子どものこだわり行動に心がけたい4つのポイント|8月【特別支援学級の学級経営】

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兵庫県公立小学校校長

関田聖和

文部科学省からは、すべての新任教員が10年以内に特別支援教育を複数年経験するよう努めるように通知が出されています。特別支援の知識や経験が乏しいまま、手探りで特別支援学級を担任している先生も多いことでしょう。この記事では特別支援学級でよくあるケースを挙げて、その道の専門家がポイント解説します。今回は、子どものこだわり行動についてのお話です。

構成・執筆/兵庫県公立小学校校長・公認心理師・特別支援教育士スーパーバイザー 関田聖和

登場人物

皆川先生:自閉情緒クラス担当。教師生活25年のベテラン。特別支援学級主任・特別支援教育コーディネーター

島原先生:知的クラス1担当。教師8年目。特別支援学級担任1年目

根本先生:知的クラス2担当。教師3年目。特別支援学級担任2年目

しゅんたさん:皆川先生担当。独特な自分の世界をもっていて、彼なりのルールがある。他人とは打ち解けるまでにかなり時間がかかる。粘土や工作などは緻密で動物などは本物そっくり、大人顔負けの作品を作りあげる。
長期目標:同じクラスの友だちといっしょに作品作りをすることができる 
短期目標1:大人といっしょに作品作りをすることができる

るなさん:島原先生担当。よく動く。出し抜けにしゃべる。思いついたことをすぐに伝えてしまう。言わないでいいことまで言ってしまうことがある。発想が豊か。次から次へと案が浮かぶ。
長期目標:会話のキャッチボールを楽しむことができる 
短期目標1:先生としりとりなどの遊びに取り組むことができる

ゆうかさん:根本先生担当。不注意。衝動性が高い。よく忘れてしまう。さまざまなことが気になってしまい、失敗することが多い。いろいろなことに気が付いてくれるので、友だちが忘れていたことを思い出してくれるようなことがある。
長期目標:タブレットで記録を取ることができる 
短期目標1:タブレットで必要な事柄を写真に撮ることができる

夏休みの研修会後のティータイムにて

(島原先生)
ふだん、なかなかこのような時間は取れないので新鮮ですね

(皆川先生)
そうよね。校内研修のあとに、ほっと一息なんてなかなかできないもの

(根本先生)
皆川先生、聞いてもいいですか!? いつも、しゅんたさんのこだわりをじっと待っていらして、イライラしないですか?

(皆川先生)
いつも、こだわりをじっと待っているわけではないわよ。やめさせなくてはならないこだわりと、やめさせなくていいこだわりがあるのよ

【POINT1】子どものこだわり行動に、支援者がこだわらないこと

子どもたちのなかには、特定のものや事象について、こだわって行うことがあります。自閉スペクトラム症のお子さんでよくみられることでしょう。

ついついそのこだわりが不適切なことだと、
「やめなさい」
「そんなことしちゃダメ」
と、ずっと関わってしまうことはありませんか。

支援する大人が、子どものこだわり行動にいつまでも関わってしまうと、やめてほしいこだわり行動が続いてしまう場合があります。だから、「こだわりには、こだわらない」が大切になります。

【POINT2】やめさせたいこだわりには、応用行動分析を取り入れてみる

子どものこだわり行動のなかには、以下のようなことに当てはまる場合があります。

  • 周囲の子どもたちの行動が妨害されること
  • 本人や周囲の人の安全や健康を損なうような危険なこと
  • 破壊行動
  • そのこだわりのために、本人が活動に参加できなかったり、経験が積めなかったりすること
  • そのこだわりのために、周囲の子どもたちに時間や費用などを費やしてしまうこと

これらのことがあると、こだわり行動をやめさせたいと考えてしまいがちです。しかしこだわり行動として定着してしまうと、本人が自発的にやめようとすることは難しいです。そこで、応用行動分析(ABA)を取り入れてみるのも一つの手です。

応用行動分析(ABA)についてはこちらの記事をご覧ください↓↓
不適切な言動を繰り返す生徒に、支援員として何ができますか?

【POINT3】不安や不快の要素を取り除く

してほしくないこだわりの多くは、不安や不快の感情を伴うことが多いようです。そこで、

1.こだわり(不適切行動)が起こるきっかけを変える
木の棒を見たら振り回す、のであれば、できるかぎり見えないようにします。

2.活動の見通しや活動のヒントを視覚化する
わからないから、不安になったりイヤな気持になったりして、不適切な行動が出るのであれば、不安や不快となるストレスを減らしていくことがポイントになります。活動のヒントをイラストや画像などで視覚化することで和らぐことでしょう。たとえば、活動内容の順番を数字を使って

1.下描き
2.ペンでなぞる
3.絵の具で色塗り
4.乾燥棚に作品をおく

などを文字とイラストで提示します。また体育や校外学習では、スケッチブックと太字油性ペンを持って外へ出ましょう。指示をする際は、できるだけ短い言葉をスケッチブックに書いて、見せながら話をします。これらは特別支援学級の子どもだけではなく、通常の学級の子どもへも指示が通りやすくなり、見通しをもちやすくなります。

3.「○○の時は、△△してもいい」と伝えるときは、本人への刺激を考えて行う

「今日だけ、いいよ」は、ほとんど通じないと考えてもらっていいでしょう。子どもがしたいと泣き叫んでも、そのおもしろい、楽しいなどの刺激が本人にとって強いものであると、一連の行動が記憶に定着してしまいこだわり行動になってしまうことがあります。

以前、バスの降車の際に押すボタンを押してほかの乗客を困らせてしまうお子さんに出会ったことがあります。そんなときはたとえば、「バスのボタンを子どもが押すときは、大人といっしょに押すんだよ」と、降りるバス停に合わせて、1つのボタンを保護者といっしょに押すということも考えられます。もちろん、これですべてがうまくいくとは限りませんが……。

4.こだわってもいい活動を仕組む

不安・不快ではなく、気持ちがよい・楽しいと感じるとその心地よさを求めて、このような刺激を得られることを探します。その子どもにとってわかる刺激や楽しめる刺激を提示することもポイントです。その子どもにとってわかる刺激や楽しめる刺激を提示することもポイントです。たとえば、本人の範囲だけで完結するような活動や、お片付けなどのクラスや周囲の役に立つことを褒めることによって、気持ちのよさを高めることも手立てになります。

【POINT4】こだわってもいい活動であっても、見通しをもたせる

しゅんたさんのような、大好きな粘土や工作の活動が、上記のPOINT2で挙げたケースに当たらなければ、その特性を伸ばすことも必要なのではないかと考えています。ただし、学校生活なので次の視点は必要になるでしょう。

■時間・場所・物を提示したり、確認したりする
■できないときには、代替行動を提案する

とくに活動の終了時間は、余裕をもたせて設定し、終わることができたら、褒めることを忘れないようにしましょう。そうすることで、終えるということへの強化をします。また、いつも成功するわけではない活動や、場所が限定するなどにこだわる場合は、本人が受け入れる代替案を用意しておくといいでしょう。

こだわりのあるお子さんの対応は、一筋縄に行きません。また、ネットや本に出ている事例が、目の前のお子さんにぴったり当てはまるものは、なかなか存在しません。保護者の方とも協力しながら、ひとつひとつ、子どもの背景理解に努めたいものです。

なるほど、“こだわりには、こだわるな”ですね

私のお酒へのこだわりは、どんどん伸ばしてもいいですよね

飲みすぎには、注意ですよ……(苦笑)


いかがでしたか? 子どものこだわり行動をやめさせようとすると、かえって逆効果になってしまうことも。“こだわりには、こだわらない”を心の片隅に留めて、子どもの活動を見守れるような余白をもちたいですね。

イラスト/terumi

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