怖い話にちょっとだけ手を加えて、小学生に最適な怪談を作ってみよう!【怖い話を語ろう<後編>】
小学生に大人気の夏のエンターテイメントと言えば、「怖い話」ですね。世の中にはいろんな怖い話がありますが、収集してきたものをそのまま話すだけではもったいないです。どうせなら、児童たちの心を掴む、効果的な「怖い話」を作ってみませんか? 聞き手を引き込む話術を磨く、トレーニングにもなりますよ。
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
本記事は、前後編記事の後編です。前編はこちらをご覧ください。
目次
1 既存の話をアレンジしてみよう
長年、聞いている人を恐怖の世界へ引き込む稲川淳二さん。その巧みな語り口は、私たち教師にも活かせるテクニックが満載です。既存の怪談に、以下のような観点を加えることで、一気にエンタメ性がアップします。読み聞かせや授業で、児童たちの心を掴むためのヒントにもなりますよ。
① 自分の経験談風にアレンジする
まるで自分が体験したかのように、情景を細かく描写してみましょう。
「あの日、薄暗い廊下を一人歩いていると…」
など、具体的な言葉で臨場感を出すことで、聞き手の想像力を掻き立てます。
② 聞き手の反応を見る
児童一人一人の反応や顔色を見ながら話します。怖がっている子には優しく語りかけ、怖い演出の際には、興味津々な様子の子を見て話したり。また、ストーリーの合間に児童への問いかけを挟んでみると、当事者意識が増して、一層お話に引き込まれます。
③ 抑揚とスピード感と感情表現を豊かに
怖い話は、緊張と緩和の連続ですね。それぞれをのシーンで、話すスピードと抑揚、そして感情の込め方に気をつけて話してみましょう。恐怖の前段階では、声を低くしてゆっくりと語り、その瞬間が訪れるときには早口で声を高くして話したり。逆に、安心できる場面では、明るい穏やかなトーンで語って、聞き手を心を緩和させましょう。
④ 物語の余韻を大切に
怪談には、「オチ」がないことが多いです。これは、聞き手に対して、「もしかしたらあなたの身にも起こるかも」という当事者意識を与えたり、あるいは結末をあれこれ考えさせることで、余韻にひたれるようにしている効果があるためでなないでしょうか。
後述しますが、児童の発達段階に合わせて、怖いだけで終わらせないように配慮したり、児童たちが後々話題として盛り上がるようにしてあげるなど、フォローアップすることも忘れずに。
このようにちょっと自分なりにアレンジすれば、怖い話のストーリーテラーになれるかもしれません。
2 「怖い話」のサンプルストーリー
では、サンプルストーリーとして、次のお話を紹介します。
校庭の夜のブランコ
今日はね。みんなにね。ちょっと怖いお話をしようと思うんだ。ちゃんと聞いてね。
せんせいも知っているある学校の校庭にね。ひときわ大きなブランコがあるんだ。
昼間はこどもたちの元気な声で賑わっているんだよね。
でもね、夜になると、そのブランコはまるで生きているかのように、ひとりでに、ゆっくりと揺れ始めるという噂が広がっていました。
「ギーコ、ギーコ、ギーコ」
こんな音が聞こえて来るんだそうだよ。
大人たちは、
「古い遊具だから、風で揺れるんじゃない?」
と、こどもたちを安心させようとしました。でもね…。
実は、夜に近くを通りかかった子がいたんだよ。
そして、ブランコの「ギーコ、ギーコ、ギーコ」という音に混じって、
「エーン、エーン、エーン」
という、泣き声を確かに聞いたそうなんだ。
そんな噂を耳にした太郎くんは、ある日、勇気を振り絞って、夜の学校へと行ってみることにしました。
夜の校庭は真っ暗。道に明かりはついているけど、校庭まで光は届きません。
あたりは人っ子一人いなくて、静まりかえっています。
月のかすかな光に照らされたブランコは、黒い影のようです。遠くからでは、よく見えません。
そこで、太郎くんはゆっくり、ゆっくり、ブランコに近づいていきました。
ブランコは止まっているように見えましたが…。
「あれ? 何だか、かすかに動いているようにも見えるぞ?」
目の錯覚かも知れないと思った太郎くんは、ブランコの前に立ち止まって、ゆっくりと目を閉じました。そして、ゆっくりと目を開けると…。
そのとき、ブランコが音を立てて、はっきり揺れ始めました。
「ギーコ、ギーコ、ギーコ」
それは、まるで誰かが座って、ブランコをこぎ始めたかのようです。
あっ! 驚きのあまり凍りついた太郎くんは、ブランコをじっと見つめました。
ブランコの動きは、どんどん大きくなって、太郎くんの近くまで来るようになりました。
ブランコが近くまで来るようになって、太郎くんは気づいたことがあります。
ブランコの上には何か、人の形をした、真っ黒いかたまりのようなものが乗っているのです。
その証拠に、ブランコが近くまで来ると、ブランコの後ろの景色が真っ黒になって、見えなくなるのです。
「ギーコ、ギーコ、ギーコ」
その真っ黒いかたまりは、手のようなものを伸ばして、太郎くんに触ろうとしてきました。
でも、まだブランコの勢いが足りないので、太郎くんの身体までは届きません。
「逃げなきゃ!」
そう思った太郎くんですが、身体はピクリとも動きません。声も出せません。ただ目が見えるだけ、音が聞こえるだけで、まるで金縛りにあったかのようです。
「ギーコ、ギーコ、ギーコ!」
黒いかたまりは、さらに強くブランコをこぎました。
「やばい! さわられる!」
そう思った次の瞬間!
ビューっと強い風が吹いて、ブランコの動きを邪魔しました。
「ガタ、ガタ、ガタ」
ブランコは大きな音を立てて動きを止め、その音を合図にするかのように、太郎くんの身体は動くようになりました。
「うわぁぁぁ!」
太郎くんは腰を抜かしそうになりながら、その場から走って逃げました。
怖くて怖くて、震えがとまりませんでした。
そして、どんなふうに家に帰ったかも、全然覚えていませんでした。
あくる日、太郎くんは、その学校に昔から勤めている校務のおじさんに、昨日の出来事を話しました。おじさんは、太郎くんの話を聞いて顔色を変え、
「実は昔、その場所で、ある子がブランコから落ちて亡くなったって噂があるんだ…」
と教えてくれました。
太郎くんは、昨日の出来事とおじさんの話を結びつけ、背筋が寒くなりました。
あの黒い影は、太郎くんに助けを求めていたのでしょうか。
それとも、太郎くんに、一緒に遊んでほしかったのでしょうか。
太郎くんは、友達と一緒に、ブランコに花輪を飾り、供養することにしました。そして、みんなでブランコの前で手を合わせ、亡くなった子の冥福を祈りました。
「今度は、お昼にぼくたちといっしょに遊ぼうよ」
と心の中で伝えました。
すると、ブランコから不気味な音は聞こえなくなり、太郎くんも安心して過ごすことができるようになりました…。
でも、それは、昔のお話です。太郎くんは、とっくに大人になっています。
ブランコは、今でもその学校にあるそうです。
そして、ときどき夜の校庭からは、
「ケラ、ケラ、ケラ」
という笑い声や、
「ギーコ、ギーコ、ギーコ」
というブランコがきしむ音が聞こえてくるそうです。
今でも、亡くなった子が、大人になってしまった太郎くんの代わりに、遊んでくれる子を探しているのかも知れませんね…。
おしまい
3 教室での「怖い話」の配慮事項
教室で「怖い話」を語ることは、児童たちにとって楽しい経験となる一方で、注意すべき点もいくつかあります。特に、発達段階や個々の性格によって、恐怖の感じ方は大きく異なります。あくまで、自分がいる場所は安全な場所であるということを感じさせなければならないです。
以下に、「怖い話」を語る上での注意点を示します。
(1) 発達段階に合わせた内容を選ぶ
① 低学年
現実と空想の区別がつきにくい児童もいます。あまりにも恐ろしい話や、舞台を自校にするなどの具体的すぎるな描写は避けるのが無難です。
可愛らしいおばけや、優しい心を持った怪物など、ファンタジー要素を多く含んだものがおすすめです。
② 中学年
友だちとの関係や、将来への不安など、様々なことを考え始める時期です。身近な場所を舞台にしてリアリティを出すのは喜ばれますが、少し怖いけどちょっとほっとする話、面白い話などがよいと思われます。
③ 高学年
心理的な変化が激しくさまざまなことを考える時期です。大人向けのホラー要素を取り入れることもできます。しかし、過度な恐怖感は避け、友情や勇気、思いやりといった要素を盛り込むのが良いでしょう。
(2) ストーリーの3大原則を盛り込んでみよう
単なる恐怖感だけでなく、児童たちの心に何かを残せるような要素を取り入れることも素晴らしいと思います。ストーリーづくりの3大要素で、より強く記憶に残る「怖い話」を作り上げることができます。
① 友情
怖い状況の中でも、友情の大切さや、仲間との絆が深まるようなストーリーを展開しましょう。例えば、幽霊に追いかけられている仲間を助けに行く、と言ったシチュエーションです。
難関に立ち向かうには、人と人の支え合いが大事だということを伝えられます。
② 勇気
恐怖に立ち向かう気持ちの強さや、困難を乗り越える意志の力を物語の中に描き出すことで、児童に勇気を与えることができます。例えば、心霊スポットに一人で入り込む、というような場面で、主人公が恐怖心を克服し、目標を達成する姿を描くことで、児童は勇気をもらうことができます。
③ 成長
怖い体験を通して、主人公が成長していく姿を描き出すことで、児童に感動を与えることができます。例えば、臆病な子がこわい体験を通して、強くなる、というようなストーリーです。これにより、児童は自分自身と重ね合わせ、成長への意欲を高めることができます。
(3) 話し終えた後のフォローアップと振り返り
怖い話をした後には、必ずフォローアップを行いましょう。
① 感想を共有する
話し終えた後には、全員で感想を共有する時間を設けましょう。怖いと感じたこと、面白かったことなど、様々な意見を出し合うことで、子どもたちは自分の考えを言葉にする練習になります。また、友達の意見を聞くことで、多様な視点を持つこともできます。
② 不安な気持ちを解消する
怖いと感じて不安な気持ちを抱いている児童がいる場合は、個別で話を聞き、不安を解消してあげましょう。
例えば、
「大丈夫だよ。これはただのお話だからね」
「一緒に帰ろうか?」
など、子どもを安心させる言葉をかけてあげることが大切です。
③ 明るい話題へ
怖い話の後には、明るい話題に切り替えることで、子どもたちの心をリラックスさせましょう。例えば、面白い話や、ゲームなど、楽しい話題にシフトすることで、怖い話の印象を薄めることができます。
◇
「怖い話」を語ることは、児童たちの豊かな想像力を育み、創造性を刺激する素晴らしい機会です。しかし、年齢が低い子どもたちは、怖いものに敏感なため、注意が必要です。具体的な幽霊や怪物の描写を避け、可愛らしいキャラクターや優しい物語を取り入れることで、聞き手の心を安心させながら、同時に想像力を掻き立てることができるでしょう。また、予想外の展開にしたり、質問を投げかけたり、一緒に答えを探したりするなど、教室だからできる参加型の要素を取り入れることで、より一層楽しめます。暑い時期に少しでも涼しくなればいいですね。
本記事は、前後編記事の後編です。前編はこちらをご覧ください。
イラスト/坂齊諒一
【参考資料】
・稲川淳二『稲川淳二の恐いほど人の心をつかむ話し方 心に残る、響く、愛されるための38の方法』(ユサブル)
・稲川淳二『稲川怪談 昭和・平成傑作選』(講談社)
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。