです。稲川さんは、まさに「聞かせる」プロフェッショナルと言えるでしょう。
そんな稲川淳二さんは、次のような怖がらせのテクニックを使っていると思います。
① 視覚効果
暗い照明、影、シルエットなどを使い、恐怖感を演出します。例えば学校では、教室のカーテンを閉め、照明を消して、できるだけ暗くして語るなどが可能です。
② 聴覚効果
できるだけ静寂な環境で、効果音などを使い、緊張感を高めていきます。学校では、効果音が入ったCDなどを用意し、足音、風の音、不気味な音などを流します。
③ 言葉選び
方言や、その土地の文化、その土地ならではの風習などを折り込みます。これによって「本当にあった話」だというリアリティと、ミステリアスな雰囲気が出てきます。学校では、土地の歴史や方言を積極的に入れてみましょう。
④語りの緩急
話すスピードを遅くしたり、間を置くことで、緊張感を高めていきます。数秒の沈黙などはかなり効果的です。このとき、わざと小声で喋ると、児童は聞き耳を立てますので、話に引き込まれやすくなります。そして、恐怖の瞬間が訪れるときには、急に早口になり、音量を上げます。
この緩急が、より一層の恐怖感を与えます。
⑤ 豊かな表情
目を大きく見開いたり、眉をひそめたりするなど、表情で恐怖感を表現していきます。目線を大切にして手の動きも考えて身体全体で表現します。話者自身が恐ろしがらないと、児童も本気になってくれません。
⑥ ストーリーは暗記しておく
ストーリーを正確に話す必要はありません。シナリオはあっても、それを朗読していたのでは興ざめです。だいたいのストーリー展開で進めればOK。その場アレンジでいきましょう。そして、語りはゆっくりと…。
⑦ 同じ言葉の繰り返し
擬音や怖いワード、声などは3回繰り返すと効果があるようです。
「コツ コツ コツ」「ゆらり ゆらり ゆらり」「もし もし もし」など…
ぜひ、児童に語るときは、この7つ道具を駆使していきましょう!
3 「怖い話」の構成要素
学校の怖い話の定番、構成要素を考えてみます。
① 場所やものの設定
身近な場所がいいです。学校内の児童がよく知っている場所を舞台にすることで、よりリアルに恐怖を感じることができます。
「旧校舎」
崩れかけた壁、割れた窓ガラス、埃まみれの机など、廃墟ならではの不気味な雰囲気を細かく描写することで、より恐怖感を増幅させられます。
「過去の出来事」
その学校にまつわる過去の出来事を絡ませ、怨念や呪いの要素を加えることで、よりミステリアスな物語になります。冒険心と恐怖心が入り混じる、探索の要素を取り入れることで、児童を引き込むことができます。
「トイレ」
トイレのような暗く狭い空間=逃げ場がない、というのは、低学年でも実感しやすい状況ですね。閉鎖空間には、恐怖心を増幅させる効果があります。
「鏡」
鏡に映る自分の顔が歪んで見えたり、鏡の中に異質なものが映り込んだりするなど、想像しやすい視覚的な恐怖を演出できます。
「広い空間・影」
体育館や講堂などの広い空間で、どこからともなく声が聞こえてくる。辺りを見回すが声の主がわからない。また、広い空間の隅などには、光の届かない影の部分があったりします。得体の知れない不安感を煽る描写にはもってこいです。
「ボール」
超常的なものが、主人公に直接作用する前に、周りのものから段階的に働き出すと、ボールが勝手に動き出す、ボールから声が聞こえるなど、日常的なものが異常に動くことで、恐怖感を増幅させます。
「図書室」
例えば、図書カードに書かれた何年も前の名前など、古い本には、過去の人の思いが宿っているという設定を加えることで、怖い話の小道具にしやすいです。また、図書室の書架の向こうに潜む誰かや、本の間から覗く顔など、図書室のシチュエーションも使いやすいです。
「理科室」
標本や模型が勝手に動き出す、水槽の中に藻ではなく髪の毛が…など、得体のしれない不気味さを醸し出せる小道具が満載です。
「音楽室」
もはや怖い話の定番ですが、ピアノがひとりでに鳴ったり、有名な音楽家の肖像画が動き出したりと、主に聴覚に訴えかける恐怖感を高めることができます。
「プール」
水面に映るのが自分の姿ではなかった、水中から手が伸びてくるなど、視覚的な恐怖を演出できます。水が異常に冷たい、あるいは熱いなど、感覚的な恐怖も表現できます。
② 時間帯や天候の設定
時間帯は、物語の雰囲気を大きく左右する要素です。古くから時間帯と怪談は、切っても切れない関係にあります。
「夕方」⇒「夜」⇒「深夜」
起きている人がだんだんと減っていき、それにともなって闇がより広く、深くなっていきます。
やはり光が少ない、周りに人がいないという設定は最も効果的です。
「たそがれ」は、古くは「誰そ彼」と書きました。辺りが暗くなってきて、そこにいるのが誰なのか、はっきり見えなくなる状態のことです。闇の中には、得体の知れないものが潜んでいるような恐怖感を演出できます。
「雨の日、嵐の夜」
視界が悪く、雨風によって迷う、逃げ場を失うという状況を作れます。さらに、雨音や風の音は、不気味さを演出するばかりでなく、ビュービュー、ゴーゴーといった大きな音により、何者かが近寄ってくるときの気配に気付けない、という演出にも使えます。
③ 人物の設定
「聞き手と同世代の児童(架空の人物)」
話の主人公であり、聞き手と近い存在であるため、共感しやすいです。普段は明るく元気な子ですが、心の中に秘密を抱えている、という設定にすると使いやすいです。何か苦手なもの、怖いものがある、といったことですね。例えば虫が苦手、という設定にすると、虫の多い草むらを通って逃げることが難しいなど、ストーリー上の難関を作りやすくなります。
「用務員さん(夜警・ガードマン)または先生」
学校に詳しい人物として、怪奇現象に関する知識を持っています。穏やかな性格のベテラン職員や、ミステリアスな雰囲気を持つ人物など、様々な設定が考えられますが、夜勤中に怪奇現象を目撃した経験があります。また、学校の古い記録を調べているうちに、恐ろしい秘密を発見する、などの設定もいいですね。
「友達や卒業生」
主人公に対して、同じような目線の高さの人と、目線の違う人、計3名を設定しておくと、ストーリーを作りやすいです。
主人公の話を信じない友達によって孤立感を高めたり、友達を被害に遭わせることで主人公のピンチを高めたり。また、学校の先輩が、過去の怪奇現象について知っているという設定で、リアリティを高める、などですね。
④ 児童がこわがるワード
「暗闇」
視覚的な不安感を煽り、未知なるものへの恐怖心を呼び起こします。
「静けさ」
通常の音がない状態は、異音に対する敏感さを高め、緊張感を生み出します。
「冷たい風」
肌で感じる冷たさは、不気味さや不安感を増幅させます。
「軋む音」
物体が擦れ合う音は、何かが動く、あるいは壊れる予兆を感じさせ、恐怖心をあおります。
「ギシギシ」「ガラガラ」
などの擬音語や擬態語を使うことで、情景をより鮮やかに描き出すことができます。
五感に訴えかけるワードを使ってリアリティを演出します。
⑤「怖い話」の文章表現の方法
ア 比喩
「真っ暗闇が、まるで大きな口を開けているようでした」
など、比喩を用いることで、聞き手の想像力を掻き立てます。
イ 倒置法
「現れたのは、幽霊だった」「静かに、夜が深まる」「聞こえたのは、子どもの泣き声だった」「開いたのは…、ゆっくりと…、ドアだった」
倒置法で文の語順を逆にすることで、リズム感を出し、緊張感を高めます。主語を後回しにすることで、聞き手の予想を裏切り、不気味な印象を与えることができます。
ウ 長文で…
「時計の針がゆっくりと刻む音を聞きながら、太郎くんはゆっくりと教室を見回しました。その薄暗い部屋には、ほこり一つない静寂が広がり、窓の外からは、風が吹きつけてくる音が聞こえてきます。太郎くんは、その音に耳を澄ませました。ガタ、ガタ、ガタと、窓がわずかに揺れています。そして、ゆっくり、ゆっくりと窓が開き始めました…」
短く、簡潔な文章で恐怖感を煽るよりも、長文でゆっくりと情景描写をすることで、聞き手の想像力を刺激します。
◇
「夏の暑さを忘れさせてくれる、ちょっぴり怖いお話会を開催します! 一緒にゾクゾク体験しませんか? みなさんの想像力を刺激する、不思議なお話の世界へようこそ!」
と事前告知しておくのも児童はわくわくですね。まずは、自分なりのストーリーをつくってみてください!
本記事は、前後編記事の前編です。後編はこちらをご覧ください。
イラスト/坂齊諒一
【参考資料】
・稲川淳二『稲川淳二の恐いほど人の心をつかむ話し方 心に残る、響く、愛されるための38の方法』(ユサブル)
・稲川淳二『稲川怪談 昭和・平成傑作選』(講談社)
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。