子どもの「比べる」から深まる理科 【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#45

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

理科では「比較する」という思考操作が問題解決過程の様々なところで使われます。例えば、関連する2つの事象を見せ、子どもたちに比較させることで気づきを得たり、各個人の予想を互いに発表して比較したり、実験の結果を比較したりと様々です。
このように、問題解決をする理科の授業で「比較する」ことは切っても切り離せないのです。そのため、理科の「見方・考え方」の考え方では、「比較する」ことが入っています。今回は、理科における「比較」という思考操作の役割について考えてみましょう。

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.そもそも理科では何と何を比べるのか?

理科に時間での「比較する」という思考操作は様々なところにあります。以下に一例を挙げてみます。

資料1 比較例

このように一例を挙げてみると、「比較する」という思考操作では、①導入場面では問題を見出す際に、問題に繋がる事象に気づかせたり、観察の視点を明確にしたりする働きがありますし、それ以外の場面では他者の考えと自分の考えを比較することで、自分の考えをより妥当な方向へ導く働きなどがあると言えます。

2.比べて矛盾や違いがあると「どうして」「おかしいな」と感じやすい

理科において「比べる」という思考操作の良さについて考えてみましょう。比較すると、差異点や共通点が明確になりますが、ここでは比較し差異点を明確にすることの良さについて考えてみましょう。

⑴ 矛盾から疑問が出やすい

2つの事象を比較したときに違いがあったり、以前の自分の経験と目の前の事象との間に違いがあった際は、「どうして違いがあるのか」と疑問が出てきやすくなります。問題を見出す場面では、問題に繋がる事象に気づかせるために比較をします。

例えば、振り子の授業で、下のア・イの振り子を同時に動かして比較させ、「この2つの振り子の動きを見て気づいたことはありますか」と問います。
そして、「アの振り子は遅いけど、イの振り子は速い」という言葉を引き出します。ここで言えることは、ア・イの2つの振り子を比較することで「2つの振り子の速さの違いに気づかせている」という点がポイントです。

資料2 振り子

ここでの問題は「振り子の1往復する時間は何によって変わるのだろうか」の方向へ導きたいわけですから、まずは速さの違いに気づいてほしいということです。そして先生は「そうしてこの速さの違いがあるのかな」と問い、その原因として「長さなのかな?」「重さなのかな?」「振れ幅なのかな?」と疑問をもつように進めていきます。このように、比較することで疑問が出やすくなるというメリットがあります。

⑵ 違いから再検証されやすい

友達の考えと自分の考えに違いがあった際は、「おかしいな」「私のは間違っているのかな」と再検証するきっかけをつくりやすくなります。問題解決の様々な場面で自分の考えを振り返るために比較をします。

例えば、振り子の実験を各班で終え、1往復の平均時間を提示し合ったときです。自分たちの班の結果が他の班の結果と若干異なることがわかります。その時、「あれ、間違っているかも?」と思い、自分たちの実験方法が正しかったのか、考え直すことに繋がります。このように、比較することで自分の考えを再検証しやすいというメリットがあります。

3.比べて共通点があると「頭の整理」がされやすい

先程は、差異点がわかることの良さについて述べましたが、ここでは比較し共通点を明確にすることの良さについて考えてみましょう。

⑴ 共通点から「仲間分け」をしてモノを詳しくみることができる

理科では、問題解決において物事を分類することも多いです。
例えば、豆電球の実験では、導線の間に様々なモノを挟んで、豆電球が点くという共通点、点かないという共通点で、モノの仲間分けをします。
また、リトマス紙では、青が赤に変わった水溶液、赤が青に変わった水溶液、両方とも変わらなかった水溶液などで仲間分けをします。
このように比較することで、共通点から「仲間分け」ができ、さらにその仲間分けから、例えば「豆電球が点くモノは、何でできているのだろう?」と共通点を考えるなど、モノを詳しく見ることができるメリットがあります。

⑵ 共通点から「自分の立ち位置の明確化」ができる

複数の子どもたちで授業を進めている、という視点で共通点を考えてみると、自分と同じような考えの人がどのくらいいるのかを見る、という比較ができます。

例えば、「水は金属と同じように、温めたところから順番に温かさが広がる」と考えている子どもがいたとします。
そのような考え方の人が学級の中でどれだけいるのだろう、と、学級の友だちの考えを比較します。
それによって、自分の考えを見直したり、自信をもったりするなど、「自分の立ち位置の明確化」ができるというメリットがあります。

4.意図をもって「比較」させよう

このように「比較する」という思考操作は、理科の授業で非常に重要であることがわかりますね。
先生が子どもたちにどのような力をつけさせたいのか、何か気づかせたいのか、など意図をもって比較させる必要があります。ぜひ、何のために比べるのかを考えながら、授業に臨んでください。

振り子の動きを観察する子供

イラスト/難波孝

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寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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