「令和の日本型学校教育」における新しい学びとは

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「日本型学校教育」のよさを受け継ぎ、さらに発展させる「令和の日本型学校教育」はICT端末の活用が前提になります。授業スタイルが多様になり、子供自身が学び方を獲得することがさらに重要です。今後どのような学びのスタイルになるのかを、山梨大学教育学部准教授・三井一希先生の講演から紹介します(國學院大學人間開発学部教育実践総合センター第15回夏季教育講座 國學院大學教育実践フォーラム 基調講演より)。

講師/山梨大学教育学部准教授・三井一希

三井先生講演

2040年の日本はどうなるか?

これからは予測困難で変化が激しいVUCAの社会になっていくと言われています。VUCAとは次の4つの言葉の頭文字を並べたものです。

Volatility(変動性)
Uncertainty(不確実性)
Complexity(複雑性)
Ambiguity(曖昧性)

VUCA図版


16年後の2040年の日本は、3人に1人が65歳以上の高齢者になり、約1100万人分の労働力不足になると言われています。(※1)

みなさんがイメージしている「ふつうの人生」とはどのような人生でしょうか。高校・大学を卒業後、就職してその会社で定年を迎えるということでしょうか。
しかし、中学を卒業した1000人の子供たちのその後の進路を追跡すると、1000人中の970人が高校進学→896人が高校卒業→413人が4年生大学進学(現役進学者のみ)→331人が4年で卒業→240人が就職(正規雇用のみ)→163人が3年以内に離職せず(以上すべて1000人中)という調査結果(※2)があります。このような進路が、これまでの「ふつうの人生」と言われてきましたが、実際には1000人中837人は別の進路をたどっているということになります。
今は、年齢とステージが関係なくなり、人生が多様化しています。「ふつう」という定義も変化し、「ふつう」とは何かを考える時期になっています。そして、人生を通していかに自分自身が学んでいくか、自立した学びが必要になるのです。

(※1)出典:朝日新聞朝刊東京(2024.1.1)

(※2)出典:『現場で使える教育社会学ー教職のための「教育格差」入門』(中村高康、松岡亮二 ミネルヴァ書房 2021)

予測困難な時代に必要な資質・能力とは

教師のみなさんは、「授業を通じて子供たちに何を獲得させることが重要なのか」とよく考えると思います。予測困難な時代には、与えられる知識だけでよいとは言えません。子供たちには、学び方を獲得し、場面に応じて適切な学び方を適応できる力が必要となってきます。たとえとしてよく言われるのは、「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えよ」ということです。魚を与えるのはそのときだけで終わりますが、魚の釣り方を教えると、この先も繰り返し魚を手に入れることができるからです。

これから先も自力で学び続けられる方法知を授けることが重要なのです。今後、どんな場面でどんな方法が有効かは分かりません。そのため、子供たちに多くの学び方を経験させ、そのよさを実感させておくことが大切です。また、その中では、ICTの活用も当たり前となっていくでしょう。

日本型学校教育の課題と新たな動き

わが国で明治時代以降進められてきた「日本型学校教育」とは、子供たちの知・徳・体を一体で育む学校教育であり、以下の3つを保障しました。
・学習機会と学力の保障
・全人的な発達・成長の保障
・身体的・精神的な健康の保障

その成果として、「国際的にトップクラスの学力」「学力の地域差の縮小」「規範意識・道徳心の高さ」がありました。

しかし、時代の流れと共に以下のような課題が出てきています。

[今日の学校教育が直面している課題]
・子供たちの多様化
・情報化への対応の遅れ
・生徒の学習意欲の低下
・少子化・人口減少の影響
・教師の長時間労働
・感染症への対応

このような課題を踏まえて、「新学習指導要領の着実な実施」「学校における働き方改革」「GIGAスクール構想」を充実させることが、新しい時代の学校教育を実現していくことにつながります。

出典:中央教育審議会(2021)「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)(総論解説)

令和の日本型学校教育における学びのあり方

これからの学校には、〈略〉一人一人の児童(生徒)が、自分のよさや可能性を確認するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。

(平成29、30年改訂学習指導要領前文抜粋)

上記の学習指導要領前文にもあるように、令和の日本型学校教育では、子供一人一人を重視した個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実が必要です。そして、個別最適な学びでは、指導の個別化、学習の個別化が大切です。
指導の個別化とは、子供一人一人の特性・学習進度・学習到達度等に応じ、教師は必要に応じた重点的な指導や指導方法・教材等の工夫を行うようにすることです。つまり、一定の目標をすべての子供が達成することを目指し、異なる方法等で学習を進めることが重要になります。
そして、学習の個別化とは、子供一人一人の興味・関心・キャリア形成の方向性等に応じ、教師は子供一人一人に応じた学習活動や課題に取り組む機会を提供することです。

また、協働的な学びでは、子供一人一人のよい点や可能性を生かし、子供同士、あるいは地域の方々をはじめ多様な他者と協働するようにします。それは、異なる考え方が組み合わさり、よりよい学びを生み出すようになるからです。

個別最適な学び

個別最適な学びを充実させるためには、教師は以下のことに留意する必要があります。

1 子供が自ら学習を調整する機会を与えているか。
2 子供が自ら学習を調整しやすくする手だてを講じているか。
3 子供が自ら学習を調節することに向けた経験を積ませているか。
など。

次のような、多様な学びのカタチを設定することも必要です。

・教師と学ぶ。
・仲間と学ぶ。
・1人で学ぶ。
・地域の人々と学ぶ。

子供たちの情報活用能力の向上に向けて

GIGAスクール構想のなかで、目指す情報活用能力は、情報活用能力の底上げ、キーボードによる日本語入力スキルの向上(文字/分)が挙げられています。

情報活用能力の底上げ
小学生:レベル3(※)以下の割合減少
49.9%(R4)→20%以下(R8)

キーボードによる日本語入力スキルの向上
小学生:15.8字/分(R4)→40字/分(R8)

※情報活用能力を9段階(レベル9が最高)に分けて調査している(主な観点として、①基本的な端末操作等、②問題解決・探究における情報活用、③プログラミング、④情報モラル・セキュリティが含まれている)。

また、GIGAスクール構想第2期では、次のように端末のスペックが更新される予定です。

・標準メモリの容量が向上
・Wi-Fi6に対応
・両側カメラが必須
・タッチペンが必須

デジタルの導入と効果・効率のイメージは、以下のようなJカーブ効果(学習の初めは効果・効率が一旦下がるが、一定期間経つと効果・効率が上昇する)で考えます。具体的には、ICT端末のキーボードによる日本語入力のスキルが低いうちは、効果・効率が一旦下がりますが、スキルが上がってくると効果・効率が上がってきます。ICTの活用は手段ですが、手段になるにはそれを使いこなすスキルが重要になるのです。

Jカーブ効果図版

ICTを活用していく過程では、初めのうちは一時的に効果・効率は下がりますが、そのうちできるようになる!と考え、経験を積ませていくことが大切です。

個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実へ向けて

個別最適な学びと協働的な学びの一体化を実践している学校には、以下のような共通項が見られます。

授業視察を通して見えてきた共通項
 情報へのアクセスと、子供同士のつながりをクラウドが支えている(前提)。
 課題の達成へ向けて子供が選択し、学び方を調整する場面がある。
 学びを深めるための教師の適度な助言がある。
 追究しがいのある課題設定がなされている(子供がこだわりたくなる課題。子供の日常的な発想を超えるために教師が提示することもOK。質の高い課題が考えや対話を促す)。
 子供の学びを支援する手だて(学習の手引、学習過程の共有など)がある。

教師は、学習者の学びを支えるために、何ができるかを考えることが重要です。「個別最適な学び」を、「個別最適風の自習」にしないことが大切です。それには、次の例のような授業改善をしていくことが必要でしょう。

 ICT端末を使って、子供一人一人に学習目標、学習の流れ、ルーブリックを示す。
 ICT端末を活用して、教師が子供たちに教えたいことを資料にして示す(ヒントを出す)。
 子供自身が自分の力で教科書から情報を収集できる力を付ける(必要な情報を読み取る力を付ける)。
 ICT端末を活用して、他者の振り返りを閲覧できるようにし、お互いに興味をもたせる(様々な教科で振り返る)。
 ICT端末を活用して、子供一人一人に自分の目標を宣言させる(どんな姿を目指すのかの宣言)。
 授業内容をすべて板書するのではなく、方法やポイントにシフトすることも視野に入れる。
 どの教科も「ゴールをきめる」「しらべる あつめる」「まとめ はっぴょうする」「ふりかえり」などの流れを共通にして汎用的な学びの進め方(今自分は何をしているのかが分かる)をする。
 教師の説明はICTの動画(教えたいことを資料にする)にして、子供自身が自分の知りたいタイミングで見られるようにする。
 探究のサイクルの質を高めていく(整理や分析の質を高めていく)。
 学習者が自ら学びをデザインする。

子供のための個別最適な学びにするには、[自分に合った授業]×[学校に行くのが楽しい]が重要です。子供が自分に合った授業であると思うと、学校へ行くのが楽しくなります。そのために、教師は授業スタイルの引き出しを増やす必要があるのではないでしょうか。教師が授業を日々アップデートして磨いていくことが子供の学びにつながるのです。

また、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体化にするには、「個別最適な学び」が「孤立した学び」に陥らないよう、探究的な学習や体験活動等を通じ、子供同士で、あるいは多様な他者と協働することが重要です。さらに、集団の中で個が埋没してしまうことのないよう、一人一人のよい点や可能性を生かすようにすることが大切です。

三井一希先生

三井一希(みついかずき)
山梨大学教育学部准教授。1982年山梨県北杜市生まれ。熊本大学大学院教授システム学専攻修了、博士(学術)。山梨県公立小学校教諭、台北日本人学校(台湾)教諭、常葉大学教育学部専任講師を経て、2022年より現職。文部科学省ICT活用教育アドバイザー、日本教育工学協会理事、静岡県総合教育センター研究顧問、熊本大学教授システム学研究センター連携研究員等を歴任。

取材・文・構成・撮影/浅原孝子

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